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叶翔のいない教室では、海星が女子たちの格好の餌食となっている。来週までの我慢だねと話しているが、叶翔も万全の体調ではないだろうから、いきなり今までと同じように彼女たちに接するのは酷なようにも思える。
夏休みに海星と一緒に過ごした時間が長すぎて、学校が始まった途端、話しかけられなくなった状況に物足りなさを感じずにはいられない。とはいえ、女子から海星を奪う勇気など微塵もなく、悠馬と二人で平和な学校生活を送るほかなかった。
番になって喜んだのも、夏休み最終の一週間程のみ。なんだか肩透かしを喰らった気持ちになってしまうのも仕方ない。
二学期が始まって三日後、叶翔から『一応、治療完了!』とのメッセージが届いていたのにはホッとした。自分のせいで……という責任感は簡単に拭えるものではない。食欲もなかったと言うから、激痩せしているかもしれない。早く叶翔の姿を見て安心したいと思ってしまう。
新学期が始まって直ぐに、保健室を訪ねていた。
海星と番になった報告を兼ねて話をしていたのだが、叶翔だけが獣化した理由について、アルファの特殊性があるのではないか……とのことだった。
伊央が発情期ではない時期にヒートを起こしたのも、彼の特殊性でそうさせた可能性は高い。
「と言うことは、叶翔の都合でヒートをコントロールできるってことですか?」
「はっきりそうとは言い切れないけど、可能性として捨てきれないわね。今までは、時田くんを独り占めしていていたから、その能力を使う必要もなかった。でも、森島君に取られるかもしれないと言う焦りから、特殊性が作動した……そう考えると、なんか自然だし辻褄が合うわね……って思っただけ。だって同じアルファでも、森島君といるときは抗えないほどのヒートなんてないんじゃない?」
「それは確かにそうです……」
同じオメガ同士だからか、先生は割となんでもズバズバと話してくれる。歳の差など関係なく対等に、オメガの“同士”と言う関係性を抱いてくれているような気がして嬉しい。
先生が伊央に対して遠慮なく伝えてくれるから、伊央もなんでも相談しやすかった。
「先生は、僕と海星君が番になったのをどう思いますか?」
「あなた達が後悔してないなら、いいんじゃない? 高校生が番う相手を選ぶのに利害関係を求めるとは思いもよらなかったけど」
「怒らないんですか?」
「もう番ってるのに、私が怒ったところで仕方ないじゃない」
実にあっけらかんとしている。
「番ができたから天海君が獣化することもないだろうし、安心できるんじゃない?」と先生が言う。
後に海星にその内容を話すと、先生の予測に納得している様子だった。
「伊央は叶翔のジャケットの匂いでヒートを起こしたのに、俺のジャケットを抱えてぐっすりと眠っていた。リラックスしきっていたんだ。それはそれで嬉しいんだけどさ、同じアルファのジャケットなのに、なんでこんなにも差が生まれるんだろうって不思議に思ってた。でも叶翔の特殊性って言われるとなるほどなって感じる」
海星は叶翔の特殊性がはっきり分かったわけではないから、叶翔が学校に復帰した後も気を抜かないようにと言う。
神経質になりすぎだとは思うが、「気をつける」と返しておいた。
そうして叶翔が学校に復帰する月曜日となった。
伊央は風紀委員で校門の前に立っている。叶翔が投稿してきたら、一番に挨拶がしたいと身構えた。
「あ、来た……」
遠目で見ても、痩せているのが分かる。しかし、薬の服用が終わってからは食欲が一気に戻ってきた様子だったから、足取りはしっかりしている。
叶翔も伊央に気付いたらしく、大きく手を振ってくれた。
「伊央、おっはよ!」
叶翔から以前のように抱きしめられるかと思ったが、気を遣っているのかハイタッチに終わる。それでもすぐに伊央の違いには気付いたようだ。
「は? なんで伊央の匂い、消えてんの?」
叶翔の顔から笑顔が消えた。
夏休みに海星と一緒に過ごした時間が長すぎて、学校が始まった途端、話しかけられなくなった状況に物足りなさを感じずにはいられない。とはいえ、女子から海星を奪う勇気など微塵もなく、悠馬と二人で平和な学校生活を送るほかなかった。
番になって喜んだのも、夏休み最終の一週間程のみ。なんだか肩透かしを喰らった気持ちになってしまうのも仕方ない。
二学期が始まって三日後、叶翔から『一応、治療完了!』とのメッセージが届いていたのにはホッとした。自分のせいで……という責任感は簡単に拭えるものではない。食欲もなかったと言うから、激痩せしているかもしれない。早く叶翔の姿を見て安心したいと思ってしまう。
新学期が始まって直ぐに、保健室を訪ねていた。
海星と番になった報告を兼ねて話をしていたのだが、叶翔だけが獣化した理由について、アルファの特殊性があるのではないか……とのことだった。
伊央が発情期ではない時期にヒートを起こしたのも、彼の特殊性でそうさせた可能性は高い。
「と言うことは、叶翔の都合でヒートをコントロールできるってことですか?」
「はっきりそうとは言い切れないけど、可能性として捨てきれないわね。今までは、時田くんを独り占めしていていたから、その能力を使う必要もなかった。でも、森島君に取られるかもしれないと言う焦りから、特殊性が作動した……そう考えると、なんか自然だし辻褄が合うわね……って思っただけ。だって同じアルファでも、森島君といるときは抗えないほどのヒートなんてないんじゃない?」
「それは確かにそうです……」
同じオメガ同士だからか、先生は割となんでもズバズバと話してくれる。歳の差など関係なく対等に、オメガの“同士”と言う関係性を抱いてくれているような気がして嬉しい。
先生が伊央に対して遠慮なく伝えてくれるから、伊央もなんでも相談しやすかった。
「先生は、僕と海星君が番になったのをどう思いますか?」
「あなた達が後悔してないなら、いいんじゃない? 高校生が番う相手を選ぶのに利害関係を求めるとは思いもよらなかったけど」
「怒らないんですか?」
「もう番ってるのに、私が怒ったところで仕方ないじゃない」
実にあっけらかんとしている。
「番ができたから天海君が獣化することもないだろうし、安心できるんじゃない?」と先生が言う。
後に海星にその内容を話すと、先生の予測に納得している様子だった。
「伊央は叶翔のジャケットの匂いでヒートを起こしたのに、俺のジャケットを抱えてぐっすりと眠っていた。リラックスしきっていたんだ。それはそれで嬉しいんだけどさ、同じアルファのジャケットなのに、なんでこんなにも差が生まれるんだろうって不思議に思ってた。でも叶翔の特殊性って言われるとなるほどなって感じる」
海星は叶翔の特殊性がはっきり分かったわけではないから、叶翔が学校に復帰した後も気を抜かないようにと言う。
神経質になりすぎだとは思うが、「気をつける」と返しておいた。
そうして叶翔が学校に復帰する月曜日となった。
伊央は風紀委員で校門の前に立っている。叶翔が投稿してきたら、一番に挨拶がしたいと身構えた。
「あ、来た……」
遠目で見ても、痩せているのが分かる。しかし、薬の服用が終わってからは食欲が一気に戻ってきた様子だったから、足取りはしっかりしている。
叶翔も伊央に気付いたらしく、大きく手を振ってくれた。
「伊央、おっはよ!」
叶翔から以前のように抱きしめられるかと思ったが、気を遣っているのかハイタッチに終わる。それでもすぐに伊央の違いには気付いたようだ。
「は? なんで伊央の匂い、消えてんの?」
叶翔の顔から笑顔が消えた。
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