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第三章
エルネストの本気
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「クロマさん、報告したいことがあります」
「どうした、改まって」
余程楽しい時間を過ごしたのか、クロマの顔は緩みっぱなしだ。
本当は賑やかなのが好きだから、今日は家族団欒を思い出していたのかもしれない。
サラもお喋りが好きだし、レインマークも打ち解けている様子だった。
どうりで、あれだけ長時間エルネスト王子殿下と話していても誰も呼びに来ないわけだ。
「……やっぱりその前に、ハーブティーを飲みたいです」
「よし、カモミールティーにしよう。疲れただろ」
クロマは発情期明けに、突然、色んな事が起こりすぎたのを気にかけてくれた。
「さっきは、ありがとうございました」
取り乱した時のお礼を言う。
「私は掃除をしただけだ。掃除っていっても床をちょいと拭いただけ。出番はあっという間に終わった」
肩を竦めて残念そうに言った。
ハーブティーの準備をしながら、クロマはサラを話題に出てきた。
「あのサラって人は本当に出来た方だ。エクラだけじゃなく、アッシュヴェイル第三王子殿下も誘導されていたじゃないか。侍女にしておくのはもったいない」
「出来た人だから侍女が務まるんです。サラは素晴らしい侍女です。私を本当の子供のように叱咤激励してくれました」
クロマがサラの良さを解ってくれて、つい自慢してしまった。
「サラも同じように言ってたぞ。エクラを本当の子供のように思っていると。そんで、レインマークさんが殿下に詰め寄るサラの迫力に圧倒されて、思い出し笑いまでされていた」
「クロマさんたちが盛り上がってくれたおかげで、私もゆっくり喋れました」
「何よりだな。で、報告ってのは?」
「あ、あの……、プロポーズされました」
「そうか……」私の言葉にクロマは顔を綻ばせた。
「お祝い、しないとな」
「気が早いですよ。それに……私を慰めるために言ってくれてただけですから」
「プロポーズを慰めなんかで言うものか」
私は肩を落とし、膝に載せている指先を見る。
「……私はただの平民です。王家に入れるはずはありません。そのくらい弁えています」
エルネスト王子殿下とは身分差がありすぎる。
私がドミナクス辺境伯へのトラウマで発作を起こし、心配してくれた。
再会してしまえば、会えなくなるのは寂しい。
恋人は叶わずとも、せめて会いたい。店員としてで構わない。
ただ時には顔を合わせてあの頃みたいに話がしたい。
クロマはハーブティーを淹れる手を止め、私の話に耳を傾けていた。
背を向けたまま頷きもせず。
すると急に振り返って「望みがないわけではないだろう」と切り出したのだ。
「あのお方が何も考えずに口から出まかせを言う人ではないと、エクラだって知っているはずだ。何かお考えがあるに違いない」
「でもどう考えても王族と平民では無理です。エルネスト王子殿下がそれを知らずに言っているわけではないでしょう?」
「……信じよう、エクラ。今日は全てを話し合うには時間がなかった。でも二人の時間はこれからたっぷりあるじゃないか。現状だけで判断するのは良くない。全く、エクラは自分のこととなると途端に自信暗記になる。それは相手からすると悲しいことだぞ」
「だって……自信なんてありません」
「自分のことは信じられなくても、アッシュヴェイル第三王子殿下は信じられるだろう?」
あ、そうだ……。腑に落ちて納得した。
私は自分に自信はない。伯爵家でも存在しないものとして扱われ、ドミナクス辺境伯から奴隷扱いをされ、爵位を捨て逃げ出してからようやく人らしい生活が送れるようになった。
また貴族に戻れと言われても荷が重いというに、ましてや王族に入るなんて想像もできない。
けれどそれは私本意の話である。
エルネスト王子殿下はそうではない。クロマの言っている『アッシュヴェイル第三王子殿下としての考え』は絶対にある。私に意思があるのと同じように。
今日はそこまでの話をする時間はなかった。
次に来てくれた時に、具体的な話をしてくれるのだろうか。
「私とエノ様が結婚する具体案……」
考えただけで気恥ずかしい気もする。なんせ私は恋愛経験がなさすぎる。
それに、ここでクロマと平穏な人生を送る予定だったのだ。
エルネスト王子殿下の行動は早かった。
三日後、店を訪れたエルネスト王子殿下は私も知っている方と一緒だった。
「やぁ、やはり君が代書役の子だったんだね。確かパブロフ君から情報提供してもらった時に、店の隅にいたね」
「覚えていてくださり、光栄です。レオナルト公爵様」
「そんなに固くならでくれ。私の方が世話になっているくらいだ。それに今日はエクラ、君に養子の提案をしに来たんだ」
「養子……ですか?」
話が唐突すぎて、レオナルト公爵とエルネスト王子殿下の顔を交互に見る。
エルネスト王子殿下はプロポーズの後、その足でレオナルト公爵の許へ行ったらしい。
「結婚したい相手がいるが、身分の差がありすぎる。だから養子にしてもらえないだろうか。開口一番エルネスト殿下に言われ、勿論動揺した」
レオナルト公爵は苦笑いを浮かべた。
エルネスト王子殿下が興奮気味に詰め寄ってくるなど、これまでの付き合いで初めての経験だったらしい。
「エルネスト殿下を子供の頃から知っているが、あんな殿下は初めて見た」と笑う。
「善は急げですから。俺は過去を反省し、いつでも大丈夫なんて理想は捨てた。絶対に成し遂げたい目標があるなら、今日できることは全てやらなければならない。エクラを一刻も早く王城へ連れていくためには、その日のうちから動かなければ、迎え入れられる日はどんどん遅くなってしまう」
二人の間で話はすでに纏まっているらしい。
けれど私は頭の中で理解が追いついていない。
私の表情で、エルネスト王子殿下は再度説明をしてくれた。
「エクラと俺が結婚するために、レオナルト公爵が力になってくれると言ってくれた。君を養子に迎え、レオナルト公爵家の息子として俺と結婚する。それなら誰も文句は言えない」
自信満々にそう言い放った。
「どうした、改まって」
余程楽しい時間を過ごしたのか、クロマの顔は緩みっぱなしだ。
本当は賑やかなのが好きだから、今日は家族団欒を思い出していたのかもしれない。
サラもお喋りが好きだし、レインマークも打ち解けている様子だった。
どうりで、あれだけ長時間エルネスト王子殿下と話していても誰も呼びに来ないわけだ。
「……やっぱりその前に、ハーブティーを飲みたいです」
「よし、カモミールティーにしよう。疲れただろ」
クロマは発情期明けに、突然、色んな事が起こりすぎたのを気にかけてくれた。
「さっきは、ありがとうございました」
取り乱した時のお礼を言う。
「私は掃除をしただけだ。掃除っていっても床をちょいと拭いただけ。出番はあっという間に終わった」
肩を竦めて残念そうに言った。
ハーブティーの準備をしながら、クロマはサラを話題に出てきた。
「あのサラって人は本当に出来た方だ。エクラだけじゃなく、アッシュヴェイル第三王子殿下も誘導されていたじゃないか。侍女にしておくのはもったいない」
「出来た人だから侍女が務まるんです。サラは素晴らしい侍女です。私を本当の子供のように叱咤激励してくれました」
クロマがサラの良さを解ってくれて、つい自慢してしまった。
「サラも同じように言ってたぞ。エクラを本当の子供のように思っていると。そんで、レインマークさんが殿下に詰め寄るサラの迫力に圧倒されて、思い出し笑いまでされていた」
「クロマさんたちが盛り上がってくれたおかげで、私もゆっくり喋れました」
「何よりだな。で、報告ってのは?」
「あ、あの……、プロポーズされました」
「そうか……」私の言葉にクロマは顔を綻ばせた。
「お祝い、しないとな」
「気が早いですよ。それに……私を慰めるために言ってくれてただけですから」
「プロポーズを慰めなんかで言うものか」
私は肩を落とし、膝に載せている指先を見る。
「……私はただの平民です。王家に入れるはずはありません。そのくらい弁えています」
エルネスト王子殿下とは身分差がありすぎる。
私がドミナクス辺境伯へのトラウマで発作を起こし、心配してくれた。
再会してしまえば、会えなくなるのは寂しい。
恋人は叶わずとも、せめて会いたい。店員としてで構わない。
ただ時には顔を合わせてあの頃みたいに話がしたい。
クロマはハーブティーを淹れる手を止め、私の話に耳を傾けていた。
背を向けたまま頷きもせず。
すると急に振り返って「望みがないわけではないだろう」と切り出したのだ。
「あのお方が何も考えずに口から出まかせを言う人ではないと、エクラだって知っているはずだ。何かお考えがあるに違いない」
「でもどう考えても王族と平民では無理です。エルネスト王子殿下がそれを知らずに言っているわけではないでしょう?」
「……信じよう、エクラ。今日は全てを話し合うには時間がなかった。でも二人の時間はこれからたっぷりあるじゃないか。現状だけで判断するのは良くない。全く、エクラは自分のこととなると途端に自信暗記になる。それは相手からすると悲しいことだぞ」
「だって……自信なんてありません」
「自分のことは信じられなくても、アッシュヴェイル第三王子殿下は信じられるだろう?」
あ、そうだ……。腑に落ちて納得した。
私は自分に自信はない。伯爵家でも存在しないものとして扱われ、ドミナクス辺境伯から奴隷扱いをされ、爵位を捨て逃げ出してからようやく人らしい生活が送れるようになった。
また貴族に戻れと言われても荷が重いというに、ましてや王族に入るなんて想像もできない。
けれどそれは私本意の話である。
エルネスト王子殿下はそうではない。クロマの言っている『アッシュヴェイル第三王子殿下としての考え』は絶対にある。私に意思があるのと同じように。
今日はそこまでの話をする時間はなかった。
次に来てくれた時に、具体的な話をしてくれるのだろうか。
「私とエノ様が結婚する具体案……」
考えただけで気恥ずかしい気もする。なんせ私は恋愛経験がなさすぎる。
それに、ここでクロマと平穏な人生を送る予定だったのだ。
エルネスト王子殿下の行動は早かった。
三日後、店を訪れたエルネスト王子殿下は私も知っている方と一緒だった。
「やぁ、やはり君が代書役の子だったんだね。確かパブロフ君から情報提供してもらった時に、店の隅にいたね」
「覚えていてくださり、光栄です。レオナルト公爵様」
「そんなに固くならでくれ。私の方が世話になっているくらいだ。それに今日はエクラ、君に養子の提案をしに来たんだ」
「養子……ですか?」
話が唐突すぎて、レオナルト公爵とエルネスト王子殿下の顔を交互に見る。
エルネスト王子殿下はプロポーズの後、その足でレオナルト公爵の許へ行ったらしい。
「結婚したい相手がいるが、身分の差がありすぎる。だから養子にしてもらえないだろうか。開口一番エルネスト殿下に言われ、勿論動揺した」
レオナルト公爵は苦笑いを浮かべた。
エルネスト王子殿下が興奮気味に詰め寄ってくるなど、これまでの付き合いで初めての経験だったらしい。
「エルネスト殿下を子供の頃から知っているが、あんな殿下は初めて見た」と笑う。
「善は急げですから。俺は過去を反省し、いつでも大丈夫なんて理想は捨てた。絶対に成し遂げたい目標があるなら、今日できることは全てやらなければならない。エクラを一刻も早く王城へ連れていくためには、その日のうちから動かなければ、迎え入れられる日はどんどん遅くなってしまう」
二人の間で話はすでに纏まっているらしい。
けれど私は頭の中で理解が追いついていない。
私の表情で、エルネスト王子殿下は再度説明をしてくれた。
「エクラと俺が結婚するために、レオナルト公爵が力になってくれると言ってくれた。君を養子に迎え、レオナルト公爵家の息子として俺と結婚する。それなら誰も文句は言えない」
自信満々にそう言い放った。
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