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初出撃。
しおりを挟む『ねこ』に体当たりされる感覚で目が覚めた。
「……」
時計を見ると辰の刻。 人間達が活発的に活動し出す時間帯だ。 予定よりほんの少し寝坊してしまったようで、卯は慌てて身支度を済ませて、待ち合わせの場所に行く。
今日は幹部となってから初めて出撃する日で、出撃し慣れていて説明の上手い幹部に補助をしてもらうのだ。
「よう、お前早起きだな」
待ち合わせの時間になってから大体5分後に、補助役の申がやってきた。
申は、顔全体を覆う猿の面と鬣のような被り物をしていて、顔全体をしっかりガードした格好だった。 おまけにマントも羽織っているのでかなり動き難そうだと卯は思ったが、申は軽快に動く。
「俺、こんなに早い時間に起きる事そうないんだよなぁ」
欠伸を噛み殺しながら申は資料を取り出した。
「もう辰の刻なのに?」と卯が訊くと、「まだ辰の刻なんだ」と返事が返ってきたので申は随分とだらしのない生活をしているのかも知れない。
「まずは、『この地帯に魔法少女が居るか』、もし居なければ、『魔法少女になれそう/なりそうな対象が居るか』、探る」
申は小さな機械を取り出し、少し振った。 何か反応を示したらしいそれを忌々しげに睨み付け、
「戌や寅とかは『野生の勘』ってヤツで探すが、確実に見つけたい場合は子の奴にでも専用の機械でも作ってもらえ、な」
機械を懐に仕舞った。
「魔法少女になれそう、なりそうな対象の大まかな見つけ方は、このテンプレートを見れば判る」
申は持っていた資料の一部を卯に見せる。 魔法少女の色とその性格、持ち得る武器等の情報が記載されていた。
「カリスマ性を持つアホ、優等生やお嬢様、気の優しいやつが居れば、ほぼ確実に妖精共はやってくる」
誘蛾灯に群がる虫ケラみたいなもんだな、と少し嘲笑めいた短い息を吐き、
「今回は、もう既に魔法少女が居る場所を狙ったから探るというか、探す作業は無い」
資料を虚空に仕舞った。 そのまま卯の方を見て
「生憎、近くに魔法少女が居るみたいだから出撃だぜ」
近くで談笑している少女達を雑に指差した。 先程、申の持っていた機械は、このことを知らせたらしい。
「下位戦闘員の頃みたいにそう簡単に攻撃喰らったり、やられたりするなよ?」
上位幹部としてのプライドやブランド、部下に示しがつかなくなるからな、と言って申は後ろに下がった。
「ここからは、お前1人でやれ。 死にかけたら助けるぐらいはするからな」
卯は少女達の話しに耳を傾ける。 どうやら今日は休みの日で、魔法少女達はみんなで買い物をしていたようだ。
×
卯はとりあえず高い所に乗って程良く『穢れ』の溜まって居そうな人間を見つけ、何だかそれっぽい文言を発して依り代を怪物に変化させる。
依り代を怪物に変化させるためには、定期的に配布される黒い物体を使う。 物体は真っ黒で艶があり、ソフトボール(3号ぐらい。直径大体9cm)ほどの大きさがある。
とりあえず狙いを定めて投げれば、魔法的パワーによって対象に必ず当たるという便利な代物だ。
怪物は基本的に理性は無く、依り代の抱えた穢れのままに動き出す。 依り代が「リア充爆発しろ」とか思っている人間だったならば、カップルや幸せそうな人達を狙って攻撃する。
そして、そのまま怪物を放置していれば――
「なんて酷いことをするの?!」
薄ら桃色がかった髪の女の子を中心に、騒ぎを聞きつけた複数の少女達が集まる。
「変身、いくよ!」
「「「うん!」」」
「……来たわね」
卯は少女達を無表情に見下ろした。
――数分もしないうちに、魔法少女達が現れるのだ。
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