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バケモノと量産品。
しおりを挟む《》は魔法少女達と別れ、住処に戻った。
『仮の面』の幹部、此処まで持ってきちゃったけどこれからどうする?
《》は考える。
こんなに大きいやつを、国に持って帰る?
こんな不気味なやつなんて、持って帰りたくないよね?
バケモノだから、そこら辺に置いておく訳にもいかないし……
《》は考え、悩んでいた。
「じゃあさ、『細かく分割して研究や実験の素材にしてみる』ってのはどう?」
突如聞こえた見知らぬ声に、《》は思わず振り返
「――なんて、ね」
「ぷぎゅっ!」
る前に、長い足で思い切り踏まれた。
「やぁ。 さっきは随分と……好き勝手に色々とやってくれたね」
にこりと貼り付けられた笑顔で、仮面の鳥は踏む足に体重を乗せる。
痛い、痛いよ、
なんで? 弱ってたんじゃなかったの。
「『死にかけのフリ』……なんて、つまらない役だよね」
仮面の幹部は《》の問いに答えるように、芝居がかった仕草で両腕を広げ肩を竦める。
「あれっぽっちの浄化魔法でオレを浄化出来ると思ってるの?」
困惑する《》を、仮面の幹部は嗤った。
ど、どうしよう
にげなきゃ
「逃亡なんてさせると思ってるの」
パニックになり騒ぎ出す《》を見、仮面の幹部は指を鳴らした。 その途端に周囲の空間が暗く歪み、《》は思うように動けなくなる。
「穢れの少ない卯クンならともかく、穢れの塊であるオレを消したいんなら、あと50倍は最低でも必要だよ」
誰かを踏みつけるなんて、やってもいいと思ってるの?
そう、話題を切り替えるように妖精が声をあげれば、
「それはこっちの台詞だよ?」
仮面の幹部は妖精を踏みつけたまま、胡散臭い笑みを更に深くした。
痛い、よ……助けて。
「相手にして良い事と悪い事。 きちんと教えられてこなかったのかな?」
魔法少女と契約する妖精のくせに、そう小さくため息を吐き、泣き出した妖精の上から漸く足を退かす。
「それとも……オレ達が『悪の組織』だから、何をやってもいいって思ってる?」
仮面の幹部は踏んだ妖精を拾い上げ、ぽいと拠点に有ったテーブルの上に放った。 開放された妖精は、すぐさま幹部から離れて仮面の幹部を涙目で睨み付ける。
「『悪いやつだから粛清する』なんていうのは、確かに世の常みたいな所はあるよねぇ」
そうでなきゃ魔法少女が一方的に悪の組織を叩ける訳が無いと、仮面の幹部は言う。
「でもさぁ、」
仮面の幹部は問うように首を傾げた。
「オレ達も『意思と目的を持った相手』だってコト、忘れちゃあイケナイよねぇ」
『意思と目的』……?
「そうだよ。 オレ達の組織は、明確な意思と目的の基に、活動してるんだから」
戸惑う《》は不思議そうに仮面の幹部を見た。
だって、穢れを持った生き物達は『理性がない』って習ったのに
「それは『野良のバケモノや怪物』だけの話だよ。 そもそも、理性がなきゃ面倒極まりない社会生活なんてしないでしょ」
胡散臭い笑みに、嘲笑めいた色を含ませる。
「『知能が無いから何をしても良い』って……それでも君達は本当に正義の味方なのかな?」
なんで、そんなこというの。
「正義の味方って大抵は『~の為に~』とか言って気持ち悪い程の偽善振りかざして、なんでも守ろうとするじゃないか」
震える妖精の問いに、仮面の幹部は答えた。
「……まあ、その『守る対象』から初めから外れているのが魔法少女の敵なんだけどさ」
そう小さく呟いたが、《》には聞こえていなかった。
「それと、関係ない奴ら巻き込むのはどうかと思うんだよ」
……『関係ない』って、魔法少女達の事?
「……はぁ? もしかして、オレが『魔法少女の為に怒ってる』って思ってるの?」
違うの?
「ある意味で確かにそうだけど、『可哀想』とかそんな薄っぺらい感情で言ってる訳じゃないんだよ」
じゃあ、どういうこと?
「『こっちの稼ぎが減るから莫迦な事はするな』って話」
要領を得ない《》に「やっぱり妖精って頭がお花畑なんだね」と仮面の幹部は嫌そうに目を細める。
「魔法少女じゃなくて、『魔法少女の粉』の為に言ってるんだよ」
仮面の幹部は再びにっこりと胡散臭い笑みを貼り付けた。
「《》みたいな無脳な凡人は、大人しく上の言う事だけ聞いていれば良かったのに」
……無能、な『凡人』?
「そうすれば、こんな目にも遭わずに済んだ筈だ」
妖精の反応を無視し、仮面の幹部は《》の方を見る。
「まあ、実際のところオレにとっては君たちのことなんてどうでも良いから……本当は、てきとうに済ませておこうかと思ってたんだけど、ねぇ」
そう言った後、常に貼り付けていた胡散臭い笑みを止め、低い声で告げた。
「手を出されちゃあ、流石に無視する訳にもいかないんだよ」
それに、と仮面の幹部は続ける。
「本格的に排除をすることになったんだよね」
それって、どういう……こと?
「王様が直々に許可してくれたんだよ? 大変に名誉だねぇ」
嘘、だ
「オレが妖精に嘘吐いて、どうするの?」
仮面の幹部は再び笑顔を貼り付けた。
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