仮の面はどう足掻いても。

月乃宮 夜見

文字の大きさ
42 / 60

バケモノと量産品。

しおりを挟む

 《》は魔法少女達と別れ、住処に戻った。


『仮の面』の幹部、此処まで持ってきちゃったけどこれからどうする?


 《》は考える。


こんなに大きいやつを、国に持って帰る?


こんな不気味なやつバケモノなんて、持って帰りたくないよね?


バケモノ穢れの塊だから、そこら辺に置いておく訳にもいかないし……


 《》は考え、悩んでいた。


「じゃあさ、『細かく分割して研究や実験の素材にしてみる』ってのはどう?」


 突如聞こえた見知らぬ声に、《》は思わず振り返

「――なんて、ね」
「ぷぎゅっ!」

る前に、長い足で思い切り踏まれた。

「やぁ。 さっきは随分と……好き勝手に色々とやってくれたね」

 にこりと貼り付けられた笑顔で、仮面の鳥は踏む足に体重を乗せる。


痛い、痛いよ、


なんで? 弱ってたんじゃなかったの。


「『死にかけのフリ』……なんて、つまらない役だよね」

 仮面の幹部は《》の問いに答えるように、芝居がかった仕草で両腕を広げ肩を竦める。

「あれっぽっちの浄化魔法攻撃でオレを浄化出来ると思ってるの?」

困惑する《》を、仮面の幹部は嗤った。


ど、どうしよう


にげなきゃ


逃亡なんてそんなことさせると思ってるの」

パニックになり騒ぎ出す《》を見、仮面の幹部は指を鳴らした。 その途端に周囲の空間が暗く歪み、《》は思うように動けなくなる。

穢れの少ない新人の卯クンならともかく、穢れの塊バケモノであるオレを消したいんなら、あと50倍は最低でも必要だよ」


誰かを踏みつけるなんて、やってもいいと思ってるの?


 そう、話題を切り替えるように妖精が声をあげれば、

「それはこっちの台詞だよ?」

仮面の幹部は妖精を踏みつけたまま、胡散臭い笑みを更に深くした。


痛い、よ……助けて。


「相手にして良い事と悪い事。 きちんと教えられてこなかったのかな?」

魔法少女と契約する正義の味方の妖精のくせに、そう小さくため息を吐き、泣き出した妖精の上から漸く足を退かす。

「それとも……オレ達が『悪の組織悪い奴ら』だから、何をやってもいいって思ってる?」

 仮面の幹部は踏んだ妖精を拾い上げ、ぽいと拠点に有ったテーブルの上に放った。 開放された妖精は、すぐさま幹部から離れて仮面の幹部を涙目で睨み付ける。

「『悪いやつだから粛清する』なんていうのは、確かに世の常みたいな所はあるよねぇ」

 そうでなきゃ魔法少女が一方的に悪の組織を叩ける訳が無いと、仮面の幹部は言う。

「でもさぁ、」

仮面の幹部は問うように首を傾げた。

「オレ達も『意思と目的を持った相手』だってコト、忘れちゃあイケナイよねぇ」


『意思と目的』……?


「そうだよ。 オレ達の組織仮の面は、明確な意思と目的のもとに、活動してるんだから」

戸惑う《》は不思議そうに仮面の幹部を見た。


だって、穢れを持った生き物達は『理性知能がない』って習ったのに


「それは『野良のバケモノや怪物ほんの一部の例外』だけの話だよ。 そもそも、理性がなきゃ面倒極まりない社会生活組織運営なんてしないでしょ」

 胡散臭い笑みに、嘲笑めいた色を含ませる。

「『知能が無いから何をしても良い』って……それでも君達は本当に正義の味方なのかな?」


なんで、そんなこというの。


「正義の味方って大抵は『~の為に~』とか言って気持ち悪い程の偽善振りかざして、なんでも守ろうとするじゃないか」

震える妖精の問いに、仮面の幹部は答えた。

「……まあ、その『守る対象』から初めから外れているのが魔法少女の敵オレ達なんだけどさ」

そう小さく呟いたが、《》には聞こえていなかった。


「それと、関係ない奴ら巻き込むのはどうかと思うんだよ」



……『関係ない』って、魔法少女達の事?


「……はぁ? もしかして、オレが『魔法少女の為に怒ってる』って思ってるの?」


違うの?


「ある意味で確かにそうだけど、『可哀想』とかそんな薄っぺらい感情で言ってる訳じゃないんだよ」


じゃあ、どういうこと?


「『こっちの稼ぎが減るから莫迦な事はするな』って話」

 要領を得ない《》に「やっぱり妖精って頭がお花畑なんだね」と仮面の幹部は嫌そうに目を細める。

「魔法少女じゃなくて、『魔法少女の粉』の為に言ってるんだよ」

仮面の幹部は再びにっこりと胡散臭い笑みを貼り付けた。

「《》みたいな無脳な凡人は、大人しく上の言う事だけ聞いていれば良かったのに」


……無能、な『凡人』?


「そうすれば、こんな目にも遭わずに済んだ筈だ」

 妖精の反応を無視し、仮面の幹部は《》の方を見る。

「まあ、実際のところオレにとっては君たちのことなんてどうでも良いから……本当は、てきとうに済ませておこうかと思ってたんだけど、ねぇ」

そう言った後、常に貼り付けていた胡散臭い笑みを止め、低い声で告げた。


「手を出されちゃあ、流石に無視する訳にもいかないんだよ」


それに、と仮面の幹部は続ける。 

「本格的に排除をすることになったんだよね」


それって、どういう……こと?


直々に許可してくれたんだよ? 大変に名誉だねぇ」


嘘、だ


「オレが妖精に嘘吐いて、どうするの?」

仮面の幹部は再び笑顔を貼り付けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...