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今聞かれても。
しおりを挟む「そんなこと、実は如何だって良いんじゃないかな」
酉は言った。
「……それって、どういうことです?」
怪訝な顔の戌をちらと見遣り、
「何故始めた、誰が始めた、そんなのは本当の所、如何だって良いんだよ」
酉は新しく紙の束を出す。 それを周囲に開示する事をせずに子の傍まで来ると、何やら耳打ちをして手渡した。 子は受け取った書類の表紙をつまらなそうに見た後、すぐにしまい込む。
「結果的に、『仮の面』が狙われて、こうやって動く羽目になっているんだからさ」
子から離れた酉は「こんなに面倒な事ってありはしないよね」、と大袈裟に肩を竦めて首を振る。
「兎に角、このままじゃあ情報量が少ないから、オレはもう少しこの状況について調査しておくよ」
酉は席に戻り、自身の話を締めた。
×
会議が終わり、最上位幹部達は解散する。 子は丑にも乗らずにさっさと研究室に戻っていったようだ。 少し手持無沙汰な丑に「休んで鈍っていた分を取り戻すぞ」と、寅がジムのほうへ引っ張っていく。 卯は少し伸びをして、固まった体をほぐした。
『話の中身がよく分かんなかったねこ』
「……そういうこと言わない」
『に¨っ』
右手の上で伸びをする『ねこ』を左手を被せて挟み込む。 巳はどこか浮かない顔をして辰の後ろを付いて会議室を出た。
「ずぅっと気になっていたんですけれど、それなんですか」
いつの間にかそばにいた戌が『ねこ』を指さし首を傾げる。 午は周囲の最上位幹部に軽く会釈をして会議室を出る。 持ち場の食事処に戻るようだ。 「先に行っとくからね」と、亥の声が聞こえた。
『ねこは〈ねこ〉ねこ』
「なんですって?」
卯の指の間から頭を出した『ねこ』の言葉に、戌は更に首を傾げる。 一人称と名乗りと口癖が同じすぎて意味が分かり難かったようだ。 卯は『ねこ』の上から、白魚のようなその手をそっと外した。
「この子は……(別にどうだっていいのだけれど)私の一部よ」
『よく分かんにゃいけどへんにゃ間があったねこ』
「”大事なもの”ってヤツですか」
楽しそうな声色で戌は問う。 重たい前髪の間から見えた左目が鋭い歯の口と共に、にんまりと歪められていた。
「……そうなるのかしら」
『み¨っ』
ぷるぷる震える『ねこ』を雑に腰元のポケットにしまい込む。
「だったら、きちんと大事にしてかないと弱点として捕虜にされたとき困りますね」
「別に、そんなこと起こらないわ」
卯はつん、とすました顔で戌に言い返す。
『ねこはつよいねこ』
ふんす、と、肩に現れた、どや顔を決める『ねこ』を置いておいて、卯は周囲を見る。
「いい加減起きろ」
「ふぅ~ん、もうひょっと食へられるお」
「お、き、ろ」
眠っている未を、申が起こそうとしていた。 仮面の下の柔らかそうなほっぺが申に引っ張られて伸びている。 酉は会議で使った資料を纏め、「起こすの諦めてさっさと運び出してくれないかなぁ」と申をせっつき、
「君達、話しをするのなら、ここから出てからにして」
会議室閉めなきゃオレ仕事に戻れないんだよ、そう卯と戌に告げた。 今回招集をかけた酉が、会議室の戸締りや後始末をするらしい(『後始末』とは?)。
「せっかちな男は嫌われますよ」
ふん、と戌は鼻を鳴らし、未を持ち上げて申の背に乗せている酉に言い放った。
「結構結構。 オレはそういう『好き嫌い』についてはどうでも良いからね」
「寧ろ、怨まれてもらう方がオレ的には良いよ」と言いながら酉は魔法で机や椅子達を片付け始めた。
「重っ!? また太ったなお前」「そ、そんなことないよ」「起きたな」「……むにゃ、ぼくねてるもん。 だから申くんおんぶしてよね」「……おい」
「そんなことより、少しあなたに訊きたいことがあるのだけど」
申と未のやり取りを聞き流して会議室を出る用意をしながら、卯は戌に声を掛ける。
「何でしょう? 私はBL、GL、NL、TL、R‐18G、3Lなんでも行けますよ!」
いきなりどうした。 「ぶっちゃけ地雷ないです!」と叫ぶ戌を怪訝な目で見る。 視界の奥で、申が無理に体を捻って未の耳をふさいでいるのが見えた。
「訊かれる前に、私の性癖を暴露してみました!」
「……」
ただ自分で暴露したかっただけじゃないのか。
「うへへ、アナタのその眼差し、意外と……痛ったぁ!?」
胡乱な目の卯に何故かニタニタしだした戌の頭部に、酉が分厚いファイルの角を叩き込む。 パカン、と(何も入っていなさそうな)小気味の良い音がした。
「早く出てくれる、かな?」
頭をさする戌とそれを茫然と見る卯に、にっこりと笑みを浮かべて酉は告げる。 口元は笑っていたが目は笑っていなかった。
×
「で、訊きたい事って何ですか」
会議室を出て戌は卯に問う。
「妖精って何?」
「へ?」
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