【完結】『拝啓、親愛なる王子殿下』代書屋オメガの秘めたる愛を綴ります。

亜沙美多郎

文字の大きさ
25 / 85
第二章

人形

しおりを挟む
 奴隷の子は私を引っ張って湯浴みに連れて行ってくれた。
 きっと、ドミナクス辺境伯が帰ってくるまでに、体を綺麗にしておくよう命令されているのだと思った。
 喋れない代わりに、私の手を引いている奴隷の子は少し逞しく思える。

 さっきの握手が良かったのか、『触れる』ことへの抵抗がなくなったように感じた。
 奴隷の子は肌がボロボロであかぎれも見られるが、痛々しいその手からは優しさを感じる。
 単身、辺境地に引っ越し、もしもドミナクス辺境伯と私だけの生活ならば既に根を上げていた。奴隷の子を世話係につけてくれたのは、むしろ僥倖と言えた。

 もしも奴隷の子が喋れたなら、沢山話が出来たのにと、少し残念に思ってしまう。
 どんな声をしているのだろうか。どんな話し方をするのだろうか。
 故郷はどこなのか……。互いにオメガという第二次性ゆえ、それほど楽しい思い出はないかもしれない。けれどそれはそれで、共感し合える仲間のような気もした。

 奴隷の子と過ごす時間は少なからず私を癒してくれた。

 ドミナクス辺境伯のことも、二人でいる時だけは忘れられた。

 湯浴みで体を綺麗に洗ってもらい、また部屋へ戻る。
 足腰は崩れそうなほど痛いし、何よりも孔の傷が治るまではそっとしておいて欲しい。
 けれど、そんな私の都合などドミナクス辺境伯が気を利かせてくれるはずもなく、夜遅く、晩酌を済ませた辺境伯が上機嫌で部屋を訪れた。

 今日はもう来ないと思っていた矢先のことだった。

 ほろ酔いのドミナクス辺境伯はアルコール臭を漂わせながら、朝にも使った発情誘発剤入りの香油を手に持っている。

「今日の徴税は最高だったなぁ。いや、徴税ではない。寄進だ、寄進!! 婚約者を迎え入れたと発表したら、領民から祝いがたんまりと届いたわ。城の一部改築までにはもう少し必要か……。まだ払っていないやつは記録させてるがな。まぁ今日は気分がいい。お前も役に立てることがあったじゃないか。褒美に夜も可愛がってやる」

 窓を開け、夜空を眺めていた私は身を強張らせ、後退りをする。
 朝の苦痛を思い出し、心拍が急速に激しくなるのを感じていた。

 ドミナクス辺境伯は、奴隷の子が言いつけ通り私を湯浴みさせ、シーツを新しいものに取り替えているかを確認すると、力任せに私をベッドに押し倒した。
 孔の痛みが蘇る。

 しかしこの男が容赦ないと知ってしまった。
 どこにも逃げられない。抵抗せず、ただ終わるのをひたすら待つしかない。
 発情誘発剤は無理矢理オメガのヒートを呼び起こすため、自然に起こるヒートの何倍も苦しむ。
 一日の内に、二度もそれを経験させられるとは考えていなかった。

 感情を無にする。
 胸の痛みにも気付かないふりをする。
 私は傷付いていない。
 体の奥が湧き上がる熱も、オメガの本能も、自分の意思とは全く別のところで作用している。
 だからこれは私が受けている屈辱ではない。

 幸か不幸か、朝に一度捩じ込まれていたことで、恐れていたほどの痛みには達しなかった。
 何度も体をぶたれたが、五感を全て無にすればどうということはない。
 今の私は、ドミナクス辺境伯の人形なのだ。子供が無邪気に乱暴をする。その人形になったと思えばいい。

 発情誘発剤によるヒートが治るまでに、ドミナクス辺境伯は二度吐精した。
 当たり前に私の子宮を目掛けて放出した。

 ……終わった。が、まだ油断してはいけない。
 この男が部屋から出るまでは、何を言い出すか予想がつかない。
 虚な視界で解放される時をじっと待つ。
 今夜は酔いも回っているからか、特にそれ以上求められることもなく終わり、安堵した。

 感情を取り戻すと、全ての痛みが一気に襲ってきそうで憚られた。
 それでも体内にたっぷりと出された精液だけは掻き出したい。
 どうせ何をどうしても痛みが消えるわけではない。
「うっ……」傷口になるべく触れないようにと慎重になるも、なかなか難しい。
 唇を噛み締めながら、少しでも流し出そうと腹から力む。

 ドミナクス辺境伯の好きに弄ばれたあとは、不快感しか残らない。
 今回も私は淫蕩もせず、熱が静まるのを願うだけだった。

 それからも毎日一回、機嫌がいい時と悪すぎる日は二回、ドミナクス辺境伯は私の部屋へと通い詰めた。
 
 アルファ性を解放しても反応がないため、毎回、発情誘発剤を孔に塗り込められたが、それも日を追うごとに効きが悪くなってきているように感じる。使い過ぎてヒート自体を起こさなくなり始めていた。
 ここへ来てから、満月が一周まわった頃だった。

 ドミナクス辺境伯の機嫌は悪かった。
 アルファ性でもヒートを誘えず、特注で作らせた誘発剤も効果が無くなってしまっている。
 香油があればセックス自体はできるが、ドミナクス辺境伯の好むヒートセックスは叶わない。

 最近、徐々にセックスよりも暴力を振るうのが目当てに変わり始めていた。

 最初こそ平手でぶっていたのが、ついに鞭を持ち込んできたのが三日前だった。
「素手でぶっても、もう刺激が足りないだろう。もっと強い刺激を与えてやる」
 思い通りにならない腹いせに、背中に鞭を打たれた。
「ふっ!! はぁ……」

 最初に孔が裂けた痛みなど比にならない。
 自分が罪人にでもなった気分だ。
 こんな拷問が毎日続くなら、いっそ命を終わらせてほしい。

 自分を信じて、諦めないでとサラやエルネスト王子殿下は言ってくれたが、とてもそんな心の状態ではない。それが出来るのは、側にサラやエルネスト王子殿下がいる時だけなのだ。

 ドミナクスが退室し、私は朦朧とした意識で、エルネスト王子殿下から頂いたプレゼントを鞄の奥に隠したままだったと思い出す。
 手紙を一度書いたきり、夜空を眺める余裕さえ無くしていた。
 ベッドの下に片付けてある鞄を取り出し、中からエルネスト王子殿下のハンカチーフを取り出す。

 カバンで密封されていたからか、エルネスト王子殿下の匂いはまだ消えていなかった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...