仮の面はどう足掻いても。

月乃宮 夜見

文字の大きさ
12 / 60

反省会。

しおりを挟む

「ま、そこそこに面白い初出撃出だしだったんじゃないか?」

 むくれる卯に、申は半分笑いながら評価した。

 卯は出撃前とあまり変わらず、大した怪我もなく退散することが出来た。 幹部になる以前から怪物を生み出す事や魔法少女達と対峙した時の対処、上手く退散する事はやってのけたので、そこに大きな失敗や反省はない。 卯がむくれているのは他に理由がある。

「面白かったな、『あなたは仮の面あんな所に居て良い存在じゃない』って」

 腹を抱えて申は笑う。 笑い過ぎて乗っている屋根から落ちればいいのに、と少し思いながら卯はふん、と鼻を鳴らした。

 卯は魔法少女達によって、仲間に引き込まれ掛け説得を受けたのだ。 卯の体型は小柄で、魔法少女達とそう変わらないような身長をしている。 もしかすると、ちょろい奴光落ち枠に見られたのかもしれない。

「最悪」

 そのことを思うと、卯は忌々しげに吐き捨てた。 卯にも、ちゃんと理由が有ってこの場所仮の面に居るのだというのに。

――理由はただ単に衣食住が(殆ど)無料で貰えて、給料を程良く得られるから、というものだが。

「もう少し、『幹部たる威厳』ってものでも身に付けるといいかもな」

 申は笑い過ぎで出たらしい涙を拭い

「じゃあ魔法少女共アイツらも居なくなったし、魔法少女の粉キラキラ回収するか」

立ち上がった。

「……そうね」

長いマントを踏まずにすっと綺麗に立ち上がった申を見て、卯は少しつまらなく思った。


×


 卯達は怪物と魔法少女達が暴れ回った箇所に降り立つ。

魔法少女の粉キラキラを光らせて魔力を通してから、瓶に入れるんだぞ」
「……知ってる」

 申は大きめの蜂蜜瓶のような物を取り出し、卯に差し出す。 瓶を受け取り一歩進み出ると、右手を浄化されたその箇所に向け、少し魔力を込める。

 すると、魔法少女達の力によって修復されたその箇所から、キラキラと光を放って輝く粉が浮かび上がった。 光らせた魔法少女の粉達を魔力で絡め取ると、持っていた瓶の中に詰め込む。 粉の量は、瓶の高さの4分の1程だった。

「へぇ、意外と集まったなあ」

 卯の抱える瓶を覗き込みながら、申は感心した様子だった。

「……何か問題でもあるの」

覗き込む申を避けながら、卯は少し不満そうに訊く。

「いや、そんなもんじゃねえよ。 結構良い感じだぜ」

そう言うと申は周囲を注意深く見回す。

「取り残しもなさそうだし、帰るか」


×


 魔法少女の世界向こう側から帰還した卯と申は、魔法少女の粉キラキラを集めた瓶を持って子の研究所に来ていた。 相変わらず子は白衣にゴーグルの姿だ。

「待ってたよん」

 子の研究所まで行くとそこの入り口に子が居り、手を振って迎えてくれた。


「うーん、結構集まったみたいだねん」

卯から瓶を受け取り、子は評価をくだす。

「それなりに質もいいみたいだし」

 子が瓶を室内灯の光に瓶を翳すと、瓶の中身は銀色に煌めいた。

「『初出撃の幹部』としても、それなりにいい量だよな」

そう言う申を、子は珍しそうに見遣る。

「ふーん、キミが褒めるなんてねん」

 受け取った瓶を子は奥の棚に仕舞いに行く。 それは特殊な鍵のかけられた大きな棚で、中には魔法少女の粉が入った瓶がずらりと並んでいた。

「コレ、他言無用だからねん」

後ろを振り返り、子は2人に言う。

「知ってるっつの」

「そもそも言う相手居ねえし」と申は手を頭の後ろで組んで面倒そうに返す。

 どちらかといえば、卯はそういう約束事はきちんと守る方であったし、あまり喋る方でもないので大丈夫だと自身で思った。 しかし。

「(じゃあなんで私達に見せたんだろう)」

と思ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...