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プロローグ
しおりを挟む「嫌だ!死なないで、目を開けてよフォル!」
ああ、何でベルが泣いてんだ?
泣くなよベル。お前が泣くのは苦手なんだよ。
泣き止ませたくて、慰めてやりたいのに、人化出来なくなったオレは鼻先を寄せる位しか出来ねぇ。
いつも通り、そうやって慰めようとするが、何故かピクリとも動かねぇ。
何でだ?と思ったが、思い出した。
確か、ベルと任務に来て、デカイ奴とブチ当たって、それで──。
それで、ベルを庇ったんだっけか。
デカブツの気配は感じねーつーか、ベルの後ろの炭がそれか。
まあ、良かった。流石にもう、奴の相手をする余裕はないからな。
血を、命を、魔力を流しすぎた。
流石に目が霞む。
人化できれば、この体を維持する分の魔力を傷の回復に回せる筈なんだが。
自力では人化出来ない、この出来損ないの身体がまた厄介だと思う事が来るとは予想外だった。
グズグズに泣き続けてるベルの顔がえらい事になっている。
可愛い顔が台無しだ。まあ、グズグズになっていとも、ベルはベルだが。
まだ、やりたい事はそれなりにあったが、ベルの役に立てたのなら、別に良いか。
けどまあ、心残りといえば、一つだけ。
ベルに、名を呼んで貰いたかった。
ベルが付けてくれた名も、悪くは無かったが、一度くらい。
幼名でも、称号でもなく、魂の真名を。
──オレの名を呼べ、ベル。アマベル。
出逢った当初、真名を教えようとも思わなかった事が懐かしい。
あの時は、意志疎通出来ない事に苛ついたものだが、今はそれを越えてもどかしく感じる。
竜化していても人の言葉を話せるらしいが、練習して来なかったこの身が恨めしい。
神やら奇跡なんぞ、生まれてこの方信じた事は無かったが、今初めてソレに祈りたくなった。
──オレの名は、ブラヴダーロだ。
けれど、奇跡とやらは存在しているらしい。
「……ブラヴダーロ?」
何がどうやって通じたのか、この時のオレは奇跡だとしか思えなかった。
望みが叶えられた事で、心残りが無くなったオレはフッと、全身の力が抜けた。
「それが貴方の本当の名前なの?嫌だよ、こんな時になって教えてくれなくても良いじゃない!名前なんか知らなくても良かった!貴方が居なくなったら意味がないのに!起きてよ!どうして回復魔法が効かないの!?」
脱力し、目さえも閉じてしまったから、いよいよ最期だとベルも悟ったのだろう。
ベル自ら、オレの鼻先へと抱き着いて来た。
甘えたなベル。一体これからどうやって行くんだろうか。
心残りが、一つ、増えてしまった。
段々と重くなる身体に、遠くなる思考力。
ベルの泣き声を遠くに聞きながら永久の眠りへと誘われようとしていたその時、再び奇跡は舞い降りた。
急に重くなった身体に、思考力が一瞬だけ晴れた。
その一瞬に見えたベルの顔は何故か真っ赤に染まっていた。
ベルが抱き着いて来た時、勢いが強すぎて顔面を強かに打ち付けたらしい。
その時、偶然にも“涙で濡れた唇”も触れた事で偶然にも条件が揃ったらしい。
やけに急に身体が重く、眠たくなったのは、その前兆だったらしい。
後にベル曰く「突発、強い魔力がキラキラしながらフォルの回りをグルグル回り始めて、眩しくて目を閉じて、開けたら生まれたままの姿のフォルが居た」らしい。
「お嫁に行けない」と嘆いていたが、別にその必要は無いだろう?
人化に戻れたのは良いが、情けなくも気を失ったままのオレは増援部隊に救出されたものの、しばらくベルと引き離されてしまった。
いくら竜だと説いても、また竜化出来なくなってしまったオレの身分を証明する物は何もない。
──これは、困り果てたオレ達が、この国から出て、諸国を巡るまでの物語りである。
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