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『でも、こんな事態になってしまって、責任感じてる。自分はどんなことが会っても伊央を守れるなんて、根拠のない自信さえあったんだ。なのに、その俺が伊央を襲った』
叶翔が悔しそうに声を唸らせる。
オメガのヒートに出会したこともあったと言う。クラスメイトの女子が学校内でヒートを起こし、それを助けたのだそうだ。その話を聞いて(あの子か)とぼんやり取り巻きの女生徒の一人を思い浮かべた。
叶翔の彼女だ。それがキッカケだったのかと伊央は思ったが、そうではなかった。
叶翔はその女子のヒートには全く反応しなかったのだと言ったのだ。だから冷静に対応もできたし、自分はオメガのヒートに当てられないアルファだと信じ込んだ。
伊央はオメガになったとはいえ、バース性を発症しているわけではなかったから、尚更フェロモンの心配ななかったのだと補足する。
「でも、彼女と付き合ってるんでしょ?」
思わず口に出してしまったのは、叶翔のアルファ性についてではなく取り巻きの女子についてだった。自分でも何を聞いているんだと思ってしまうが、付き合っているにも関わらずまるで興味のないような言い方をしたのが気になってしまった。
叶翔は『あぁ、知ってたんだ』と言ったが、それはその噂を知っていたのか、という意味だった。
『付き合ってないよ。最初から。新入生のアルファが、オメガのヒートに抗って助けたって話から、いつの間にか付き合ってるに変わっただけだよ。入学して直ぐの話だし、そのうち噂も消えると思ってたんだけどな。助けた時なんて、同じクラスの子とも知らなかったんだぜ? なのにさ、次会った時には実質上の彼女になってて一番びっくりしたのは俺だよ』
叶翔は小さく息を吐いた。
それでも相手はオメガで、ただでさえ繊細とされる性別だ。クラスで彼女だけを蔑ろにするわけにもいかず、彼女面されるのをやめてほしいとも言えず、困っているのだと打ち明けた。
『一緒に帰ったこともないし、遊んだこともない。なのに、アルファとオメガってだけで勝手に番候補みたいに言われてうんざりしてる。俺の相手は俺が決めるって言いたいけど、ベータやオメガの子にそこだけ言ってもまた違う捉え方されそうだしな。笑って流すしかないんだよ』
「アルファも、大変だね」なんて言葉が自然と口から溢れ、叶翔は声を出して笑った。
『ってか、俺の話ばっかじゃん。伊央、体はどう? 多分保健の先生から聞いたと思うけど、お互い本能に支配されて正気じゃなかった。ただの獣のセックスみたいに抱いてしまって、それが気がかりで電話したのにさ』
話を逸らせたと思ったが、やはり無理だった。思い出すだけで羞恥心と罪悪感に苛まれると言うのに、それを自分の口から叶翔に話すのはもっと恥ずかしいし、気まずい。
できればこのまま時間が解決してほしいなんて、伊央はまた逃げ腰な考えが浮かんでしまう。
でもこの状況でそれができないことくらいは、さすがの伊央でも察しがつく。
「僕は、大丈夫。帰りは先生が送ってくれたし、起きた時は筋肉痛みたいなのはあったけど、今は平気。明日、病院に行くよう先生に言われて終わったよ」
『そうじゃなくて、伊央は嫌じゃなかったの? 俺に抱かれて』
「え?」
『今、普通に話してくれてるのは嫌じゃなかったからって、自惚れてもいいの?』
「でも叶翔は、頸を噛まなかったじゃないか。ラット状態になっても、一番大切なところは守ってくれた」
こう言うしかなかった。
ずっと好きだった人に抱かれて嫌なはずはない。でもあの時、咄嗟に海星を思い出したとは言えなかった。正気を失いつつも、本能で叶翔を求めつつも、海星の顔を思い出して首を噛ませてはいけないと判断できた。そこだけ鮮明に覚えている。
しかしそこまで正直に話すべきではない。
叶翔が海星からどんな話を聞いたのか、先生から教えてもらった内容だけを共有したのか、病院に行っている間二人がどんな会話をしたのか。仲が悪いわけではないないにしろ、伊央の中で二人が学校で絡んでいるのは見たことがない。
険悪なムードになってないか、様々な不安が脳裏を過ぎる。
折角、叶翔が気を遣ってリラックス出来るように話してくれたのに、伊央は考えすぎてやはり上手く立ち回れないでいた。
叶翔が悔しそうに声を唸らせる。
オメガのヒートに出会したこともあったと言う。クラスメイトの女子が学校内でヒートを起こし、それを助けたのだそうだ。その話を聞いて(あの子か)とぼんやり取り巻きの女生徒の一人を思い浮かべた。
叶翔の彼女だ。それがキッカケだったのかと伊央は思ったが、そうではなかった。
叶翔はその女子のヒートには全く反応しなかったのだと言ったのだ。だから冷静に対応もできたし、自分はオメガのヒートに当てられないアルファだと信じ込んだ。
伊央はオメガになったとはいえ、バース性を発症しているわけではなかったから、尚更フェロモンの心配ななかったのだと補足する。
「でも、彼女と付き合ってるんでしょ?」
思わず口に出してしまったのは、叶翔のアルファ性についてではなく取り巻きの女子についてだった。自分でも何を聞いているんだと思ってしまうが、付き合っているにも関わらずまるで興味のないような言い方をしたのが気になってしまった。
叶翔は『あぁ、知ってたんだ』と言ったが、それはその噂を知っていたのか、という意味だった。
『付き合ってないよ。最初から。新入生のアルファが、オメガのヒートに抗って助けたって話から、いつの間にか付き合ってるに変わっただけだよ。入学して直ぐの話だし、そのうち噂も消えると思ってたんだけどな。助けた時なんて、同じクラスの子とも知らなかったんだぜ? なのにさ、次会った時には実質上の彼女になってて一番びっくりしたのは俺だよ』
叶翔は小さく息を吐いた。
それでも相手はオメガで、ただでさえ繊細とされる性別だ。クラスで彼女だけを蔑ろにするわけにもいかず、彼女面されるのをやめてほしいとも言えず、困っているのだと打ち明けた。
『一緒に帰ったこともないし、遊んだこともない。なのに、アルファとオメガってだけで勝手に番候補みたいに言われてうんざりしてる。俺の相手は俺が決めるって言いたいけど、ベータやオメガの子にそこだけ言ってもまた違う捉え方されそうだしな。笑って流すしかないんだよ』
「アルファも、大変だね」なんて言葉が自然と口から溢れ、叶翔は声を出して笑った。
『ってか、俺の話ばっかじゃん。伊央、体はどう? 多分保健の先生から聞いたと思うけど、お互い本能に支配されて正気じゃなかった。ただの獣のセックスみたいに抱いてしまって、それが気がかりで電話したのにさ』
話を逸らせたと思ったが、やはり無理だった。思い出すだけで羞恥心と罪悪感に苛まれると言うのに、それを自分の口から叶翔に話すのはもっと恥ずかしいし、気まずい。
できればこのまま時間が解決してほしいなんて、伊央はまた逃げ腰な考えが浮かんでしまう。
でもこの状況でそれができないことくらいは、さすがの伊央でも察しがつく。
「僕は、大丈夫。帰りは先生が送ってくれたし、起きた時は筋肉痛みたいなのはあったけど、今は平気。明日、病院に行くよう先生に言われて終わったよ」
『そうじゃなくて、伊央は嫌じゃなかったの? 俺に抱かれて』
「え?」
『今、普通に話してくれてるのは嫌じゃなかったからって、自惚れてもいいの?』
「でも叶翔は、頸を噛まなかったじゃないか。ラット状態になっても、一番大切なところは守ってくれた」
こう言うしかなかった。
ずっと好きだった人に抱かれて嫌なはずはない。でもあの時、咄嗟に海星を思い出したとは言えなかった。正気を失いつつも、本能で叶翔を求めつつも、海星の顔を思い出して首を噛ませてはいけないと判断できた。そこだけ鮮明に覚えている。
しかしそこまで正直に話すべきではない。
叶翔が海星からどんな話を聞いたのか、先生から教えてもらった内容だけを共有したのか、病院に行っている間二人がどんな会話をしたのか。仲が悪いわけではないないにしろ、伊央の中で二人が学校で絡んでいるのは見たことがない。
険悪なムードになってないか、様々な不安が脳裏を過ぎる。
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