仮の面はどう足掻いても。

月乃宮 夜見

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卯、光落ち枠になりかける。

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 主人公の魔法少女を変身させてから、もう何度か交戦を繰り返した。 卯と巳は出撃したその夜に酉からの評価をもらう。巳は相変わらずの『乙』で、今日出撃した卯の評価は未だに『丙』だった。

 暇があれば酉や一緒に出ている最上位幹部達に怪物のコントロールの方法を教えて貰い

「大丈夫。 想定通り、順調に上手くなってるよ」

と酉から言われているが、そもそも奴のスペックが高過ぎて、自分が上手くなっているのかが良く判らなかった。

 魔法少女達の状態については、、魔法少女達は強くなっている。 そして、回収出来る魔法少女の粉キラキラは、ほぼ予定表通りに増加していた。

「……計画通り過ぎて気持ちが悪いわね」

予定表を仕舞い、卯は出撃の準備を行う。 まあ、あれだけ綿密に計画を立てていれば、そう失敗することも無いのだろう。

「酉も計画通りに上手くいかないことってあるのかしら」

窓の外をみると、薄らと月が見えていた。


×


 主人公の魔法少女に、ラヴァージュとキュイジーヌの出撃時に1人づつ魔法少女が誕生し、主人公より先に変身していた要するに追加枠の魔法少女が1人。

「わたしも、みんなの力になりたいの!」

 そして今、目の前でこちらをキッと睨み付ける少女が1人。

「純真な優しさ! みかん!」

 カッとオレンジ色の強い光に包まれ、新しい魔法少女が生まれた。

「チッ……一体、何匹虫が湧けば気が済むのかしらね」

 本心を混ぜつつ言葉を吐き、冷やかに魔法少女達を見下ろす。 、この5人以上は、魔法少女が増える予定はない。 魔法少女達が揃ってからが本当の仕事の始まりだと、酉は言っていた。

 魔法少女の敵対組織私達の本当の役割は、魔法少女達を上手く成長させる事。 彼女達が組織に勝って老いて死ぬまで、その身に染み付いたキラキラが溢れ続ける、浄化の供給源にさせる事なのだから。


×


「ねえ、」

「何よ」

 怪物が浄化されたので、さっさと帰ろうとした時、主人公に声を掛けられた。

「わたしには分かるよ、あなたには優しい心があるってこと」

「…………は?」

突拍子もない言葉に、思わず素で返事してしまった。『ルメナージュ』は悪の組織の一員だというのに、一体何処に目が付いているのだろうか。

「……どういうことかしら」

主人公の言葉を無視する訳にもいかず、『ルメナージュ』は振り返る。

「あなた、小さい子を助けてたでしょ」

「……あんなのは、ただの気紛れよ。 折角綺麗にした場所を汚されたく無いじゃない」

こいつ等は一体どこからそれを見ていたのだと、寒気がした。 思わず自身を抱いたその行動を、向こう側は葛藤だと勘違いしているようだ。 面倒なので、このまま続ける事にした。

「でも、あなたの行動にはきちんと心が篭ってた!」

 確かに、本当は人を助けたのは気紛れでは無い。 ただ計画に関係ない少女だったから、邪魔にならない場所に退かせただけだった。 しかし、それを引き込むための材料に使われるとは思いもしなかった。 それに、悪の組織の幹部でも、思想や思考まで悪だとは思わないで欲しいのだけれど。

「苦しい思いもしないよ?」

主人公が真っ直ぐな瞳で、『私』ではなく、『ルメナージュ』を見つめる。 今の私が、苦しい思いをしているとでも思っているのだろうか。

「冗談じゃないわ! どうして貴女に同情なんかされなきゃいけないのよ!」

 魔法少女側お花畑陣営に勧誘されるなんて、絶対に嫌だ。 どうせなら、もう少し現実真実を見てから、『私』を見てから、勧誘してほしい。 行かないけれど。

「ねぇ、あなたは……なんでそこに居るの?」

「……貴女達に、言う義理はないわ」

 本当に、義理無い。 魔法少女達は、『ルメナージュ』が『アリストクラット』の下に付く理由を問うているのだろうけれど。 ……実際、『特に意味無く惰性半分、待遇の良さ半分で居る』なんて言えば、確実に引き抜かれる材料にされる。 仮の面ここ以上に待遇というか、都合の良い場所は無いし、計画外の事が起こり始めて、確実に管理者に迷惑をかけている。

「ねえ、いっしょに「……煩瑣いわね。 貴女達には関係ないでしょう」

魔法少女の言葉を遮り、踵を返す。 これ以上計画を乱されたら、酉に何を言われるか分かったものでは無い。

「貴女達って本当に、不快だわ」

 魔法少女達と妖精に吐き捨てる。 が管理している世界で、自分達なら全て上手くいくと思い込んでいるお目出度いおめでたいその頭も、私を自分達の良いように操作しようとする、その思考も。


×


「ほんとにあっちに行っちゃうって思っちゃったよ」

「……随分と、成長したもんだな」

 拠点に帰るなり、未と申に出迎えられた。 先程のやり取りをアドリブだと思ってくれたようで、非難する様子は見られなかった。 一応。

「……本当に、演技だったのか?」

 自室に戻った後、いつものように巳が卯の所にやってきた。 心配そうな巳に、安心するよう卯は答える。

「心配しなくても『仮の面』を抜ける気は今のところ無いわよ。 此処以上に福利厚生がしっかりしてる場所ないし」

「確かに、待遇大事ですよねー」

 とても自然に、そして突然、戌が会話に混ざり割り込んでいた。 そして、何故かベッドの下の隙間から出る。

「いえいえ、なぁーんにも。 やましい事はしておりませんので、お気になさらず」

戌は筋肉質な体付きをしているが、どうやら身体も大変柔らかいようで、するりとベッドの下から這い出る。

「酉殿がお呼びですよ、卯殿」

それなら、今まで通りにドアの向こうからでも良かったのでは。


×


「おめでとう、漸く評価が『乙』のレベルまで上がってくれたねぇ」

 特に、あの即興的な対処アドリブ……良かったよ、と酉はいつも通りに一人掛けのソファーに腰掛け、にこりと笑みを浮かべる。 酉基準の『乙』だから、大体87点以上になれたらしい。

「……何よ」

 評価を聞き終えたので、卯は帰ろうと酉に背を向けたが、直ぐに振り返った。 じっとりと纏わり付く、何か言いた気な視線に、いい加減嫌気が差してきたのだ。

「いいや。 に用はないよ」

「あれだけ嫌な視線向けておいて、よくもまあそんな白々しい言葉が出るわね」

拠点に戻ってから酉の姿は見かけなかったが、何故かよくわからない視線を感じていた。 評価の為に呼び出され、その視線の持ち主が酉だと気が付いたのだった。

「おやぁ、オレの熱視線を嫌な視線っていうの?」

ぱっと声を明るくして、胡散臭い笑みを酉は貼り付ける。 酉は繕わずにあっさりと認めた。

「オレの用事があるのは、『君が組織を出るか否か』或いは、『組織を裏切るか否か』。 ただそれだけだよ」

 ソファーから立ち上がり、酉は卯の側までゆっくり歩いて来る。 同じように、ゆっくりと圧力を掛けながら。

「同じでしょう」

卯は逃げ出したくなるのを堪え、キッと近付く酉を睨み付ける。 同じじゃ無いよ、と卯の目の前で立ち止まった酉は笑みを崩さずに言う。 

「なるべく、離れてくれないことを望むよ」

強要はしない、と暗に言っているようであるが、それと同時に『出ていくなよ』という圧力を感じた。

「……それは、何の為?」

「そりゃあ、『君の為』に、言っているんだよ」

「……本当に?」

「それと、組織、オレの為に言っているんだよ。 折角育てた期待の新人が裏切りだなんて、組織にとって大きな損失だし、オレの首が飛んじゃう案件だし」

何故だかそれらの他にも理由がありそうな気がしたが、

「さあ、もう自室にお帰り」

もう夜遅いからね、と声を発する前に帰るよう促される。 それと同時に圧力から解放された。

 彼等もまた、私を操作しようとしているのだろうか。 憂鬱に、溜息を吐いた。
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