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第三話 成長
第三話 五
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満月の晩以降、鈴音の姿は幼女のものに戻っていた。あのときの冴え冴えとした思考や鮮やかでくっきりとした視界もたちどころに消え、今は霞の只中に佇んでいるような感覚である。満月が輝きだした夕方に妙に多弁だった鈴音は、翌日には幼い言動に返っており兄たちは特に何も言わなかった。遥杜も翌朝顔を合わせたときは爽やかな作り笑いで『おはよう』と言っただけだ。
そのまま大きな変化はなく弥生も終わりに差し掛かったある日のことである。
鈴音は最近追加された新たな宿題として、新聞を読んでいた。
五人揃って任務中心の生活をしてきたためにこの邸では新聞をとることはしなかったが、妖保護部隊本部では情報収集も兼ねて複数の新聞社から新聞を取っている。言語学習にもなり世情にも詳しくなれるということで、本部から前日の新聞をもらい、鈴音はそれを時間をかけて読んでいるのだった。
今日も天気が良いので縁側に座って新聞を広げていた。流れで大きな紙面をばさりと繰ったはいいものの、小さい文字ばかりを追っていたせいで目は疲れを訴えている。『時には休むことも肝要なのさ。働き詰めでは却って効率が悪くなってしまう』といういつぞやの雅仁の台詞が頭を過った。しかし直後に千里に雷を落とされていたことも思い出して、やはりもう少し頑張ってみようと思い直す。
「あれ?」
新たな紙面にはびっしりと詰まった文字の連なりではなく、何かの図が一面を使って描かれていた。元となっているのはこの国の地図のようだが、歪んだ線が引かれ、日付が振られている。
「あ、昨日出たんだね。この辺はあと一週間くらいで満開予想かぁ」
「まだ二分咲きだけど天気の良い日が続くから、このあと一気に咲くんじゃないかな」
動かしていた手を止めて鈴音の脇から新聞を覗き込んできた鴇羽と瑠璃を鈴音は振り返ろうとする。
「これ、何かわかるの?」
「わーっ、動かないで動かないでっ」
鴇羽が慌てて止めるので、鈴音は髪をまとめてもらっていたことを思い出し、ぴしっと姿勢を正す。鴇羽は崩れてしまった編み込みを解いてまた頭頂部から編み直しながら、図の正体を教えてくれた。
「それは桜の開花予想だよ。……よしっと。瑠璃、ここ結んでー」
「うん」
瑠璃は鈴音の右顎の付け根あたりで小さな帯のような布を蝶結びにした。左側も同様にすでに終わっているのでこれで完成らしい。蝶結びより下の髪束を肩の前に垂らして、鴇羽が満足げに頷く。
「すずちゃん、なんでも似合うよね」
「ね、可愛い」
瑠璃もふわりと控えめな笑みを覗かせるが、鈴音はお礼も忘れて「桜」と呟いた。
優しい夢はいつかの記憶だった。詳しくは思い出せないが、父も母も幼い鈴音も笑っていたことだけは確かだ。
「桜っていえば、やっぱりお花見したいよね」
「前も言ってたよね、それ。鴇羽の場合は花を愛でるんじゃなくて美味しいものが食べたいだけじゃないの」
はっと鈴音は顔を上げた。
(違う。ときちゃんとるりちゃんじゃなくて……)
どこかで聞いたことがある気がするが、一体いつどこでだろうか。少なくとも目の前のこの二人ではなかったと思うが。
(……わからない)
思い出そうと記憶を探ってみるが、引っかかるものはなく鈴音は諦めた。
「まあまあ。いいじゃない、どっちでも。すずちゃんもいるんだから、きっと楽しいよ」
「あのときはまさ兄も大丈夫って言ってたけど……。来週お花見できるか、また訊いてみよう」
「お花見。……楽しい?」
当然鴇羽か瑠璃の声が返ってくるものとばかり思っていた鈴音に、突然差した大きな影が答えた。
「ああ、きっと楽しいさ」
「まさちゃん」
「うん。鈴音も大好きなまさちゃんだよ」
雅仁はにこにこと笑うと「どっこいしょっと」と鈴音の隣に腰かけた。
「実に良い天気だね。こんな日は室内に閉じこもっていないで外を出歩くに限る」
目を細め、気持ちよさそうに暖かな春の陽射しを受ける雅仁はまるで休日のようなくつろぎ様であるが、鈴音たちは彼が今朝、千里によって職場へ連行されたことを知っている。
鴇羽ががたっと膝を立てた。
「なんでまさちゃんがここにいるの⁉」
雅仁は目だけで鴇羽を振り返り、さらりと答えた。
「ここはぼくの家だよ? ぼくがここにいて何かおかしなことがあるかい?」
瑠璃は鴇羽のように驚きはしなかったものの雅仁を見る目は冷ややかである。
「まさ兄がここにいることがおかしいんじゃなくて、今いることが問題だよ」
「ふうむ……。まるで千里のようなことを言うね」
「そりゃそうでしょ! せんちゃんが知ったらこんなものじゃ済まないよ。早く職場に戻りなよ」
雅仁はぱちりとひとつ目を瞬いて、閃いたとばかりに口端をにいっと持ち上げた。
「うん、千里にばれなければ良いということだね。それで花見だったかい?」
てこでも動かないと悟った瑠璃と鴇羽ははあっと深いため息を揃えた。
「僕たちは止めたからね」
「せんちゃんに怒られても知らないからね」
雅仁にはもう聞こえていないのか聞こえていても気にしていないのか、それに関しては言及せずにひとり気ままに話している。
「予想通り来週には桜は見頃になりそうだし、天気も心配ないだろう。ちょうど一週間後に皆が休みの日があるから、その日にするというのはどうだろうか」
「結局、福塚の行方はまだわからないんだよね? すずを連れ歩いて本当に大丈夫?」
福塚を取り逃がしたあの日から未だに彼の所在は明らかになっていない。鈴音を狙ったり第一部隊に報復したりといったことがないとも限らない。瑠璃が慎重になって確認すると、雅仁は「なんだ、そんなこと」とどこか勝気な笑みを浮かべた。
「以前にも言ったけれど、ぼくの治める土地なら『氏神の籠目』を使役できる。その威力は瑠璃も知っての通りだから、何も心配することはないよ。瑠璃の敬愛するまさ兄を信じなさい」
氏神の籠目とは雅仁が使役できる能力で、強力な結界術のことだ。鈴音は見たことがないが、神を公言するだけありその威力は凄まじいと瑠璃や鴇羽から聞いたことがある。神性を持つ妖であっても雅仁の張る結界には一歩も踏み込めないと言っていたので、福塚のようなただの人間には近づくことすら難しいだろう。
瑠璃はほっと力を抜いた。
「うん。だったらお花見行きたいね」
「だよねっ。お弁当とかお菓子とか、美味しいものいっぱい食べられるし」
「食欲があるのは良いことだね。元気な証拠だ」
声を弾ませる鴇羽を横目に、雅仁は袖に手を入れて腕を組みうんうんと鷹揚に頷いている。鴇羽は「でしょー」と得意げに胸を反らすと、ぱっと鈴音を振り返った。
「すずちゃんは、何か食べたいものある? せっかくだし、せんちゃんに色々お願いしてみようよ」
「せんちゃんのごはんは、なんでも美味しい。お願いするの、どれにしようかな……」
そうして鈴音が小さく唸っていたときだ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいですね。何をお願いされても頑張りたくなります」
一匹の狼が音もなく颯爽と現れた。
灰色の艶やかな毛並みに理知的な青色の瞳、鋭い犬歯。姿は全く違えども、落ち着いた雰囲気や優しい声は間違えようがない。
「せんちゃん、おかえり」
本性の狼姿だった千里はすっといつもの人間姿に化けた。苦笑いではあるが鈴音に注がれる視線は穏やかだ。
「ただいま戻りました、と言いたいところではありますが、実はまだ仕事中なんです」
「そうなんだ。大変なんだね、お仕事」
「ええ、困ったことに。……ねえ、雅仁兄さん?」
青い瞳は怒りに燃え、静かな声が一段低くなる。
鬼のような形相で千里に睨まれても雅仁はけろりと何食わぬ顔で縁側にゆったりと腰かけたままだった。
「おや、ばれてしまったね。こんなに早く見つかるとは思わなかったよ」
「兄さんが本部のどこにもいないと知って、本性に戻って真っ先にここに駆けつけましたからね」
「おお、それはご苦労様」
「誰のせいで苦労してると思ってるんですか……!」
千里の拳はきつく握りしめられており、今にも手のひらに爪が食いこみそうである。瑠璃がおろおろと千里に駆け寄る。
「せん兄、手、怪我しちゃうよ」
「え? ああ、ごめんなさい、つい」
千里は瑠璃を安心させるように咄嗟に微笑むと拳を解いた。
雅仁はそれで流れたと思っていたようだが、千里が許すはずない。
「一週間後にお花見がしたいんですっけ? ……休みになるといいですね、雅仁兄さん?」
笑顔に色はつけられないはずだが、鈴音には千里の今の笑顔が真っ黒に見えた。
「んん、どういう意味かな?」
「さて、どういう意味でしょうね。このまま仕事に戻らないで当日を迎えればわかるんじゃないでしょうか」
執念深く雅仁を探していただろうに千里はそれだけ言い捨ててあっけなく邸を後にした。一方の雅仁は頑として動こうとしなかったのに、急にさっと軽い身のこなしで立ち上がった。
「これはいけない。まずいことになりそうだ」
「だから言ったのに」
「まさちゃんだけお花見にいないのは寂しいから、ちゃんと頑張ってきてねっ」
しっかりとした体格からはおよそ想像できない身軽さと俊敏さで雅仁は邸を飛び出した。向かうのはきっと職場だろう。
その後、雅仁は非常に熱心に書類仕事を捌いたという。本来なら一週間はかかる量だったらしいが二日半で終わらせたとか。千里に脅された後、珍しく雅仁が自分から職場に戻ってきたと思ったら無表情かつ無言で執務机に張り付いていたと帰宅した遥杜が引きつった笑みで語っていた。
そのまま大きな変化はなく弥生も終わりに差し掛かったある日のことである。
鈴音は最近追加された新たな宿題として、新聞を読んでいた。
五人揃って任務中心の生活をしてきたためにこの邸では新聞をとることはしなかったが、妖保護部隊本部では情報収集も兼ねて複数の新聞社から新聞を取っている。言語学習にもなり世情にも詳しくなれるということで、本部から前日の新聞をもらい、鈴音はそれを時間をかけて読んでいるのだった。
今日も天気が良いので縁側に座って新聞を広げていた。流れで大きな紙面をばさりと繰ったはいいものの、小さい文字ばかりを追っていたせいで目は疲れを訴えている。『時には休むことも肝要なのさ。働き詰めでは却って効率が悪くなってしまう』といういつぞやの雅仁の台詞が頭を過った。しかし直後に千里に雷を落とされていたことも思い出して、やはりもう少し頑張ってみようと思い直す。
「あれ?」
新たな紙面にはびっしりと詰まった文字の連なりではなく、何かの図が一面を使って描かれていた。元となっているのはこの国の地図のようだが、歪んだ線が引かれ、日付が振られている。
「あ、昨日出たんだね。この辺はあと一週間くらいで満開予想かぁ」
「まだ二分咲きだけど天気の良い日が続くから、このあと一気に咲くんじゃないかな」
動かしていた手を止めて鈴音の脇から新聞を覗き込んできた鴇羽と瑠璃を鈴音は振り返ろうとする。
「これ、何かわかるの?」
「わーっ、動かないで動かないでっ」
鴇羽が慌てて止めるので、鈴音は髪をまとめてもらっていたことを思い出し、ぴしっと姿勢を正す。鴇羽は崩れてしまった編み込みを解いてまた頭頂部から編み直しながら、図の正体を教えてくれた。
「それは桜の開花予想だよ。……よしっと。瑠璃、ここ結んでー」
「うん」
瑠璃は鈴音の右顎の付け根あたりで小さな帯のような布を蝶結びにした。左側も同様にすでに終わっているのでこれで完成らしい。蝶結びより下の髪束を肩の前に垂らして、鴇羽が満足げに頷く。
「すずちゃん、なんでも似合うよね」
「ね、可愛い」
瑠璃もふわりと控えめな笑みを覗かせるが、鈴音はお礼も忘れて「桜」と呟いた。
優しい夢はいつかの記憶だった。詳しくは思い出せないが、父も母も幼い鈴音も笑っていたことだけは確かだ。
「桜っていえば、やっぱりお花見したいよね」
「前も言ってたよね、それ。鴇羽の場合は花を愛でるんじゃなくて美味しいものが食べたいだけじゃないの」
はっと鈴音は顔を上げた。
(違う。ときちゃんとるりちゃんじゃなくて……)
どこかで聞いたことがある気がするが、一体いつどこでだろうか。少なくとも目の前のこの二人ではなかったと思うが。
(……わからない)
思い出そうと記憶を探ってみるが、引っかかるものはなく鈴音は諦めた。
「まあまあ。いいじゃない、どっちでも。すずちゃんもいるんだから、きっと楽しいよ」
「あのときはまさ兄も大丈夫って言ってたけど……。来週お花見できるか、また訊いてみよう」
「お花見。……楽しい?」
当然鴇羽か瑠璃の声が返ってくるものとばかり思っていた鈴音に、突然差した大きな影が答えた。
「ああ、きっと楽しいさ」
「まさちゃん」
「うん。鈴音も大好きなまさちゃんだよ」
雅仁はにこにこと笑うと「どっこいしょっと」と鈴音の隣に腰かけた。
「実に良い天気だね。こんな日は室内に閉じこもっていないで外を出歩くに限る」
目を細め、気持ちよさそうに暖かな春の陽射しを受ける雅仁はまるで休日のようなくつろぎ様であるが、鈴音たちは彼が今朝、千里によって職場へ連行されたことを知っている。
鴇羽ががたっと膝を立てた。
「なんでまさちゃんがここにいるの⁉」
雅仁は目だけで鴇羽を振り返り、さらりと答えた。
「ここはぼくの家だよ? ぼくがここにいて何かおかしなことがあるかい?」
瑠璃は鴇羽のように驚きはしなかったものの雅仁を見る目は冷ややかである。
「まさ兄がここにいることがおかしいんじゃなくて、今いることが問題だよ」
「ふうむ……。まるで千里のようなことを言うね」
「そりゃそうでしょ! せんちゃんが知ったらこんなものじゃ済まないよ。早く職場に戻りなよ」
雅仁はぱちりとひとつ目を瞬いて、閃いたとばかりに口端をにいっと持ち上げた。
「うん、千里にばれなければ良いということだね。それで花見だったかい?」
てこでも動かないと悟った瑠璃と鴇羽ははあっと深いため息を揃えた。
「僕たちは止めたからね」
「せんちゃんに怒られても知らないからね」
雅仁にはもう聞こえていないのか聞こえていても気にしていないのか、それに関しては言及せずにひとり気ままに話している。
「予想通り来週には桜は見頃になりそうだし、天気も心配ないだろう。ちょうど一週間後に皆が休みの日があるから、その日にするというのはどうだろうか」
「結局、福塚の行方はまだわからないんだよね? すずを連れ歩いて本当に大丈夫?」
福塚を取り逃がしたあの日から未だに彼の所在は明らかになっていない。鈴音を狙ったり第一部隊に報復したりといったことがないとも限らない。瑠璃が慎重になって確認すると、雅仁は「なんだ、そんなこと」とどこか勝気な笑みを浮かべた。
「以前にも言ったけれど、ぼくの治める土地なら『氏神の籠目』を使役できる。その威力は瑠璃も知っての通りだから、何も心配することはないよ。瑠璃の敬愛するまさ兄を信じなさい」
氏神の籠目とは雅仁が使役できる能力で、強力な結界術のことだ。鈴音は見たことがないが、神を公言するだけありその威力は凄まじいと瑠璃や鴇羽から聞いたことがある。神性を持つ妖であっても雅仁の張る結界には一歩も踏み込めないと言っていたので、福塚のようなただの人間には近づくことすら難しいだろう。
瑠璃はほっと力を抜いた。
「うん。だったらお花見行きたいね」
「だよねっ。お弁当とかお菓子とか、美味しいものいっぱい食べられるし」
「食欲があるのは良いことだね。元気な証拠だ」
声を弾ませる鴇羽を横目に、雅仁は袖に手を入れて腕を組みうんうんと鷹揚に頷いている。鴇羽は「でしょー」と得意げに胸を反らすと、ぱっと鈴音を振り返った。
「すずちゃんは、何か食べたいものある? せっかくだし、せんちゃんに色々お願いしてみようよ」
「せんちゃんのごはんは、なんでも美味しい。お願いするの、どれにしようかな……」
そうして鈴音が小さく唸っていたときだ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいですね。何をお願いされても頑張りたくなります」
一匹の狼が音もなく颯爽と現れた。
灰色の艶やかな毛並みに理知的な青色の瞳、鋭い犬歯。姿は全く違えども、落ち着いた雰囲気や優しい声は間違えようがない。
「せんちゃん、おかえり」
本性の狼姿だった千里はすっといつもの人間姿に化けた。苦笑いではあるが鈴音に注がれる視線は穏やかだ。
「ただいま戻りました、と言いたいところではありますが、実はまだ仕事中なんです」
「そうなんだ。大変なんだね、お仕事」
「ええ、困ったことに。……ねえ、雅仁兄さん?」
青い瞳は怒りに燃え、静かな声が一段低くなる。
鬼のような形相で千里に睨まれても雅仁はけろりと何食わぬ顔で縁側にゆったりと腰かけたままだった。
「おや、ばれてしまったね。こんなに早く見つかるとは思わなかったよ」
「兄さんが本部のどこにもいないと知って、本性に戻って真っ先にここに駆けつけましたからね」
「おお、それはご苦労様」
「誰のせいで苦労してると思ってるんですか……!」
千里の拳はきつく握りしめられており、今にも手のひらに爪が食いこみそうである。瑠璃がおろおろと千里に駆け寄る。
「せん兄、手、怪我しちゃうよ」
「え? ああ、ごめんなさい、つい」
千里は瑠璃を安心させるように咄嗟に微笑むと拳を解いた。
雅仁はそれで流れたと思っていたようだが、千里が許すはずない。
「一週間後にお花見がしたいんですっけ? ……休みになるといいですね、雅仁兄さん?」
笑顔に色はつけられないはずだが、鈴音には千里の今の笑顔が真っ黒に見えた。
「んん、どういう意味かな?」
「さて、どういう意味でしょうね。このまま仕事に戻らないで当日を迎えればわかるんじゃないでしょうか」
執念深く雅仁を探していただろうに千里はそれだけ言い捨ててあっけなく邸を後にした。一方の雅仁は頑として動こうとしなかったのに、急にさっと軽い身のこなしで立ち上がった。
「これはいけない。まずいことになりそうだ」
「だから言ったのに」
「まさちゃんだけお花見にいないのは寂しいから、ちゃんと頑張ってきてねっ」
しっかりとした体格からはおよそ想像できない身軽さと俊敏さで雅仁は邸を飛び出した。向かうのはきっと職場だろう。
その後、雅仁は非常に熱心に書類仕事を捌いたという。本来なら一週間はかかる量だったらしいが二日半で終わらせたとか。千里に脅された後、珍しく雅仁が自分から職場に戻ってきたと思ったら無表情かつ無言で執務机に張り付いていたと帰宅した遥杜が引きつった笑みで語っていた。
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