【完結】ハズレ召喚と言われたSubの俺。実はデミゴッド 〜優美な騎士団長から溺愛される〜

亜沙美多郎

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宿舎での暮らし

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 ジョシュアは自分の仕事を熟しながら宿舎内を案内してくれた。手際の良さには感心してしまう。

 俺たちの仕事は食事以外の家事全般。洗濯や共有スペースの掃除、木や花の手入れ。後は、たまに街まで配達も頼まれるらしい。

 仕事内容はそれほど難しくなさそうだが、これが五十人分というのが曲者だ。洗濯なんかはまさに体力勝負。この量の洗濯物を、ジョシュアはこんな小柄な体でやっていたのだ。

 これからはなるべく力仕事は俺が引き受けてあげよう……。なんて意気込んではみたものの、日本でいた時は洗濯機しか使ったことがない。道具を使うとは言え、コツが分からず初っ端から悪戦苦闘して、まるで役に立たなかった。

(魔術師、洗濯機くらい作ってくれればいいのに)


「ごめん……」

「大丈夫です!! 私、洗濯得意ですので!!」

 ジョシュアが腕捲りをして頼もしく笑う。この笑顔に救われる。

「毎日これだと大変だね」

「一応、使用人はあと二人いるので交代でやってるんですよ」

「そうなんだ」

 俺の不安そうな表情を読み取られた。

「大丈夫です。後の二人はnormalですから」

 隠す理由もないのであからさまにホッとした。

「君は凄いね。俺より若そうなのに、すごくしっかりしている」

「君じゃなくて“ジョシュア”って呼んでください! それに、若いって言ってももう二十歳ですから」

「そうなの!? ゴメン、てっきり十六歳くらいかと思ってま……した」

「あはは、今更無理に敬語を使わなくて良いですよ。私の口調は癖みたいなものなので気にしないでください」

 二人して笑っていた。ジョシュアは仕事をしながらお喋りできるのが嬉しいと言ってくれた。

 俺も騎士団員の宿舎に来られて良かったと思う。穢れを浄化しなければならないという押し付けがましい任務からも逃げられたし。Domに怯えて過ごす恐怖からも解放された。


 一日目の作業が全て終わると、部屋へ案内してくれた。

「個室を与えてくれるんだ」

 これは意外だ。さっきまでの流れからして野宿は覚悟していた。ジョシュアはそんな俺の一言に盛大に笑う。

「当たり前じゃないですか!! 部屋もなくてどこで寝ますか? 部屋もありますし、食事も出ますよ」

「それは、有難い」

 初めて異世界に飛ばされて良かったと思った。案内された部屋は宿舎の離れにあって、決して広くはないが、(ハッキリ狭いと言った方がいいだろう)それでも最低限のベッドにデスク、小さな収納に洗面台、トイレまで完備されていた。

 ジョシュアはすぐ隣の部屋。あと二部屋あるが、今は空き部屋になっているとのことだった。

「これは部屋の鍵です。この後直ぐにご飯です。明日からは朝早いのでなるべく体を休めてくださいね」

 使用人用の食堂、兼、共有スペースへ移動しても、もちろん居るのは俺とジョシュアだけだ。

 今日初めて会ったのに、俺たちはずっと話をしていた。

 俺が異世界から来たと話すべきか悩んだが、黙っておくのも変だし、意を決して打ち明けた。どんな反応をされるか怖かったが、真剣に聞いてくれたし、全てを受け入れ信じてくれた。

「本当にこんな話、信じられる?」

「勿論、信じますよ。マスクも無しに外にいられるなんて本当に驚きました。そもそも見慣れない服を着ていますし。荷物も何もありませんし。此処のこと、何も知らないって感じで、分かりやすくキョロキョロ見てますもん」

 やはりジョシュアは他人オレをよく見ている。恥ずかしくて顔が熱い。
 改めて自分の服装を見ると、雷に打たれた時のスウェットのままだった。異世界にはこんな衣類は存在してないのだろう。勿論、自宅で死んだから手ぶらだし。

(まぁ、準備しろと言われても特に何もなかったけど)

 とにかく、ジョシュアに本当のことを打ち明けて良かった。

 そして、会話の流れで俺はポケットから抑制剤を取り出した。

 あの豪雨の夜、生まれて初めてコマンドを使われメンタルがやられていた。それで、いつもは朝にしか飲まない薬を夜にも飲んだ。その後、無意識にスウェットのポケットに突っ込んだらしい。

 作業中、何気にポケットに手を入れて思い出した。

「これは何でしょう?」と首を傾げるジョシュアに抑制剤の説明をする。薬だと言うと「そんな高価なものいただけません」と両手で拒否されたが押し切った。

 Sub性も持っているジョシュアだから、持っているに越したことはない。

 なんとか受け取ってもらうと、ようやくそれぞれの自室へと向かう。

 与えられた部屋へ戻るや否や、ベッドに倒れ込み深く眠った。夢すら見ずに眠るなんて、記憶の限りない。思い返せば長い一日だった。異世界に来てまだ一日しか経ってないなんて信じられないほど、怒涛であった。



 
 翌日の朝、ジョシュアと共に花壇の手入れをしていると、遠目に圷と桐生、そしてパロミデルの姿が見えた。

 奴らの姿を見るだけで心臓が飛び跳ねる。見つからないよう、大袈裟に息を潜めた。

「……あの人たちも召喚されたんですか?」

 一緒になって身を潜めたジョシュアがヒソヒソと耳打ちをする。首をわずかに縦に振り答えた。

「どこに行くんだろう」

「あの方向だと、森へ行くんじゃないですかね? 街ならここから南になりますから」

 三人の背中を見送りながら観察する。騎士団員の宿舎、そしてルガイドの屋敷は小高い丘の上にある。そこから南東に進めば森、南に進めば街があるらしい。

「その森に何かあるってこと?」

「この充満している穢れの原郷です。あそこには魔獣がどんどん増えているって噂です。討伐に行った騎士団員が何人も襲われていますし、一般人の被害者も出始めたから、最近狩りも禁止されたんですよ。あの人たち、連れて行って大丈夫でしょうか……」

 そんな危ない場所に連れて行かれる予定だったのか! そんな危ない所だと、あの二人は聞かされているのだろうか。


 昨日はいきなりグレアやコマンドを乱用され、最悪だと思っていたが、そのおかげで呑気に暮らせるこっちに来られたのは、不幸中の幸いと言えるかもしれない。

「聞きたいんだけど、“聖女”ってそんなに凄いの? 昨日も言ったけど、俺たちは聖女だって言って召喚されたんだ。でもいきなりそんなこと言われて穢れを浄化なんて———」

「聖女様なら、穢れを浄化するなんて簡単なハズです。私もこの目で見たことなんてありませんが。もしあの方達が本当に聖女なら、この国を救えるかもしれません」

「そんなに、凄いんだ……」

 “聖女”なんて響きはもっと神聖で性格良さそうなイメージだけど、あんなに性格悪くても聖女になれるのは、少し……いや、カナリ腑に落ちない感じはする。

 部屋だってすごく豪華な部屋を与えられてそうだし、食事もたらふく食べたに違いない。俺は食事にありつけただけでも救われたと思う他ない。

 役立たずの俺が文句は言えないが……。

 圷や桐生の姿が見えなくなると、ジョシュアが立ち上がる。

「さぁ、朝ごはんを食べたら洗濯に取り掛かりましょう!!」

 スカートについた土を払うと離れに向かって歩き出す。

 今日もいい天気になりそうだ。俺も背伸びをしてジョシュアに続いた。


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