カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

文字の大きさ
452 / 454
小話

カモミールに誘われて

しおりを挟む
「お母さんが亡くなっておかしくなっちゃったのかしらね」
「見えないお友だちってやつじゃない。変な子ね……」

慈乃しのちゃん、また誰かとお話してる……」
「ね。誰もいないのにね」

「知ってる? 遠藤えんどうさんって……」
「あんまりしゃべんないし笑ったとことか見たことないし、ちょっと怖いよね」
「なんか幽霊が友だちらしいよ」
「えー、何それー」

「いても迷惑な存在なんだから、でしゃばらずにおけよな。自分は頭がいいんだって自慢かよ。マジでむかつく、目障りなんだよ! なんでこんな奴が従妹なんだか……」
真白ましろ兄さんも余計なもの遺してってくれたよ」
「とりあえず高校には行かせましょう。世間体があるのだし……」

 誰もが私の存在を疎ましく思っている。そして、私自身そんな自分に失望している。
 楽にしてほしいと願いながら、自分の手で人生を終わらせる勇気もないから、浅ましく醜い生き様だと蔑み、嘲り笑い、ただ息をするだけの毎日。
 今日も私の世界に色はない。一体いつまでこの景色は続くのだろう。
 自分に価値を見出せず、生命に意味を感じられず、居場所も見つけられない。こんな自分、生きていて何になる? こんな自分が生き続けるくらいなら、明日を生きたくても生きられない人に命を譲ってしまいたい。
 生きる。ただそれだけのことが辛く苦しい。早く終わりにしてしまいたい。楽になりたい、死にたい、殺してほしい……。

 何もない真っ暗闇の中を、ふらふらとおぼつかない足取りで彷徨う。終わりの見えない黒一色の世界は、慈乃の心そのものだった。広がる闇が心地よくて、このまま溶け消えてしまえたらと思う。
 それでも未練がましく、本能だけは生に執着するのだ。
 相反する二つの気持ちが慈乃の心を圧迫する。それが余計に苦しかった。
(私だって、できることなら、生きたいわ。だけど、これ以上苦しむのは、耐えられない……)
 弱い自分を呪いたくなる。こんな自分、生きていていいはずがない。そんな資格ない。希望や未来など望んではいけない。
 堂々巡りを続ける思考に自己嫌悪する。
 いよいよ暗闇の中を進む気力もなくなり、足を止めて、しゃがみ込んだ。
(私、どうしたいの……? ……自分のこと、なのに。わからないなんて……)
 こんなに胸は苦しいのに、涙の一滴も出やしない。
「私は、生きていていいのでしょうか……?」
 答えなど端から期待していない懺悔のような問いに、返る声があった。
『くるしいんだよね』『ほんとうはいきたいんだよね』『シノがほんとうにのぞむなら』『きみがこれいじょうかなしまなくてすむのなら』『わたしたちがたすけてあげる』『だからいつかでいいからわらってほしいの』『いきててよかったっておもってほしいの』
 眩しい白につられて顔をあげると、目の前に一筋の光の道が延びていた。柔らかく温かな光に導かれるようにして、慈乃は躊躇いがちに一歩を踏み出した。
(私が生きていることに、意味が、あるのなら……知りたい。この先に続く未来を、歩みたい)
 細い道は唐突に開けて、慈乃は真っ白な光の波に飲み込まれた。


「おはよう、シノ」
 目を開けて最初に飛び込んできたのは、春の陽のような優しい笑顔。先ほどの白色より安心感のある眩しい蒲公英色とマリーゴールド色だった。
「ウタくん……?」
「はい、ウタセです」
 ウタセは冗談めかして笑ったが、そこで慈乃はがばっと机から身を起こした。肩からブランケットが滑り落ちたので、慌てて掴んだ。
確か保健室で言の葉語を教えてもらっていたはずだが、いつの間にやら眠ってしまっていたようだ。
「す、すみません……! せっかく時間を割いていただいていたのに……っ」
「ううん、気にしないで。慈乃は非番なんだし、疲れてたんでしょう? 休めるときには休まないとね」
 ウタセは慈乃の分のお茶を淹れるとそれを慈乃の前に置いて、それから席に着いた。
「うなされてたから何度か起こそうとしたんだけど、起きなくて。ごめんね」
「いえ、ウタくんが謝ることではありません……!」
 ウタセに申し訳なさそうにされるといたたまれなくなる。慈乃はふるふると首を横に振った。
 ウタセは夢の内容を聞いてくることはしなかったが、慈乃は夢で見たことを反芻していた。
(あれは、ほとんど過去の焼き直しね……)
 人間を信じられなくて、自分も好きになれなくて、なにもかもを止めてしまいたいと願い続けていたあの頃。それは遠い昔のことなどではない。つい半年前まで、慈乃は色のない世界で生きていた。
(それが、こんなにも色鮮やかな世界に変わったのね)
 カモミールの声に導かれて、ウタセに出会って、学び家の家族に優しさと笑顔をもらった。そんな日常の交流の積み重ねがいつしか慈乃を変えていた。
 
カモミールにいざなわれた先で私を待っていたものは……。

「シノお姉ちゃんみつけた!」
 保健室に飛び込んできたのはメリルだった。その勢いのまま、慈乃に駆け寄る。
「やっぱりオレの予想は正しかったろ?」
「なんであんたが自慢げにするの? ウタ兄のところにいるかもって最初に言ったのはトゥナでしょ」
 ガザが胸を反らすのへ、カルリアは呆れたため息をこれ見よがしに吐いた。同じく呆れた様子のソラルが後を続ける。
「しかも実際に見つけたのはメリルですしね」
 そこで手を打ったのはトゥナだ。
「って、そんなこと言いに来たんじゃないよ。シノ姉、ウタ兄も。ニア姉がおやつだよって」
「しょくどうにきてね、だって。いこう」
 メリルが慈乃の手を引いた。慈乃は腰を浮かせてウタセを振り返った。
「ウタくんも、行きましょう」
「うん!」
 七人で連れ立って保健室を後にする。他愛ない話をしながら食堂まで歩いていった。
 
 歩む道程は未来への希望に、行きつく先は何より愛しく輝かしいものに満ち溢れている。
 カモミールに誘われて先で慈乃を待っていたものは、優しく温かな世界と家族だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!

忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。 生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。 やがてリオは、 一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。 しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...