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本編
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蘇る先輩の顔。卑劣な笑顔が脳裏に浮かぶだけで眩暈がしてくる。
「俺は、誰とも番いになんてなりたくない」
正直に自分の気持ちを話した。
あんな思いをするくらいなら、一生発情しない人生を選びたい。
発情している時のΩの出すフェロモンに、アルファが抗えるわけがない。
そんなことくらい、リアム様だって知ってるはずだ。
だから、抑制剤が効いているうちに帰りたいって言ってるだけなのに……。
「安心してくれ、マヒロ。君が番になると言ってくれるまで、私は待つ。それに、私は訓練されているから、絶対に襲わないよ」
「……訓練?」
「ああ、そうだ。仕事上、発情期のΩを相手にすることだってある。そんな時に俺までフェロモンに当てられれば、本末転倒だろう」
確かに、それも納得できる。だから、俺があれだけ酷いヒートを起こしても、リアム様は平気だったんだ。
「リアム様はなんでそこまでして、俺と番になろうって思ってるのですかい?」
「君が私の運命の番だから。そのほかの理由などない」
「そんな……。運命の番ってだけで、決めちゃって……。それでどんな奴かも分からない相手と番になるなんて、リアム様の意志は無視でいいですのかな?」
「無視などしていない。君が私だけに発情したように、私も君のフェロモンだけを感じとった。他のΩもいたにも関わらず。あれだけの人の中で、目が合った瞬間マヒロしか見えなくなった」
それは……俺も同じだ。悔しいけど、抗えないヒートなんて起こったこともない。
「それじゃあ、俺を選んだのは……」
「私の意志だ」
そう言い放ったリアム様の瞳には、一点の曇りもなかった。
これ以上は、言い返す余地もない。
完全に押し切られた感じもするが、俺の許可なく絶対に触らないと約束してくれたし、昨晩の実績故、信じるしかない。
「……あの……。もし今後、少しでも気持ちに違和感を感じたら……直ぐに俺をお捨ててくだされ。番う前に……」
「ああ、そんな時は来ないがな。一応、承知した」
リアム様は立ち上がると、出掛けようと言って手を差し出した。
断ってもいいんだろうけど……恐る恐る左手を差し出す。リアム様の手は、大きくて指が長くて、暖かかった。
「マヒロの手は冷たくて肌が荒れている」
「あっ! 当たり前だけども!! 毎日毎日、厨房で皿洗いしてるのですので!!」
恥ずかしくて手を引っ込めようとしたが、力では到底敵わない。
リアム様は俺の手を撫で、「マヒロの日頃の働きぶりが、よく分かる」と呟いた。
そのままホテルの裏口へと移動すると、馬車が待機している。
「こここ!! これに乗りますのかな?」
「ああ、街は人が多いからな。流石に身動きが取れなくなっては、マヒロとの時間が減ってしまう」
乗り慣れた様子で馬車に乗り込むと、中から手を引いてエスコートしてくれる。
この世界に来て、馬車なんて初めて乗った。
中は見た目より少し狭く感じる。でも座り心地は、流石、高級って感じの滑らかなベルベットが貼り付けられている。
「なんか、リアム様って王子様みたいなのですね」
さりげない仕草やスマートな気配り、それに加えてこの威厳のあるオーラ。他の騎士団員とは違う。
ホテルを利用してくれてる騎士団員の人たちも陽気で楽しい人たちばかりだったが、リアム様が一際人気で目立つ理由も理解できる。
「そうだろうか」
俺の言葉に一言だけ返事をしたリアム様は、微笑ましい表情をしたまま俺を見つめていた。
「俺は、誰とも番いになんてなりたくない」
正直に自分の気持ちを話した。
あんな思いをするくらいなら、一生発情しない人生を選びたい。
発情している時のΩの出すフェロモンに、アルファが抗えるわけがない。
そんなことくらい、リアム様だって知ってるはずだ。
だから、抑制剤が効いているうちに帰りたいって言ってるだけなのに……。
「安心してくれ、マヒロ。君が番になると言ってくれるまで、私は待つ。それに、私は訓練されているから、絶対に襲わないよ」
「……訓練?」
「ああ、そうだ。仕事上、発情期のΩを相手にすることだってある。そんな時に俺までフェロモンに当てられれば、本末転倒だろう」
確かに、それも納得できる。だから、俺があれだけ酷いヒートを起こしても、リアム様は平気だったんだ。
「リアム様はなんでそこまでして、俺と番になろうって思ってるのですかい?」
「君が私の運命の番だから。そのほかの理由などない」
「そんな……。運命の番ってだけで、決めちゃって……。それでどんな奴かも分からない相手と番になるなんて、リアム様の意志は無視でいいですのかな?」
「無視などしていない。君が私だけに発情したように、私も君のフェロモンだけを感じとった。他のΩもいたにも関わらず。あれだけの人の中で、目が合った瞬間マヒロしか見えなくなった」
それは……俺も同じだ。悔しいけど、抗えないヒートなんて起こったこともない。
「それじゃあ、俺を選んだのは……」
「私の意志だ」
そう言い放ったリアム様の瞳には、一点の曇りもなかった。
これ以上は、言い返す余地もない。
完全に押し切られた感じもするが、俺の許可なく絶対に触らないと約束してくれたし、昨晩の実績故、信じるしかない。
「……あの……。もし今後、少しでも気持ちに違和感を感じたら……直ぐに俺をお捨ててくだされ。番う前に……」
「ああ、そんな時は来ないがな。一応、承知した」
リアム様は立ち上がると、出掛けようと言って手を差し出した。
断ってもいいんだろうけど……恐る恐る左手を差し出す。リアム様の手は、大きくて指が長くて、暖かかった。
「マヒロの手は冷たくて肌が荒れている」
「あっ! 当たり前だけども!! 毎日毎日、厨房で皿洗いしてるのですので!!」
恥ずかしくて手を引っ込めようとしたが、力では到底敵わない。
リアム様は俺の手を撫で、「マヒロの日頃の働きぶりが、よく分かる」と呟いた。
そのままホテルの裏口へと移動すると、馬車が待機している。
「こここ!! これに乗りますのかな?」
「ああ、街は人が多いからな。流石に身動きが取れなくなっては、マヒロとの時間が減ってしまう」
乗り慣れた様子で馬車に乗り込むと、中から手を引いてエスコートしてくれる。
この世界に来て、馬車なんて初めて乗った。
中は見た目より少し狭く感じる。でも座り心地は、流石、高級って感じの滑らかなベルベットが貼り付けられている。
「なんか、リアム様って王子様みたいなのですね」
さりげない仕草やスマートな気配り、それに加えてこの威厳のあるオーラ。他の騎士団員とは違う。
ホテルを利用してくれてる騎士団員の人たちも陽気で楽しい人たちばかりだったが、リアム様が一際人気で目立つ理由も理解できる。
「そうだろうか」
俺の言葉に一言だけ返事をしたリアム様は、微笑ましい表情をしたまま俺を見つめていた。
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