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本編

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「待ってくれ、マヒロを悲しませている根源が分からない。私には言えない内容なのか?」

 何だって?! しらばっくれやがって。

 よくもそこまで知らないフリができるものだと、逆に感心してしまう。

 俺は馬鹿だけど、そんな茶番に騙されるほどではないぞ。

 リアム様が俺を番にした理由は最早分からない。分からないけど、もうどうだって良い。

「なんで俺をここに連れて来たの?」

「何故って、番になったじゃないか。それ以上の説明が必要?」

「……もういい」

 話が噛み合わない。これ以上は聞いたところで何も話してくれないだろうと思った。

 とりあえず、リアム様と同じ空間にはいられない。

 この部屋で一番狭い衣装部屋へ篭ろうと思い立ち上がった。

(一番狭いなんて言っても俺が住んでた部屋よりも広いけどな)

「マヒロ?」

 無言でリアム様の横をすり抜け、衣装部屋へと向かう。

 背後から腕を掴まれた。

「何も解決していないのに、君を離すわけにはいかないよ!」

「っ離して!!」

 リアム様の手を振り解こうとしても、力には敵わない。

「離さない」

 力強く抱きしめられた。

 今朝までは、これが嬉しいと思っていた。

 力強い腕、逞しい胸。

 ずっとこうしていたいと思うほどに、心地よい居場所だと思っていた。

 でも今は違う。

「やめて!! 他の女を抱きしめた腕で、俺を同じ扱いするな!!」

 つい叫んでしまった。

 でも本当にそう思ったから仕方ない。

 これで俺がバルコニーから覗いていたとバレても構わないと思った。

「何を言ってるんだ? マヒロ、もしかして人違いをしてるんじゃないのか?」

 人違い……だと?

「俺が番を見間違えるポンコツだって言いたいのか!?」

 あまりにも酷すぎる言葉に、キレた。

「そんなこと言っていない。頼むから話を聞いてくれ」

「なんの話を聞けって言うんだ? ずっと俺を騙していたくせに!! 何を聞いても信用できない!!」

 離せ!! と、もう一度叫び、今度こそ衣装部屋に隠れた。

 思い切りドアを閉め、一番奥のスラックスが並んで掛けられている中に潜り込む。

 真っ暗な部屋で、これだけの衣装に囲まれると、実際の広さよりは狭く感じて落ち着く。

 ここでまた膝を抱えて座ると、再びリアム様への怒りが込み上げてきた。

「……許せない」

 人を馬鹿にするのも、いい加減にしろ!!

 悔しくて涙が溢れて止まらなかった。

 目の前のスラックスを引き寄せ、ハンカチの代わりに涙を拭いて、ついでに鼻水もかんでやった。

 見つけた時に焦ればいい。

 もっとも、これだけの衣装を持っているから困ることもないだろうけどな。

 ゴロンと寝転がった。

 床は硬くて冷たい。それで良かった。数日いい思いをしすぎて逆上のぼせていたんだ。

 本来この世界に転生してすぐ、のたれ死んでも仕方のない運命だった。

 ここで贅沢なんて覚えるな、と神様が言っているんだろう。

 
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