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番外編〜エリアスとアシルの出会い編〜
エリアスとの距離
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公務も忙しいエリアスは毎日とはいかずとも、僅かな時間にも足繁く通い詰めた。
クラリッサが来る日はハーブ園へ、それ以外は例え窓越しであったとしても顔を合わせるようにした。
最初は終始身構えていたアシルも、一ヶ月も過ぎれば少しずつ会話も続くようになってきた。
それでも触れようとすれば過敏に体を竦ませ怯えている様子を見せる。
(まだまだか)
落胆してしまうが、今まで危ない目にも遭ってきたとクローシャー伯爵が言っていたのを思い出す。トラウマは、簡単には払拭されない。
長期戦は覚悟していた。しかしアンナとの婚約発表パーティーが開催される前には解決しなければならない。こうして彼女の目を盗んで別邸に通うのも限界がある。
早く本邸に連れて行きたい。焦ってはいけないと言い聞かせても、アシルの顔を見る度に胸が焦げ付くような痛みを覚える。
この華奢な体を包み込んでみたい。自分だけのものだという証を刻み込みたい。
クラリッサに向ける屈託ない笑顔を、早く自分にも見せて欲しい。
欲望ばかりが膨れ上がる。
少しずつ、前進している手応えはある。
ここにきた直ぐの頃は会ってさえもらえなかったのだ。アシルが窓際に近寄ったりもしない。
別邸は常にひっそりとしていて、人が住んでいるとはとても思えなかった。
今、こうしてアシルとの時間を持てるようになったのは、紛れもないクラリッサのお蔭だと言える。自分一人では、まだ何も進展していなかったかもしれない。
いや、どうにか策は練っていただろうが、二人きりで話せるまでにはなっていなかっただろう。
「今日は会えない」
ポツリと呟き、馬車へ乗り込む。
「エリアス様、今日はどちらへ行かれるのでしょうか」
後から追いかけてきたアンナに声をかけられる。
「学校の教授に呼ばれているのだ。帰りは遅くなる」
「まぁ。それは私は同席できませんの? 久しぶりにお会いしたいですわ」
「内容を知らされていないから、今日のところは私一人で行く」
「……かしこまりました」
残念そうに俯く。
教授と体の関係にあったと、エリアスが知らないと思っているのだろう。その対価に点数稼ぎをしていたとも。
憐れな女だと、それ以降は無言で扉を閉めさせ出発した。
一日中エリアスがいないともなれば、アンナはきっとどこかで男を漁るのだろう。
こんな女がベルクール家の正妻だなんて、恥晒しも良いところだ。
「絶対に、婚約破棄してみせる。私の心にはアシルしかいない」
固く誓った。
✦︎✧︎✧✦
エリアスはハーブ園でお茶をした日から、頻繁に会いに来てくれるようになった。
部屋を訪ねる日は必ず予めカードを送ってくれる。これは、アシルが抑制剤を飲むタイミングを計算出来るよう、気を遣ってくれているのだろう。
毎日会えるわけではないが、少しずつ慣れてきたこの頃では、屋外で会うくらいはいつも通りの薬でも安心出来るようになっている。
触れられるのはまだ身構えてしまうが、決して嫌なわけではない。むしろ嬉しい。
普段使う言葉と同じくらい、エリアスは丁寧な手付きでアシルに触れる。大切にされているのだと実感している。
次に会った時には、勇気を出して私物を借りられないか聞いてみたいと思うようになっていた。
次の発情期まで1ヶ月ほどあるが、これだけエリアスと顔を合わせていれば早まってもおかしくない。流石に発情期中には会えない。
これまでも一人きりで過ごしてきたが、もしもエリアスの匂いがあれば、心強いのではないかと期待してしまう。
今日は朝から出掛けていくところを窓から見ていた。アンナが見送っていたのも。
婚約者なのだから当たり前なのに、胸が苦しかった。
あの場所にいるのが自分だったら……想像して、かぶりを振る。
欲張ってはダメだと言い聞かせても、エリアスの香りに包まれる日を夢見てしまう。
「アシル様、そろそろハーブ園へ行かれますか? 今日はエリアス様は不在のようですね。お茶の準備は如何なさいますか?」
クラリッサの明るい声でドアの方を振り返る。
「折角なので、たまには二人でお茶会をしましょう」
「二人お茶会! 素敵ですね。では早速参りましょう」
ここの仕事にも慣れて、クラリッサは益々頼もしくなっている。
以前のように、建物の裏に隠れて移動する必要もなくなり、二人で鼻歌を歌いながらハーブ園へと向かう。
風が随分温かくなった。
空は抜けるように高く、鳥の囀りが耳に心地良い。
ひと時、色んな花やハーブを見て楽しんだ後、ガゼボにクラリッサと並んで座った。
「そういえば新しい本を図書館で借りて来たので、後ほどお持ちしますね」
「本当ですか? クラリッサが選んでくる本はどれも面白くて、早く次が読みたいと思っていたんです」
会話も弾む。
今日もハーブ園からは賑やかな笑い声が響いていた。
「……誰か来る」
ふとアルファの気配を感じ、入口に目をやる。
エリアスではない。
ベルクール公爵家の誰かだろうか、それとも……。
「御機嫌よう、アシルさん」
姿を現したのはアンナだった。エリアスが不在の時を狙っていたのだろう。
アシルとクラリッサに緊張が走る。
アンナは高笑いをし「そんなに怖がらないで下さらない?」蔑む視線で、アシルを威圧した。
クラリッサが来る日はハーブ園へ、それ以外は例え窓越しであったとしても顔を合わせるようにした。
最初は終始身構えていたアシルも、一ヶ月も過ぎれば少しずつ会話も続くようになってきた。
それでも触れようとすれば過敏に体を竦ませ怯えている様子を見せる。
(まだまだか)
落胆してしまうが、今まで危ない目にも遭ってきたとクローシャー伯爵が言っていたのを思い出す。トラウマは、簡単には払拭されない。
長期戦は覚悟していた。しかしアンナとの婚約発表パーティーが開催される前には解決しなければならない。こうして彼女の目を盗んで別邸に通うのも限界がある。
早く本邸に連れて行きたい。焦ってはいけないと言い聞かせても、アシルの顔を見る度に胸が焦げ付くような痛みを覚える。
この華奢な体を包み込んでみたい。自分だけのものだという証を刻み込みたい。
クラリッサに向ける屈託ない笑顔を、早く自分にも見せて欲しい。
欲望ばかりが膨れ上がる。
少しずつ、前進している手応えはある。
ここにきた直ぐの頃は会ってさえもらえなかったのだ。アシルが窓際に近寄ったりもしない。
別邸は常にひっそりとしていて、人が住んでいるとはとても思えなかった。
今、こうしてアシルとの時間を持てるようになったのは、紛れもないクラリッサのお蔭だと言える。自分一人では、まだ何も進展していなかったかもしれない。
いや、どうにか策は練っていただろうが、二人きりで話せるまでにはなっていなかっただろう。
「今日は会えない」
ポツリと呟き、馬車へ乗り込む。
「エリアス様、今日はどちらへ行かれるのでしょうか」
後から追いかけてきたアンナに声をかけられる。
「学校の教授に呼ばれているのだ。帰りは遅くなる」
「まぁ。それは私は同席できませんの? 久しぶりにお会いしたいですわ」
「内容を知らされていないから、今日のところは私一人で行く」
「……かしこまりました」
残念そうに俯く。
教授と体の関係にあったと、エリアスが知らないと思っているのだろう。その対価に点数稼ぎをしていたとも。
憐れな女だと、それ以降は無言で扉を閉めさせ出発した。
一日中エリアスがいないともなれば、アンナはきっとどこかで男を漁るのだろう。
こんな女がベルクール家の正妻だなんて、恥晒しも良いところだ。
「絶対に、婚約破棄してみせる。私の心にはアシルしかいない」
固く誓った。
✦︎✧︎✧✦
エリアスはハーブ園でお茶をした日から、頻繁に会いに来てくれるようになった。
部屋を訪ねる日は必ず予めカードを送ってくれる。これは、アシルが抑制剤を飲むタイミングを計算出来るよう、気を遣ってくれているのだろう。
毎日会えるわけではないが、少しずつ慣れてきたこの頃では、屋外で会うくらいはいつも通りの薬でも安心出来るようになっている。
触れられるのはまだ身構えてしまうが、決して嫌なわけではない。むしろ嬉しい。
普段使う言葉と同じくらい、エリアスは丁寧な手付きでアシルに触れる。大切にされているのだと実感している。
次に会った時には、勇気を出して私物を借りられないか聞いてみたいと思うようになっていた。
次の発情期まで1ヶ月ほどあるが、これだけエリアスと顔を合わせていれば早まってもおかしくない。流石に発情期中には会えない。
これまでも一人きりで過ごしてきたが、もしもエリアスの匂いがあれば、心強いのではないかと期待してしまう。
今日は朝から出掛けていくところを窓から見ていた。アンナが見送っていたのも。
婚約者なのだから当たり前なのに、胸が苦しかった。
あの場所にいるのが自分だったら……想像して、かぶりを振る。
欲張ってはダメだと言い聞かせても、エリアスの香りに包まれる日を夢見てしまう。
「アシル様、そろそろハーブ園へ行かれますか? 今日はエリアス様は不在のようですね。お茶の準備は如何なさいますか?」
クラリッサの明るい声でドアの方を振り返る。
「折角なので、たまには二人でお茶会をしましょう」
「二人お茶会! 素敵ですね。では早速参りましょう」
ここの仕事にも慣れて、クラリッサは益々頼もしくなっている。
以前のように、建物の裏に隠れて移動する必要もなくなり、二人で鼻歌を歌いながらハーブ園へと向かう。
風が随分温かくなった。
空は抜けるように高く、鳥の囀りが耳に心地良い。
ひと時、色んな花やハーブを見て楽しんだ後、ガゼボにクラリッサと並んで座った。
「そういえば新しい本を図書館で借りて来たので、後ほどお持ちしますね」
「本当ですか? クラリッサが選んでくる本はどれも面白くて、早く次が読みたいと思っていたんです」
会話も弾む。
今日もハーブ園からは賑やかな笑い声が響いていた。
「……誰か来る」
ふとアルファの気配を感じ、入口に目をやる。
エリアスではない。
ベルクール公爵家の誰かだろうか、それとも……。
「御機嫌よう、アシルさん」
姿を現したのはアンナだった。エリアスが不在の時を狙っていたのだろう。
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