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意外と大掛かりらしい。 今回の仕事は。
しおりを挟む「君達だけじゃあ不安っていうか普通に手が足りないから、実は未クンと申クン、戌クンも呼んでるんだよね」
影のような小猿にカップとソーサーを回収されていくのを眺めながら、酉は卯と巳に伝える。
「……幹部の半数が入ってるけど?」
意外と多くの最上位幹部が出撃するのね、と卯はぼんやりと思っていた。 しかし、
「……どういうことだ? 基本は最低でも1名、多くても2、3名で集めている筈だが」
そんなに出るなんて、と巳の怪訝な顔をした。
「運良く他に浄化途中の世界がなかったから、問題ないよ」
椅子に座ったまま、酉は大仰に手を広げて胡散臭そうに笑う。 と
「『テメーがここの舞台装置のために全部持っていった』の間違いだろ」
申が悪態を吐きながら食堂に入って来た。
「ホントですよ。 私達が稼ぐ予定だったキラキラを全部持っていくとか酷過ぎじゃありませんか?」
悪態に同意する戌は何かの干し肉の塊を噛りながら食堂内に入り、卯の右隣の席に座る。 戌は仮面の形状を普段は口輪にしているが、今はものを食べているからか右目を隠す黒い眼帯にしていた。 その戌の後に付いていた未は、もしゅもしゅと草を食みながら巳の左隣に腰掛ける。
「でもぼく、申くんとべつのおしごとだったから。 いっしょになれて、とーっても、うれしいよ?」
「嬉しいのはテメーだけだ」
嬉しそうに笑う未に、申は「俺達の稼ぎが根こそぎ持っていかれたんだぞ」と眉間に皺を寄せ、テーブルに何も置かれていない箇所をそのまますり抜けて通過し、酉の隣に座る。
「お行儀わるいよ、申くん」
少しむっとほっぺを膨らませ、未が指摘すると
「うっせ。 俺は底辺だから良いんだよ」
てきとうに申は返した。
×
「役者が全員揃ったし、設定とキラキラの回収目標について話そう」
一様に席に着いた最上位幹部達を見、酉は虚空から資料を出して他の幹部達に簡単な資料を配る。 『配る』とはいっても酉は席は立たずに魔法を使った。
「今回の設定は『道楽趣味の金持ちとそのメイド達』だよ」
資料に目を通すと、主な出撃回数やその出撃の中でどのような行動をしてほしいのかが詳細に記されていた。
「とある金持ちの坊ちゃん(青年)が『世界を自分のものにしよう』と、メイド達をけしかける話でね」
計画通りにいかなかった時用の代替案も複数記されており、とても入念に計画を立てている事が判る。
「メイド役は卯クン、巳クン、戌クンだ」
そう告げた途端、黒と白の布の塊が入った箱が申の横の席に現れた。 申は顔を顰め、布の様子を確認しだす。 何故布が申の横に現れたのか分からずに、卯は首を傾げる。
「わ、私もなのか?」
告げられた言葉に驚く巳に、酉は頷き口角を上げた。
「君、『三幹部になったことがない』らしいね? 『彼奴は1人でも抱え込まずにやっていけるだろうか』って、辰クンが心配してたんだよ」
「う、」
否定のしようがない指摘に言葉を詰まらせ、巳は気まずそうに目を逸らす。
「ぼくと申くんは~、なにをするのかなぁ?」
沢山の野菜が挟まれたサンドイッチを食みながら、未は首を傾げた。 未の前に置かれたカップへ、小猿達はミルクを注いでいる。
「君達は、『金持ちの姪』と、『その執事』。 後半からの追加枠ってやつ」
下がる小猿達に「ありがと~」と手を振り、未はにこにこと微笑む。
「わかった。よ~」
「で、キラキラの回収目標量は?」
布の確認を終えたらしい申は、影のような小猿が申の目の前にカップや受け皿を並べようとしたのを要らないと手で払いながら酉に問う。 追い払われた小猿達が少し、落ち込んでいるように見えた。
「君達に配った資料にも載せた筈だけど……このくらい」
と、書類の中身を申に見せた。
「量が多いな、オイ」
「嘘の資料じゃねーよな」と申は酉を疑わし気に見るが、
「嘘じゃないよ。 オレもこの仕事預かった時に驚いちゃった☆」
と資料を置いて酉は軽く返した。
「なるほど、集める量が途方もなさ過ぎて、ワタクシ達に助けを求めたってコトですか?」
肉を齧りながら、戌はカップに入った紅茶を飲む。
「違うよ。 オレはいつも『集め過ぎ』って怒られてるだろう? だから、一回の仕事でオレが集めて良いキラキラの量が決められていてね」
酉の返答に卯以外の巳、未、申、戌は納得した顔をする。 卯は周囲に合わせ、一応、相槌を打っておいた。
「今回の総量はそれをちょっと超えてしまうから、いっそのこと、今回はオレは一切キラキラを集めずにオレ以外の皆で集めてもらおうかと思って」
「考えが極端過ぎんだろ」
「まともじゃないですねー」
にっこりと胡散臭い笑みを浮かべる酉に、申と戌は野次を飛ばす。
「……ってのは冗談で、卯クンの実戦練習、巳クンの復帰戦、申クン、戌クンへの懲罰だよ」
「うぐっ?!」「ふげぇ?!」
と、言葉と共に酉が空を掴むように拳を握ると、申と戌は喉を締められたかのような呻き声を上げた。 何かをされたらしい衝撃で申はテーブルに突っ伏し、仰け反った戌はそのまま床に倒れた。
「……大袈裟にしないでくれる?」
怪訝な様子で酉が声を掛けると、
「お前手加減間違えてねーか? 骨がイかれちまったんだが」
「ひー、生きてたら死んでましたよ。 加減間違えるとか、アナタ耄碌してるんじゃないですかー?」
反応の割には意外と元気に、申と戌は言い返した。
「……それなら未は何故、此処に居るんだ?」
バケモノ同士のやり取りが終わったところを見計らい、巳はふと疑問を問い掛ける。 卯はちらりと未を見ると、角砂糖をミルクに投入しているところだった。
歌っているとも鼻歌を歌っているともつかない曖昧な歌を上機嫌に歌い、
「おさとう、ふたぁつ、」
と、角砂糖をミルクに落とした。 もう片方の手でティースプーンを持ち、液体をカラカラとかき混ぜる。
「申クンと一緒に居たいって言うから、居させてあげてるだけだよ」
健気だよねぇ、と酉は申の方を見るが、申は不愉快そうに顔を歪ませ舌打ちをしただけだった。
「懲罰……って?」
ついでに聞こうと、卯も気になった事を酉に問う。
「この間、調査を申クンと戌クンに手伝わせたら……不運とドジでめちゃくちゃにされてねぇ」
にこ、と酉が申と戌に笑いかけると、2名は目を逸らした。 少し、顔が青ざめているように見える。
「それと、どうしてアフタヌーンティーなの。 申が作ったものを消費して欲しいっていうのはわかるけど、少し多いと思うのよ」
沢山の食べ物が並ぶテーブルを、卯は見る。 肉が食べられない卯と未に配慮してあるのか、卯が手に取ったサンドイッチには大豆肉が使用されていた。
「そりゃあ、今から本格的に計画を練るのを手伝ってもらう為だよ。 これはその腹ごしらえ」
しっかり食べてね、と酉は言う。
「今は…丁度申の上刻だから、あと1刻過ぎたら戌の刻まで通しでやるよ」
クロークの下から出した懐中時計を見せ、酉は周囲に問う。
「戌の下刻近くになると未クンは本格的に眠っちゃうし、君達も休みたいだろう?」
確かに休息や睡眠は大事よね、と卯は頷く。 巳もそうだな、と納得していた。
「おさとう、にじゅ……うん。 夜になると、ぼく、眠くなっちゃうんだぁ」
まだ砂糖を混ぜていたらしい未は、マイペースにずれたことを答える。 今20いくつだと言いかけていなかっただろうか。
「おい、テメーまた砂糖そんなに入れやがったのか?!」
だからいつまで経っても肥えてんだよ、と睨む申に
「そんなことないもん。 果物一つ分くらいだもん」
と、少し顔を赤くして、未は誤魔化すようにカップを掻き回す。
かき混ぜている液体からは、ザリザリと、指定しようがないほどに明らかに飽和状態であろう音が聞こえた(飽和状態どころではない)。
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