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異変。
しおりを挟む「……おかしいですね?」
酉と分かれた後、栄養を補給しに食事処まで行くと、調理場へ入る為の扉の前で午が不思議そうに首を傾げていた。 下の方で結んだ緩やかな金髪がさらりと揺れる。
憂いを帯びたその王子様のような顔に、こっそりと下級戦闘員達から溜息を吐かれているが、気付いた様子は無かった。
「どうした?」
申は卯から離れ、午の側に寄る。 この後を私は何をするのだろうか、と卯は申に聞きそびれてしまった。
「妖精の国から送られてくる食料の量が少ないんです」
「書類とかに不備は?」
興味深げに聞く申の言葉に
「生憎、無いんですよね……」
午は非常に残念そうに答える。 そしてその周囲はほぅ、と溜息を吐く。
卯は、確かに『仮の面』の上位幹部の中で飛び抜けて綺麗な顔立ちをしているな、とぼんやり午の顔を見ながら思っていた。 が、別段、卯の好みの顔という訳ではなかったので、だだ綺麗な景色を見ているような気分だった。
「上位幹部達には問題は無いのですが……」
下位の戦闘員達には、栄養バランスの整った食事が必要なのですよ。 と午は項垂れる。 周囲達は、「気遣ってもらえてるなんて!」と感激しているようで、手を胸の前で組み、幸せそうな様子だ。
「妖精の国で、何かあったのでしょうか」
「……どうだろうなぁ」
少し考え、申は言う。 何か、心当たりがあるのかもしれない。 因みに卯は見事に次の予定を聞くタイミングを逃してしまったようだ。
「酉や子にでも調べて貰うか?」
「そうですね。 是非そうして頂きたいです」
午がその提案に同意した所で、
「なあ卯、今日はもう何もする事はないから、自由にしても良いんだぜ」
ようやく、そこで立ち尽くしている卯に気が付いた申は声を掛ける。 それをもう少し早めに言って欲しかった。
×
自由になった卯は、とりあえず食事処内部に入り、『草』を食べることにした。 フレッシュな食感と、フルーティな風味が気に入ったのだ。
一口齧ればしゃく、と小気味の良い音がする。 口いっぱいに広がる風味は、葉っぱそれぞれによって微妙に違う。 今回の『草』は、蜜柑と桃を合わせたような風味のするものだった。
「……おいしい」
溢れる果汁(葉の汁)に舌鼓を打っていると
「だよね~」
いつのまにか側に座っていた未が、ゆったりと同意をした。
ふわふわの癖のある毛が未自身と同じように、ゆったり揺れる。
未はいつも眠そうな喋り方で、とても眠そうに行動をする。 あまりにも眠かったらしく、壁に寄っ掛かりながら移動する姿を最近目撃した。
最上位幹部達はこんなにも目立つ存在だというのに、どうして今までその存在に気がつけなかったのだろうか。 かなり不思議だ。
時折共に行動する申曰く、
「アイツは本当に寝てるんだよ」
とのことだった。
それならば、未が起きるとどうなるのだろうか。 それについて訊こうとすると申は言葉を濁し、目を逸らし、一切教えてくれなかった。
「でもね~、なんだかこの『草』、『しばらく手に入りそうにない』って、午くんが言ってたんだよ、ね~」
しょぼ、と可愛らしい羊のような耳が残念そうに下がる。
「う~ん、残念だなぁ~」
しゃむしゃむ、『草』を食みながら未は唸っていた。
しゃくしゃく、しゃむしゃむ。
2人の、『草』を食む音が響く。
×
「お前らいつまで『草』食ってんだよ」
信じられない物を見た、と言いたげな顔の申が来るまで、卯と未は一心不乱に『草』を貪っていたらしい。
「わぁ~、申くんだぁ~」
食んでいる『草』をそのままに、未は申に飛びかかる。
「やめろ! 寄ってくんな、重い!」
申のその悲鳴は少し失礼な気がした卯だった。
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