仮の面はどう足掻いても。

月乃宮 夜見

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八百長疑惑……?

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 「『何のために魔法少女の粉キラキラを集めているのか』って?」

 戸棚の鍵を閉めながら聞き返す子に、卯は小さく頷く。

「うーん、まあ、構成員達みんなのモチベーションのために理由だけ取っ付けて、ちゃんとした説明はしてなかったねん」

 子は周囲を少し見、作業に集中しているのを確認し、

「ちょっと向こうまでいこっか」

そう卯の手を引いて移動を促した。

「申っちは付いて来なくてもいいよん?」

「……まだしばらく暇だからついてく」

手持ち無沙汰は嫌いなんだ、と申も子と卯の後ろに付く。


「ま、ここなら大丈夫かなん?」

 少し歩いたところにある、なんでもないただの部屋に子は入る。 卯と申もそれに倣ってその部屋に入る。

「よっと」

卯と申が部屋に入ったのを確認し、子は部屋の中央に何かを置いた。

「これは外からの干渉を防ぐ装置」

 子は卯(ついでに申)へ、座るように促す。


×


 魔法少女の粉、通称『キラキラ』は文字通りキラキラと輝く、魔法少女の闘った後に残る粉のことだ。

 魔法少女の粉は、魔法少女達が動き回ることで周囲にばら撒かれる。 魔法少女達が動けばそれなりに量は取れ、逆に魔法少女達が動かなければ、魔法少女の粉はほぼ集まらない。

 一応のところ、変身するだけでも周囲に魔法少女の粉は散らばるので、出撃したのに収穫ゼロ、なんてことにはならないのが救いではある。

 何故、魔法少女の敵である『仮の面』が魔法少女の粉そんなものを集めているのかと言うと、単純にエネルギーになるからだ。

 それは『仮の面』だけの話では無い。 妖精の国でだって、同じことが言える。

 魔法少女の粉は(正確には少々異なるが)要するにプラスの方向を持つ良質なエネルギーであり、『嬉しい』『楽しい』といった明るい感情から生まれる。 そのエネルギーは世界を明るくし、様々な物を世界に生み出す力となる。

 逆に、マイナスの方向の魔力である『穢れ』は『妬み』や『恨み』などの暗い感情から生まれ、世界を破壊する力を持っている。

 何もせずとも世界からは暗い感情負の魔力は生まれ、『穢れ』として世界を蝕んでいく。

 その為、魔法少女達が戦い、怪物を浄化して周囲に魔法少女の粉キラキラをばら撒くことは世界を蝕む『穢れ』を消す行為と繋がる為、世界にとってとても良いことなのだ。


×


「実を言うと、妖精の国と『仮の面うち』は手を組んでるんだよねん」

 子がそういうと、申は少し顔を顰めた。 衝撃的な発言に卯は目を見開く。

「申っちはあんまりあの国にいい印象持ってないだけだよん」

やれやれ、と言いたげに子は首を振る。

「『仮の面』を創り上げた際に、妖精の国の王の元へ行って、安定した量の魔法少女の粉を提供する代わりに、妖精の国へ『仮の面』達が安全に過ごせる場所の提供をするよう、約束を交わしたんだよん」

 約束っていうか枷みたいなもんだろ、と申は小さく呟くのが聞こえた。


 『仮の面』達は魔法少女達と戦って、破壊衝動を(少ないながらも)解消しつつ魔法少女の粉を周囲にばら撒き、周囲の環境を浄化させる。 そして余った魔法少女の粉を回収し、妖精の国へ提供する。

「妖精の国は、安定した量のエネルギーを得る代わりに、他の悪の組織や魔法少女達(あと正義感の強い妖精達)から、『仮の面』の組織がある場所を秘匿する」

「『仮の面俺達』は、妖精達あんなのと手を組まなくてもそこそこに平気だろ。 寧ろ、暴れられる場所を限定されて、何らかの義務を課せられてるんなら、安全に過ごせること以外にはメリットは無いじゃねぇかよ」

 妖精の国の都合に合わせてだけだろ。

 申のその言葉に、卯はほんの少しだけ『そうかもしれない』と思った。

「ただの妖精如きでもね、排除対象共通の敵を見つけた時は凄まじいんだよ」

申っちも知ってるだろ、と子は呆れたように申を見る。

「俺が知ってるのは仲間意識の高さしょぼい方だけだ。 そっちは当事者じゃない」

卯は自分が唐突に蚊帳の外にされたな、と思い机に視線を下ろすとそこに『ねこ』が居り、よく分からない、と首を捻っていた。 ついでにあくびをして伸びをして、後ろ足で耳を掻こうとしていたが足が短く届いていなかった。

「ま、『仮の面アタシ達』が安全に暮らすために集めてるって訳さね」

子はそう締めた。 卯は『ねこ』の耳の後ろを掻きながら頷いた。


×


「へぇ、担当って申クン、君だったんだ」

 子の研究所から出ると、同じように出撃から帰って来たらしい酉に出会しでくわした。

「まあ君は最上位幹部オレ達の『補助』だし仕方がないか」

そう、卯と申を見る酉は戦った後なのか、髪が少し乱れていて服装も汚れている。 しかし、足取りはしっかりしていて、軽薄な笑みを浮かべ余裕そうな表情をしていた。

「お前また浄化されてきたのか?」

少し顔を顰めて申は言う。 『浄化された』ということは、魔法少女達の放つ技を食らった、ということなのだが身体や精神など、色々大丈夫なのだろうか。

「まあね。 でもほら、かなり高収穫だろう?」

 酉はクロークの下から複数、粉の詰まった瓶を取り出した。 卯が先程回収した物よりも圧倒的に量が違っていた。

「アイツのやり方は真似しないほうがいいぜ」

瓶を見つめる卯の視線に気が付いたのか、申は耳打ちをする。 俺も似たようなもんだけど、と言う小さな呟きは聞き逃さなかった。

「でも、想定より少ないんだよねぇ」

なんでかなぁ、と酉は顳顬こめかみに手を添え思案する。

「それ以上搾り取ってどうするんだよ」

申は呆れたように言っていたが、卯は少しだけ衝撃を受けていた。

「(……他のモノ達幹部達は、どのくらいの量を集めてるんだろう)」

足手まといは嫌だな、と少し思ったのだ。
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