21 / 60
調査結果。
しおりを挟む『ねこ』に体当たりされる前に目が覚めた。
「ふふ、勝ったわ」
体当たりを外してベッドの端に転がる『ねこ』を見下し、卯は胸を張る。 転がった姿勢のまま『ねこ』は悔しそうな顔をし、尻尾でベッドを叩いた。
時計を見ると卯の刻。 会議の時間どころか、始業時間にも十分に余裕がある。 さっさと身支度を済ませて、ゆっくりしよう。
×
巳は辰の後を、周囲を警戒しながら付いて行く。 巳は辰の護衛だ。 「一体、いつ、どこで、誰に狙われているのか」そう問われても、答えなんて出やしないが。 そもそも辰は一人でも十分に腕が立つ。 その為、巳は時折、自分が何のために其処にいるのかが分からなくなる。
「どうした。 ……顔色が悪いな」
ふと立ち止まり、辰は云う。 拍子に揺れた白銀の髪が光を受けた水面のように煌き、光が散った。
「いえ……私はいつも通り…のつもり、ですが」
刺さる光を避けるように、巳は目を閉じる。 実際には巳の薄花の虹彩には刺さりはしなかったが、巳はその光を視界の端にすら入れたくなかった。 理由はきっと、
「無理をしていないか」
見ていなくても、辰の強い眼差しに見つめられているのが分かる。 居心地が悪くなり、巳は何かを発しようと口を開いたとき
「一度、其方の仕事を休むと良い」
静かに、辰は云った。 巳は思わず顔を上げ、思いの外顔が近かった事に後退る。 辰が少し状態を屈め、巳をのぞき込んでいたようだ。
「しかし…」
「儂を護るのならば、先ずは其方が健勝である事が重要だと分かっているだろう」
すっと目を細め、辰は僅かに圧を放った。 その途端、巳は何も言い返せなくなる。 自身のすべての支配が、辰に取り上げられ、辰の指示に従ってしまうような感覚。
「…………はい」
力なく俯いた視界の端に、柔らかな生成り色の髪が映った。 辰もその存在に気が付いたようで、何事もなかったかの様子で其方を見た。
×
「其方、巳と最近良くしてもらっていると聞く」
卯は随分と背の高い男を見上げた。 ……バランスを崩しそうになったので、一歩後ろに下がった。
辰のその顔は、布の面……雑面で隠されている。 雑面には、札のような紋様に、その上から、嘲笑うように目の絵が描かれてある。
「ふむ、座って話したほうが良いか」
後退った卯に辰は苦笑しつつ訊く。
「いえ、そろそろ会議の時間です」
硬い声の巳が言葉を挟んだ。 ふと卯は『ねこ』を見る。 時計のふりをした『ねこ』の短い尾は真横よりほんの少し、上を指していた。 今は辰の下刻のようだ。 確かに、あともう少しで会議の開始時刻になる。
「仕方あるまい。 では簡潔に話そう」
その声に卯は辰に向き直し、強い眼差しと視線が重なった。
「巳の事を此れからも、宜しく頼むぞ」
辰は朗らかに笑っていたが、少し寂しそうに見えた。
×
「……という訳で、」
調査結果を持ってきたらしい酉は告げる。
「どうやら、少なくなっていた食糧の問題は、『書類の書き換えがあった』事が原因のようだよ。 勿論、『仮の面』じゃなくて、妖精側の方だよ。 間違った書類が、午クンの方に届けられていたってコト」
管理が杜撰だよねぇ、と笑い、その分厚い資料を子の前に置いた。 今回は幹部全員を集めての会議だったので、再び会議室に全員が揃う。
会議室の座席の並びは卯を紹介した時と同じように子から亥まで並んでいる。 しかし、前回は完全に円卓だったが、今回はCのような形で並んでおり招集をかけた酉の席がない。
Cの形の空いている側にはスクリーンのようなものがあり、その近くに複数の資料を置いた台と共に酉の席があった。
「記憶を改竄されてたっぽいのもなーんか、きな臭いよねん」
資料をぱらぱらめくって子は中身を確認する。 次いで資料の簡易版が他の最上位幹部達の前に配られ、最上位幹部達も概要を確認した。
「あともう一つ」
酉は言う。
「どうしてだか分からないけど、最近、収穫できる魔法少女の粉の量が減ってるみたいだねぇ」
「そこを調べるのがオマエの役割だろ」
ぼそりと申が野次を飛ばす。
「……煩瑣いなぁ。 じゃあ君が調査してくれるのかい?」
特に苛立った様子ではなかったが、酉は申に言う。
「は? 何言ってるんだ? んなめんどくせーこと、オマエがやれよ」
その返答に、つまらないなぁ、と笑ったところで
「……攻撃性に関してはどうなんだい」
亥が問う。
「いいこと聞くねぇ」
酉はくるりと亥の方を向き、亥を指す。
「指すな」
「すごい上がってるんだよね」
亥の言葉を無視して酉は言う。
「ほら、オレ達が手伝う事で成長するやつとは、なんだか種類が違うみたいで」
『手伝うことで成長する』というのは特別なアイテムによるパワーアップの事を言っているようだ。
「落とす量は寧ろ、通常よりも少ないんだ。 それで、」
酉は亥と未の方を見た。
「攻撃力は上がっているのに、落とす魔法少女の粉の量が少ない。 これってどう言うことか分かるかな?」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる