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「叶翔……」
伊央も話したい気持ちはあるし、図書室でのことを謝りたいとも思う。でも自分がちゃんと喋られるか不安の方が優っていた。
「どうしよう……電話したほうがいいのかな」
ベッドから窓の外に目をやると、叶翔の部屋の窓はすでにカーテンが閉められていたが、その隙間から電気の灯りが漏れていた。
伊央が呆然と過ごしている間に帰宅したようだ。
受診したと先生が言っていたから、その結果は知りたい。特殊性アルファについても、これまでベータだった伊央は無知に等しく、それについても教えてくれるなら話を聞きたい。
「でも……」
悩み始めると、自分で答えを出せないのは子供の頃から変わらない。悩んでいるとすぐに叶翔が助けてくれたし、今は海星もいる。周りに恵まれているとは思いつつ、自分で答えを出さなければいけない状況に追い込まれ、今まで人の優しさに甘えてきたバチが当たったのだと自嘲する。
スマホのキーボードに指をやるが、なんと打つべきか言葉が出てこない。
言葉を打っては消し……と繰り返していると、パッと画面が切り替わり叶翔からの着信画面になった。
「わっ。叶翔……」
ごくりと音が出るほどオーバーなまでに唾液の塊を飲み込むと、恐る恐る通話ボタンを押す。
「———叶翔?」
『伊央、電話出てくれて良かった』
「うん……」
『……』
電話に出たものの、どちらも気まずくて以前のように会話は弾まない。
叶翔は勢いで電話をかけ、何から話そうかと考えている様子であった。少しの沈黙の後、『ごめんな』と呟いた。
「え?」
『図書室で、取り返しのつかないことをしてしまって……』
「それはっ……僕が、ヒートを起こしたから……」
これは、自分がオメガだと暴露したも同然。隠しようのない事実である。伊央は腹を括って話始めた。
「もう気付いたとは思うけど、高校入学してすぐのバース性検査で突然変異でオメガになってたんだ。それで、叶翔はアルファだし……色々悩んでて……」
『俺のために、距離を置いたってこと?』
「自分に合う薬が分かるまで……って思って。でも発情期でもこなければ病院の先生も判断出来なくて、時間は無限にかかりそうだった。叶翔と一緒に過ごすにはどうすればいいのか考えてきたけど、結局、僕自身が台無しにしちゃった。悪いのは、僕の方だよ」
電話の向こうで叶翔は静かに話を聞いてくれている。
伊央の話が一区切りされたタイミングで『実はさ……』と話を切り出した。
そして『俺、中学生の頃から伊央のオメガの匂いに気付いてたんだ』と言った。
「それって、どういう……」
海星にしてもそうだったが、伊央は自分がオメガになったという自覚はなかった。海星はアルファになったかもしれないと思うほどの体の変化が見られたが、伊央には自覚症状は全くなく、自分はこれからもベータとして生きていくと信じて疑わなかった。
なのに、身近にいるアルファ二人は伊央よりも先にオメガと気付いていただなんて……。これには衝撃を隠せなかった。
叶翔の言う【伊央の匂い】とは、甘いオメガのフェロモンの匂いだった。
伊央の突然変異は中学二年性の頃からその兆候が見られ始めていたと叶翔は言った。けれども当時、叶翔自身もバース性を発症してはいなかったため、しばらくは叶翔も半信半疑だった。
物心ついた頃から一緒に過ごしていて、元々スキンシップの多い叶翔だったが、思い返してみれば『伊央を吸いたい』と言い出したのは、確かにその頃からかもしれない。
『伊央に言っても信じてもらえないだろうと思って、オメガになってるとは言い出せなかった。自分しか気付いていないって優越感もあった。伊央へのスキンシップを増やせば他のアルファへの牽制になると思ってたのに、海星と仲良くなってたから付き合い始めたと勘違いしてヤキモチを妬いた』と叶翔は続けた。
伊央は完全に言葉を失ってしまい、ただ黙って叶翔の話を聞くしか出来なかった。
伊央も話したい気持ちはあるし、図書室でのことを謝りたいとも思う。でも自分がちゃんと喋られるか不安の方が優っていた。
「どうしよう……電話したほうがいいのかな」
ベッドから窓の外に目をやると、叶翔の部屋の窓はすでにカーテンが閉められていたが、その隙間から電気の灯りが漏れていた。
伊央が呆然と過ごしている間に帰宅したようだ。
受診したと先生が言っていたから、その結果は知りたい。特殊性アルファについても、これまでベータだった伊央は無知に等しく、それについても教えてくれるなら話を聞きたい。
「でも……」
悩み始めると、自分で答えを出せないのは子供の頃から変わらない。悩んでいるとすぐに叶翔が助けてくれたし、今は海星もいる。周りに恵まれているとは思いつつ、自分で答えを出さなければいけない状況に追い込まれ、今まで人の優しさに甘えてきたバチが当たったのだと自嘲する。
スマホのキーボードに指をやるが、なんと打つべきか言葉が出てこない。
言葉を打っては消し……と繰り返していると、パッと画面が切り替わり叶翔からの着信画面になった。
「わっ。叶翔……」
ごくりと音が出るほどオーバーなまでに唾液の塊を飲み込むと、恐る恐る通話ボタンを押す。
「———叶翔?」
『伊央、電話出てくれて良かった』
「うん……」
『……』
電話に出たものの、どちらも気まずくて以前のように会話は弾まない。
叶翔は勢いで電話をかけ、何から話そうかと考えている様子であった。少しの沈黙の後、『ごめんな』と呟いた。
「え?」
『図書室で、取り返しのつかないことをしてしまって……』
「それはっ……僕が、ヒートを起こしたから……」
これは、自分がオメガだと暴露したも同然。隠しようのない事実である。伊央は腹を括って話始めた。
「もう気付いたとは思うけど、高校入学してすぐのバース性検査で突然変異でオメガになってたんだ。それで、叶翔はアルファだし……色々悩んでて……」
『俺のために、距離を置いたってこと?』
「自分に合う薬が分かるまで……って思って。でも発情期でもこなければ病院の先生も判断出来なくて、時間は無限にかかりそうだった。叶翔と一緒に過ごすにはどうすればいいのか考えてきたけど、結局、僕自身が台無しにしちゃった。悪いのは、僕の方だよ」
電話の向こうで叶翔は静かに話を聞いてくれている。
伊央の話が一区切りされたタイミングで『実はさ……』と話を切り出した。
そして『俺、中学生の頃から伊央のオメガの匂いに気付いてたんだ』と言った。
「それって、どういう……」
海星にしてもそうだったが、伊央は自分がオメガになったという自覚はなかった。海星はアルファになったかもしれないと思うほどの体の変化が見られたが、伊央には自覚症状は全くなく、自分はこれからもベータとして生きていくと信じて疑わなかった。
なのに、身近にいるアルファ二人は伊央よりも先にオメガと気付いていただなんて……。これには衝撃を隠せなかった。
叶翔の言う【伊央の匂い】とは、甘いオメガのフェロモンの匂いだった。
伊央の突然変異は中学二年性の頃からその兆候が見られ始めていたと叶翔は言った。けれども当時、叶翔自身もバース性を発症してはいなかったため、しばらくは叶翔も半信半疑だった。
物心ついた頃から一緒に過ごしていて、元々スキンシップの多い叶翔だったが、思い返してみれば『伊央を吸いたい』と言い出したのは、確かにその頃からかもしれない。
『伊央に言っても信じてもらえないだろうと思って、オメガになってるとは言い出せなかった。自分しか気付いていないって優越感もあった。伊央へのスキンシップを増やせば他のアルファへの牽制になると思ってたのに、海星と仲良くなってたから付き合い始めたと勘違いしてヤキモチを妬いた』と叶翔は続けた。
伊央は完全に言葉を失ってしまい、ただ黙って叶翔の話を聞くしか出来なかった。
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