仮の面はどう足掻いても。

月乃宮 夜見

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処分。

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 『仮の面』組織の地下は、情報棟や研究棟、医療棟の一部が侵食している。 それは大量の本を保存しておく場所だったり、地上では出来ない実験の為や重要な機械を使用する治療の為だったりする。

 そしてもうひとつ、一部の最上位幹部しか知らない一面もある。


×


 こつ、と小さな足音に目を開いた。 それはこつ、こつ、と周囲の空間に響かせながら、徐々に近づいてくる。 今のところ一人分の足音しか聞こえないが、この組織内には足音を立てずに移動できるモノが居る為に音だけで判断してはいけない。 感覚を研ぎ澄まして気配や空気御流れなどを辿る。 気配は生物一つ、流れる空気の歪みも小さな人型一つ分のようだ。

 予想通り、こつ、と小さな足音は目の前で止まった。

 そこに立った相手――この組織『仮の面』頭目『子』は、無表情で此方を見下ろす。

 『仮の面』組織の地下には、表立って公表できないもの、ことに対応する為の場所がある。 例えば、相手を拘束する為の牢獄とか。

「……辰っち。 『上』からの指示で『このまま組織に残る』事が決定されたよん」

「なんだ、儂はまだ解放されぬのか」

 牢の中に囚われた男――『辰』は、そこが牢の中であるのが嘘かのように、ゆったりと優雅に其処に居た。

「キミね、……分かっててやってんデショ」

 からからと笑う辰に、子は表情を作り眉間に皺を寄せる。 腕を組んで小さく溜息を吐き

「寧ろ、『もっと厳しく監視しろ』って言われたんだよ」

どうしてくれるのさ、と辰を睨み付けた。

「ほう、それは難儀だな」

「辰っちも酉っちも、大概にして欲しいんですケド!」

 呑気に返事をする辰に子は憤慨する。 ついででその場に居ない酉にも文句を言ってやった。

「そう怒るな。 カルシウムが足りてないのか」
「失礼な!」

笑う辰に怒って見せた後、子は困ったような顔をする。

「辰っち。 ……また、これからもよろしくねん」

「無論だ。 あれの安全が保障されている間だけだがな」

辰は生真面目な自身の眷属を思い、上手くやっているか少し気掛かりだった。

「巳っちはちゃんと上手くやってるよん。 それに、アタシ達が手伝うのは『キミの住処を取り戻すまで』だって言ってるでしょ」

僅かな雰囲気の変化に気付いたらしく、子は巳の様子と、子自身が辰と交わした約束を違えるつもりは無い事を伝える。

「だから、巳っちの安全は出来得る限り保証するし、キミの身も保証したいんだよん」

「既に土地に馴染んでしまった信仰を捻じ曲げるのは其方であっても難しいだろう? ……これは、儂なりの優しさだ」

そう答える辰に、「もう少しアタシ達を信頼してよ」と子は溢したが、辰は優しく目を細めるだけだった。


×


 計画の補助に来たらしい数名の星官と、補助の時にだけ現れる仮面を着けた人型の構成員が、ものを言わずに静かに建物の内装や建物の外観などを整えていくのが見えた。 最上位幹部である卯達は部下達が環境を整えている間に、談話室で計画の確認をする。

「ねぇ。 そういえばだけれど、あの時捕まえた人達とか妖精はどうなったの」

 卯は捕まえた人間達と妖精達に、きっと何かしたであろう当事者(と思われる申と酉)に問う。 昨日、酉が宣言したように食事のあとキラキラ回収の計画を立て、今日はその計画に沿った『魔法少女の敵』としての行動や、この世界で魔法少女になりそうな少女の居場所の再確認等を行っていた。

「……それ、今ここで訊く? まあ、いつかは聞かれるとは思っていたけど」

君って好奇心旺盛だからねぇ、と酉は申を見る。

「ある意味タイミングがいいな、お前」

酉の視線を受け、申は感心した様子で卯のほうを向いた。

「どういうこと?」

「全員じゃねーけど、その中にいた奴らが今丁度居るんだよ」

「何処に?」

「ほら、そこにいるだろ」

首を傾げる卯に、申は黙々と補佐をする真っ新な仮面を被った人型を1名、指した。

「この人型が、あの時見た人間なんだよ」

もう誰だったか忘れちまったけど、と申は影のような小猿の淹れた真っ黒い飲み物を一口飲んだ。

 指された人型は今朝、申が連れてきた構成員で、彼らを連れた際に

「コイツらは俺が裏切らないようにしたから安心して使え」

と申が言っていたが、もしかして

「さあ、そろそろ準備が終わるみたいだ。 ちゃんと気を引き締めてね」

酉の声に、思考が引き戻される。 星官や構成員達が道具を持って引き上げていった。


×


「流石申クン。 役割にピッタリなデザインに仕上げてくれたね」

「『お褒めに預かり光栄です』ってな。 執事役、肩凝りそうだ」

 首の後ろに手をやり、申は首を捻る。 星官と構成員達が去った後、卯、巳、未、戌は申から黒と白の布の塊を手渡された。 拡げてみると、それは給仕服だった。

 巳の衣装は首までキチッと止める長袖のブラウスにロングスカートでクラシカルな雰囲気、戌はパフスリーブのブラウスと裾の絞られたパンツで動きやすそうな、元気そうな雰囲気だ。 未の服は『金持ちの姪』らしく、白いチュールやレースなどで装飾された、ふわふわした印象の黒いワンピースドレスで、とても似合っていた。
 
「申くん、ありがとー。 このお洋服、気に入っちゃったぁ」

「……もう少し布地が余らない予定だったんだがな。 珍しく痩せたのか」

ドレスを纏い嬉しそうに一回りした未に、申は呟く。

「なんかいいかたひどいよ、申くん……」

「丈合ってないやつとか居るか? すぐ直してやるよ」

しょんぼりする未を置いて、申は周囲に声を掛ける。 この服達はデザインから完成までの全てを申が行ったらしい。 だから、最初の話し合いで酉が布の塊を渡したようだ。

「ふふ……卯クン、こうしてみると本当に給仕みたいだねぇ。 今から魔法少女の居場所の確認を下見ついででやろうと思ってるんだけど、一緒にどう?」

一人納得していると、見るからに高級そうな白いスーツをビシッと着こなした酉が声を掛けた。 胡散臭い雰囲気が更に酷くなって、もう詐欺師にしか見えない。

「……。 『お褒めに預かり光栄です。 しかし、私めに身に余るお誘いでございますので、他の方にそのお役目をお譲りします』……申とか」

敢えて申が先程酉に返した言葉を使い、卯は返事をする。 その申は未の全体の様子を見ており、衣装に合わせたアクセサリーの図案を描いていた。

「……つれないねぇ」

そんな気はしていたよ、と酉はあっさり引き下がる。

「あははは、振られやがってますー!」
「急に何かを捥いでみたくなったなぁ……そこの煩瑣い雌犬の頭とか」
「すんません」

 きちんと周囲の最上位幹部達を観察して、自身の幹部としての仕事に活かそうと、卯は気合を入れた。
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