この恋が運命じゃなくても

星川過世

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 俺は予想通りオメガだった。
 兄の龍之介がアルファだったから、まぁそうだろう。そう何人もアルファは生まれない。

 兄も父も僕がオメガであることにさして関心は払わなかったが、母だけが書類を見て顔を一瞬だけ顰めた。当時は何故かわからなかったが今ならまぁ、理由はわかる。

 というわけで診断が出た俺はウキウキで慎太郎さんに会いに行ったが、何の匂いもしなかった。
 今考えたら馬鹿らしいけれど、当時はまだ子どもだったからその事実に泣き崩れた。

 そうしたら慎太郎さんは俺を優しく抱きしめてくれたのだ。
 「俺達には運命なんて不確かなものじゃなくて、ともに過ごした確かな時間があるだろう」って。
 ますます慎太郎さんのことが好きで好きで堪らなくなった。運命とかいうわけのわからないもので縛っておきたくなった。

 慎太郎さんとでないなら運命なんてどうでもいいし、正攻法で慎太郎さんをオトす方向にチェンジした。
 ただ、もしいつか、慎太郎さんの運命の番が現れて慎太郎さんを攫って行ってしまったら。それだけが怖い。そうしたらもう、俺には勝ち目なんてないじゃないか。

 抱きしめてくれたあの日、てっきり慎太郎さんも俺のこと好きなのかと思ったけど、未だに弟扱いだし。

 あれから時間が経っても、俺が目移りすることはない。慎太郎さんが俺をそういう目で見てくれる様子もない。
 それでも現状が続くなら、悪くないかな、なんて思うこともあるけれど。

 「あ、瞬おはよう。今から仕事?」
 「おはようございます、慎太郎さん! 今日はゆっくりですね」
 「ああ、半休を取ったんだ。有給を取れと上はうるさいが、取っても仕事がたまるだけだし……」
 「立場のある人は大変ですねぇ」
 俺は平社員だが、慎太郎さんは立派な役職を持っている。なんの気なしに発した言葉だったけれど、一瞬慎太郎さんは固まった。
 「慎太郎さん……? すみません俺、なにか変なこと言いました?」
 「あ、いや……瞬は頭の回転も早いし、もっと昇進できるんじゃないか?」
 「……でも、オメガですから。ある程度はいけるでしょうけど」
 少しの沈黙の後、慎太郎さんは再び口を開く。
 「瞬は今の世の中を、おかしいと思わないの? バース性だけで判断されるなんて。優秀なオメガだっているのに」
 「……思いますよ」
 再び沈黙が落ち、待っていたバスが来た。
 「慎太郎さんが乗るのもこれですか?」
 「ああ、うん」
  
 バスに乗る瞬間、慎太郎さんが「ありがとう」と囁いた。「愚痴聞いてくれて」と。
 今のは愚痴だったのか。なら、なんて他人を思い遣った愚痴だろう。
 そういうところが好きだ。ずっと。
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