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卯、妖精の国に行く。
しおりを挟む「……ちっさ」
妖精の国に着いたら思った以上に建物が小さかった。 国の入り口だと思われる門の高さが(仮の面では)小柄な卯の肩くらいまでしかない。 『外から来る相手の事を考えていないのか』と言いたくなるが、もしかするとこの国で作れる最大のサイズだったのかもしれない。
「な、なんのご用ですか」
熊のぬいぐるみのような妖精が声をかけた。 兵士のような格好をしているので、門番や衛兵なのだろう。 妖精の大きさは膝下にも満たないくらいの大きさだった。 卯は近付くようにそっと膝を地面に突き、
「親書、何だか分かるかしら」
紙の用途もなんと話しかければ良いのかも分からなかったので、酉が言っていたように紙を妖精に見せる。
「へあ、こ、これは……」
妖精は慌てて受付のようなところに戻り、何処かに連絡を入れていた。
「……はい、はい。 では、そのように」
連絡切ると
「たいへん失礼しました、こちらへどうぞ」
と、受付の奥にある客間(推定)に招いてくれるようだった。 が、微妙に小さくて屈むのも面倒だと考えた卯は、
「少し待って」
そう妖精に告げると、一旦門から離れた。
×
「ここまで来れば良いわね」
と、妖精の国の入り口から死角になる箇所で、『ねこ』を胸元から取り出した。
「ねこ、良いわね?」
『ねこ、楽(らく)したかったにゃ』
『ねこ』を鎖骨の間に押し込むような動作をした後、ばっと手を広げた。 その瞬間、卯の体が柔らかい光に包まれたかと思えば2人に分かれていた。
片方は、卯を幼くしたような姿だった。 半分くらいの身長になったので、これならある程度は楽に行けるだろう。
もう片方も背格好と顔は同じだったが、仮面が兎ではなく、猫を模したものになっている。 卯の髪は腰に届くほどのロングヘアだったが、こちらはショートヘアだ。 服もスカートではなく、ショートパンツである。
「これで良いわ」
兎の仮面の方が小さく息を吐き呟いた。
「ねこ、おいしいおやつ所望する」
猫の仮面の方が不貞腐れて頬を膨らませる。
「あとでね。 コレが終わってからよ」
「ふに……」
×
「あ、あれ?! ふ、増えた」
熊のぬいぐるみのような妖精は、首から下げる名札のようなものを持って待っていた。 戻って来た卯の姿が変わっていた事に腰を抜かしたのか、卯達を見上げて尻餅をついた(どちらかと言えば増えた方にびびっている)。
「ごめんなさいね、この子の分もお願いして良いかしら」
「はい、いますぐお持ちします」
妖精が再び奥に引っ込んだ後、卯は良く周囲を観察する。
建築様式、とかよくは分からないが、独特な素材やデザインである。 古さとポップさ、素朴さを混ぜたような感じだ(意味が分からない)。
門の向こうに見える妖精の国は、晴天の日のようにキラキラと強い光を放っているように見えた。 サングラスと日焼け止め塗っとこう、とぼんやりと思ったところで、
「大変お待たせしました。 身分証明カードをお持ちしました」
と言う妖精の声が聞こえた。
×
「これは、妖精の国にいる限りは身の安全を保証する役割を持っているのです」
妖精は卯と『ねこ』が首から下げたカードの説明をする。
「ふーん」
「なかったら保証されにゃいってことかにゃ」
「えっ」
『ねこ』の言葉に硬直してしまった妖精に、卯は雑なフォローをする。
「気にしないで。 悪気は無いの」
「……はぁ…?」
よくわからない、と妖精は首を傾げたものの、気を持ち直し
「それでは、お城までごあんないします」
そう、卯達を門の先へ案内する。
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