60 / 78
spin-offージェイクと騎士ー
8
しおりを挟む
「わぁ!! これが……海……」
少し風が強い。潮の香りが鼻を掠める。ルイが初めての景色に言葉を失っていた。
子供の頃から絵本などで見たことがあるだろう海も、実際に見るとその広さや迫力は想像を超えるだろう。
潮風がルイの髪を弄んでいる。少し長い前髪を何度もサイドに寄せていた。
「どう? 初めて見た感想は」
「なんか……すごい……」
「俺も初めて見た時は呆然と眺めてしまったのを、今でも覚えている」
ふふっと笑った。俺が初めて海へ来たのは子供の頃だった。父親に連れられて来たと記憶している。
その時の俺の反応とよく似ていて、思わず笑ってしまったのだ。
海が見えるところに父が建てたコテージがある。一息堪能した後は、そこへ案内した。
父も俺も海を眺めながら食事をするのが好きだ。ルイにもこれを味わってほしかった。
持って来ていたサンドウィッチを窓際のカウンターに並べる。
ルイがいつもパーティーで飲んでいるジュースも持って来ているので、グラスに注ぐ。
その一部始終を物珍しい顔で見ているのが可愛くて仕方ない。
「さあ、食べようか」
ジュースを入れたグラスで乾杯をする。
「ここから見る景色を、ルイにも見せたかったんだ」
窓の外に視線を移す。
「すごく綺麗ですね」
ルイも海に見惚れていた。
「気に入ってもらえたかな?」
「すっごく!!」
首を縦に振りながら答えてくれた。瞳の輝きが本音だと語っている。
この笑顔が見られて、大満足だった。
「いつでも連れてくるから、気晴らししたい時は言ってね」
乱れた髪を手櫛で直す。触れるとビックリされるかと思ったが、僅かに肩を竦めただけで身を委ねるようにジッとしている。
海のおかげで随分と自然体になってくれているように感じる。
「また来たいです」なんて言ってもらえるとは思ってもいなかった。
ルイに喜んで欲しくて連れて来たのに、結局自分が喜んでいる。
サンドウィッチを頬張るルイの髪を撫でながら、心が満たされていくのを感じている。やはり自分はルイが好きだと、改めて思い知らされたような感覚も無視できない。
しかし問題は帰りの馬車で起きた。
ルイの様子がおかしい。初めは眠いのかと思っていたのだが、そうではないと気づいたのは『香り』であった。
(甘い……これは……)
ルイの息が荒くなっている。それを必死に抑えているようだ。
(待て、まさか……だってルイは騎士団員だ。αのはずだろう?)
しかしこの香り、症状、どこをどう捉えてもこれしか考えつかない。
「ルイ……発情している?」
ルイは涙目でこちらを見ると掠れた声で言った。
「誰にも、言わないで……」
そんなことは言うつもりもないが、なぜだ。なぜあのαばかりの騎士団の中に混じって働いているのだ。危険だらけじゃないか。
αだと嘘をついていると言うのか。
感情を抑えきれなくなってルイを抱きしめた。
「誰にも言わない。絶対。約束する」
抑制剤は? と聞くと、持って来ていたバッグの中に入っていると言った。
錠剤と注射、両方持ち歩いているらしい。
「自分で注射を打てるのか?」と尋ねると無言で頷いた。
注射の方が即効性がある。ルイに手渡すと覚束ない手付きながらも小慣れた感じで準備し、自分の腕に刺した。
全てを注入し終えると、力尽きたように注射を落とし腕をだらんとぶら下げた。
「薬が効くまでこうしている。そのまま眠るといい」
この腕の中にしっかりと収め、ブランケットを掛けた。ルイの中心の昂りには気付かないふりをした。
俺も、もう過去の失敗は繰り返したくなかったので、どうにか理性を保てた。ルイはそのまま俺の腕の中で寝息を立てている。
絶対に大切にすると共に、ルイを幸せにするのは自分しかいないと心に誓った。
少し風が強い。潮の香りが鼻を掠める。ルイが初めての景色に言葉を失っていた。
子供の頃から絵本などで見たことがあるだろう海も、実際に見るとその広さや迫力は想像を超えるだろう。
潮風がルイの髪を弄んでいる。少し長い前髪を何度もサイドに寄せていた。
「どう? 初めて見た感想は」
「なんか……すごい……」
「俺も初めて見た時は呆然と眺めてしまったのを、今でも覚えている」
ふふっと笑った。俺が初めて海へ来たのは子供の頃だった。父親に連れられて来たと記憶している。
その時の俺の反応とよく似ていて、思わず笑ってしまったのだ。
海が見えるところに父が建てたコテージがある。一息堪能した後は、そこへ案内した。
父も俺も海を眺めながら食事をするのが好きだ。ルイにもこれを味わってほしかった。
持って来ていたサンドウィッチを窓際のカウンターに並べる。
ルイがいつもパーティーで飲んでいるジュースも持って来ているので、グラスに注ぐ。
その一部始終を物珍しい顔で見ているのが可愛くて仕方ない。
「さあ、食べようか」
ジュースを入れたグラスで乾杯をする。
「ここから見る景色を、ルイにも見せたかったんだ」
窓の外に視線を移す。
「すごく綺麗ですね」
ルイも海に見惚れていた。
「気に入ってもらえたかな?」
「すっごく!!」
首を縦に振りながら答えてくれた。瞳の輝きが本音だと語っている。
この笑顔が見られて、大満足だった。
「いつでも連れてくるから、気晴らししたい時は言ってね」
乱れた髪を手櫛で直す。触れるとビックリされるかと思ったが、僅かに肩を竦めただけで身を委ねるようにジッとしている。
海のおかげで随分と自然体になってくれているように感じる。
「また来たいです」なんて言ってもらえるとは思ってもいなかった。
ルイに喜んで欲しくて連れて来たのに、結局自分が喜んでいる。
サンドウィッチを頬張るルイの髪を撫でながら、心が満たされていくのを感じている。やはり自分はルイが好きだと、改めて思い知らされたような感覚も無視できない。
しかし問題は帰りの馬車で起きた。
ルイの様子がおかしい。初めは眠いのかと思っていたのだが、そうではないと気づいたのは『香り』であった。
(甘い……これは……)
ルイの息が荒くなっている。それを必死に抑えているようだ。
(待て、まさか……だってルイは騎士団員だ。αのはずだろう?)
しかしこの香り、症状、どこをどう捉えてもこれしか考えつかない。
「ルイ……発情している?」
ルイは涙目でこちらを見ると掠れた声で言った。
「誰にも、言わないで……」
そんなことは言うつもりもないが、なぜだ。なぜあのαばかりの騎士団の中に混じって働いているのだ。危険だらけじゃないか。
αだと嘘をついていると言うのか。
感情を抑えきれなくなってルイを抱きしめた。
「誰にも言わない。絶対。約束する」
抑制剤は? と聞くと、持って来ていたバッグの中に入っていると言った。
錠剤と注射、両方持ち歩いているらしい。
「自分で注射を打てるのか?」と尋ねると無言で頷いた。
注射の方が即効性がある。ルイに手渡すと覚束ない手付きながらも小慣れた感じで準備し、自分の腕に刺した。
全てを注入し終えると、力尽きたように注射を落とし腕をだらんとぶら下げた。
「薬が効くまでこうしている。そのまま眠るといい」
この腕の中にしっかりと収め、ブランケットを掛けた。ルイの中心の昂りには気付かないふりをした。
俺も、もう過去の失敗は繰り返したくなかったので、どうにか理性を保てた。ルイはそのまま俺の腕の中で寝息を立てている。
絶対に大切にすると共に、ルイを幸せにするのは自分しかいないと心に誓った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,445
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる