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妖精、って何。その2
しおりを挟む「じゃ、頼んだぜ」
卯に未を預けると、申は何処かへ直接行けるゲートを開いて居なくなってしまった。 「申くん…」と未は実に寂しそうな声で申を呼んだが、申は戻ってこない。
「申くんってやさしいけど、いじわるなんだよね」
拗ねる未は呟いた。
「はーん、ツンデレってやつですか」
けっ、と唾を吐きながら戌は相槌を打つ。 戌はどうも酉や申には対応が厳しいらしい。
「ネタにはなりますけど申殿はお呼びじゃねーんですよ」
「つんでれ……?」
未は不思議そうに首を捻ったが、まあいっか、と考えるのを止めた(悪口でなければ何でもいいらしい)。
×
「アタシも、聞いてもいいかい? アタシが知らなかった事も色々知られそうだしね」
「うん、いいよ。 たくさん話しても、もうだれも怒らないもんね」
亥の問いかけに未は快く返事した。
「じゃあ、早速だけど」
卯は切り出す。
「あなたの知っている妖精の情報って何?」
「大量生産の妖精について、まずお願いしてもよろしいですか?」
戌も気になるのか、「知っていればで良いんですけどね」と未を促す。
「えっと、ぼくがあそこをでるまでのことしか答えられないんだけど、」
ごめんね、と前置きを入れて未は語り出す。
「『いっぱいつくられる妖精』についてなんだけど、たしか『契約ができる妖精をたくさんつくりたい』ってことで研究がはじまったんだ」
×
大量生産の妖精は、元々は使い潰しても文句を言われない兵士としての運用を目的としていた。 しかし、魔法少女の粉のエネルギー効率の良さが発見されてからは意図的に『契約器官』を持った妖精を作り出し、それらに契約妖精として育て上げることにした。
『契約器官』とは契約妖精のみが持つ、魔法少女と契約で必要な臓器だ。 契約器官は妖精達の核の直ぐ前に有り、核と太い管で繋がっている。
契約器官の大きさが魔法少女の基礎的な魔力量、契約器官の部屋の数が契約できる魔法少女の人数となっている。 因みに限界数は、未の知る限りでは7名くらい、らしい。
契約器官を持つ妖精の発生率はかなり低いらしく、大量生産型でも、大樹産型でも、契約器官持ちだと判ると、契約妖精を育成する特別な機関に通う事になる。 また、家族がいる場合は国から補助金(の、ようなもの)が送られ、生涯不安なく暮らせるとのこと。
「いちおう、ぼくも契約器官を持っているみたいなんだけど、使ったことはないかな」
未は思い出すように顎の辺りに手を当てうーんと呻く。
「学校には行ったけど、そういうおべんきょうをぼくはできなかったし、むりに使うと、傷んじゃうんだって。 本に書いてあったんだ」
「あなたは、そういうのは持ってないの?」
卯が聞くと、亥は静かに首を振った。
「アタシは……契約器官は持っていなかったけど、頭は良かったから別の機関には行ったね」
妖精の国の学校は、複数の種類があるらしい。 その話も後で聞こう(忘れていなければの話だが)。
妖精が宿らなかった『運命の大樹』の実と妖精が生まれたあとに残る実、大樹の葉を利用して生み出される大量生産型の妖精は、契約器官を持つものを契約妖精育成機関へ、持たなかった妖精を兵士育成機関へと送られ、妖精の国に貢献するように教育される。
因みに大量生産型の妖精の核は、主に葉を固めたものでできており、自然発生型や大樹生まれの妖精と違い、自然死しても何も残らない。
こういった生まれ方や死に方の違いによって、実から生まれた妖精を『種妖精』、大量生産型の妖精を『葉妖精』と呼ぶものもいる。 あまり良い意味では使われず、相手を貶す意味でよく使われる。 生まれ方の違いで妖精達は互いにいがみ合っているらしい。
×
「……なんだか、アタシが居た時よりも酷くなってるみたいだね」
苦々しい声色で(顔が完全に見えない)亥は呟いた。
「それほど『同種への仲間意識』が高いのならば、僅かでも違う、『個性の強い同種』が生まれれば、排除活動が盛んになりそうですねー」
「……そうだね」
能天気な声色の戌の言葉に、静かに未は同意した。
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