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三章〜クレール・ベルクール編〜
63 誕生
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ノアとノランの後から、続々とベルクール邸に全員が集まった。よくこの日に、みんなが近くに居たものだと感心する余裕はないけれども……。
「まだまだ産まれないよ、きっと」
「でも、居てもたってもいられなくて……お兄ちゃまの側にいたいんだ」
ノランも隣で頷いている。寮でいても、勉強が頭に入ってこないから……と最低限の勉強道具と、読みかけの本を持ってきたと言った。
その後、ヴィクトール様が。そしてエリアスお父様はマルティネス王子と一緒に居たらしく、クララ様を迎えた後、ベルクール邸へと足を運んでくれたようだ。
「クレール、体調は?」
ヴィクトール様が顔を覗き込む。
「朝よりも痛みは増してますが、アシルお母様はまだ時間がかかるだろうって……すみません。仕事、大丈夫でしたか?」
「ああ、商談が終わった直ぐだったからね。後は書類に目を通す作業だけだったから」
心配そうな表情を、なんとか隠そうとしてくれているのが伺える。
僕自身、まだ今から出産するというのが未知過ぎて、どんな感情でいればいいか分からない。
侍女が「医師が到着されました」と案内してきた。
「一旦、部屋を出よう」とエリアス様がリビングへと案内する。
僕はアシルお母様と目配せをして「リラックスしている」と伝えた。
屋敷が急に賑やかになったが、一人の時よりも安心出来る。
医師に診てもらいながらも、みんなの存在を感じられるのは良かったと思った。
「今夜あたりですかね。順調にいけば」
「そんなに、かかるのですか?」
まだ夕方だ。今夜とは、あと数時間後なのか、それとも深夜なのか明け方近くになってからなのか。夜の長さをこんなにも感じるのは初めてだ。
「まだ産道が硬い。動けそうなら、動いても構いませんよ」
「そうなんですか?」
医師は軽い感じで「ええ」と言って微笑んだ。
侍女にヴィクトール様を呼んでもらい、庭を散歩する事にした。
「運動した方が、産道が柔らかくなりやすいんだそうです」
「なるほど、色々と勉強不足だった」
「僕も知りませでしたから」
ヴィクトール様は度々僕の体調を気遣いながら空が薄暗くなるまで歩いた。
「そろそろ戻ろう。痛みは?」
「だんだん、痛くなってきたような気がします」
「後はクレールと医師に任せるしかない。何もしてやれないのが残念で仕方ない」
「そんなことありません。僕はヴィクトール様やみんなが近くにいてくれてると思うと、とても心強いです。きっと元気な赤ちゃんを産みますよ!」
ヴィクトール様は僕の肩を抱き、寝室まで戻った。
赤ちゃんの名前は、ヴィクトール様が顔を見て決めると言ってくれている。
僕は産むことだけを考えようと思った。
それから数時間の間に、食事や湯浴みを済ませ、ベッドに入る。陣痛が酷くなるまではヴィクトール様に隣にいてもらった。
今夜は満月だとノランが話していたようだ。
夜空を想像しながら意識を腹に持っていく。
時間が経つほどその痛みは増し、声を出さずには耐えられない程になってきた。額に汗が滲み、ベッドサイドに設けられた柵を握りしめ、もがき苦しむ。
そうなってから、医師はヴィクトール様に部屋から出るよう指示を出す。
「クレール、祈っているよ」
手の甲に口付けると、退室した。
「いっっいたい。いたい。んぁぁぁぁ……!!」
泣く程の痛みなのに、医師は平然と「まだまだですね」と言って、助手に僕が力むタイミングを指示している。
いや、医師が平然としてくれているから、まだ頭の中で冷静な部分を保てているのかもしれない。
それでも定期的に訪れる痛みは上限を知らないかのように、その勢力を増している。
定期的に訪れる痛みを何度繰り返しただろうか。医師の様子が少しづつ変わっていく。
「クレール様、頭が見えております」
正直、やっと頭だけ? と思った。
あと何度この苦しみを乗り越えればいいのだ。
「痛い時は赤ちゃんが頑張っている時ですよ」
助手に声をかけられハッとした。
そうだ、頑張っているのは赤ちゃんの方なのだ。気持ちがとても楽になった。
必要以上に力んでいたようだが、ふっと力が抜ける。そして……
部屋に赤ちゃんの泣き声が、響いたのだった。
「まだまだ産まれないよ、きっと」
「でも、居てもたってもいられなくて……お兄ちゃまの側にいたいんだ」
ノランも隣で頷いている。寮でいても、勉強が頭に入ってこないから……と最低限の勉強道具と、読みかけの本を持ってきたと言った。
その後、ヴィクトール様が。そしてエリアスお父様はマルティネス王子と一緒に居たらしく、クララ様を迎えた後、ベルクール邸へと足を運んでくれたようだ。
「クレール、体調は?」
ヴィクトール様が顔を覗き込む。
「朝よりも痛みは増してますが、アシルお母様はまだ時間がかかるだろうって……すみません。仕事、大丈夫でしたか?」
「ああ、商談が終わった直ぐだったからね。後は書類に目を通す作業だけだったから」
心配そうな表情を、なんとか隠そうとしてくれているのが伺える。
僕自身、まだ今から出産するというのが未知過ぎて、どんな感情でいればいいか分からない。
侍女が「医師が到着されました」と案内してきた。
「一旦、部屋を出よう」とエリアス様がリビングへと案内する。
僕はアシルお母様と目配せをして「リラックスしている」と伝えた。
屋敷が急に賑やかになったが、一人の時よりも安心出来る。
医師に診てもらいながらも、みんなの存在を感じられるのは良かったと思った。
「今夜あたりですかね。順調にいけば」
「そんなに、かかるのですか?」
まだ夕方だ。今夜とは、あと数時間後なのか、それとも深夜なのか明け方近くになってからなのか。夜の長さをこんなにも感じるのは初めてだ。
「まだ産道が硬い。動けそうなら、動いても構いませんよ」
「そうなんですか?」
医師は軽い感じで「ええ」と言って微笑んだ。
侍女にヴィクトール様を呼んでもらい、庭を散歩する事にした。
「運動した方が、産道が柔らかくなりやすいんだそうです」
「なるほど、色々と勉強不足だった」
「僕も知りませでしたから」
ヴィクトール様は度々僕の体調を気遣いながら空が薄暗くなるまで歩いた。
「そろそろ戻ろう。痛みは?」
「だんだん、痛くなってきたような気がします」
「後はクレールと医師に任せるしかない。何もしてやれないのが残念で仕方ない」
「そんなことありません。僕はヴィクトール様やみんなが近くにいてくれてると思うと、とても心強いです。きっと元気な赤ちゃんを産みますよ!」
ヴィクトール様は僕の肩を抱き、寝室まで戻った。
赤ちゃんの名前は、ヴィクトール様が顔を見て決めると言ってくれている。
僕は産むことだけを考えようと思った。
それから数時間の間に、食事や湯浴みを済ませ、ベッドに入る。陣痛が酷くなるまではヴィクトール様に隣にいてもらった。
今夜は満月だとノランが話していたようだ。
夜空を想像しながら意識を腹に持っていく。
時間が経つほどその痛みは増し、声を出さずには耐えられない程になってきた。額に汗が滲み、ベッドサイドに設けられた柵を握りしめ、もがき苦しむ。
そうなってから、医師はヴィクトール様に部屋から出るよう指示を出す。
「クレール、祈っているよ」
手の甲に口付けると、退室した。
「いっっいたい。いたい。んぁぁぁぁ……!!」
泣く程の痛みなのに、医師は平然と「まだまだですね」と言って、助手に僕が力むタイミングを指示している。
いや、医師が平然としてくれているから、まだ頭の中で冷静な部分を保てているのかもしれない。
それでも定期的に訪れる痛みは上限を知らないかのように、その勢力を増している。
定期的に訪れる痛みを何度繰り返しただろうか。医師の様子が少しづつ変わっていく。
「クレール様、頭が見えております」
正直、やっと頭だけ? と思った。
あと何度この苦しみを乗り越えればいいのだ。
「痛い時は赤ちゃんが頑張っている時ですよ」
助手に声をかけられハッとした。
そうだ、頑張っているのは赤ちゃんの方なのだ。気持ちがとても楽になった。
必要以上に力んでいたようだが、ふっと力が抜ける。そして……
部屋に赤ちゃんの泣き声が、響いたのだった。
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