探偵兼殺し屋 御影の日常

恭介

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スピンオフ

御影・アリス高1の話

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今もありありと思い出せる。アリスに傘を渡した、あの日の事を。

─手持ちの金もだいぶ減ったな。何か金づるが有ると良いのだが。
雨に打たれ続けるビニール傘を見て、そんな事を思った。家出して1週間。警察の目を巻き、家の半径10km以内に居る。自分の計画は正しかった様だ。今や、捜査網は大都会に向いて、こちらではない。
それより、金か。逆カツアゲでもしようか、それともここは別荘地、政治家の口止め料か。そんな事を考えて、自分の場所─縄張りか裏路地が妥当だろう─に戻ると、人が居た。人の場所で何やってんだ、とは言えない。そもそも自分の場所では無い。
その場で止まっていると、それは振り返った。まず観察し、データを作る。
そうすると、一人のデータに突っ掛かった。
西沢ホールディングス社長の娘、西沢アリス。行方不明だとあったのは3日前。なら話は早い。
「西沢アリスさん、で合ってますね?」こういう時は、本性は隠すに限る。
「同い年、でいいみたいね。タメでいいし、私を西沢って呼ばないで」
「ならアリス、邪魔だ、どいてくれないかな?」ここは退けない。
「良いけど、私も一緒に居ていい?」意外だ。もっとプライドが高いと思ったが。
「良いよ。何ら問題ない。」
ここまで気付かず、誤算だったのが、今雨が降っていた事だった。傘を差し出す。
「─持ってれば?」
アリスは、面食らった顔で、ありがと。とだけ言う。自分は予備の傘を開く。
「ねぇ、何で家出した?私は、ほら。社長の娘じゃん。
結構何も自由じゃなくて、まるでロボットだった。与えられた命令だけこなす、感情を持つことを赦されない機械。それがいやで、こうなってる。」
ねえさ、どんな感じ?と急かす事もなく聞いてくるが、もう答える準備は出来た。
「そう。僕は、真逆かな。
小さいと言うか幼い時から自由だった。良い意味じゃない。放置だ。風邪になれば薬は自分で用意した。親は何もしなかった。それで、虐待だ。仕方ないから、両親の心臓を刺して、今此処にいる。」
アリスは少し怯えを含んだ目でこっちを見てきた。それでもあえて無視し、話を続ける。
「さ、楽しい時間はこれでおしまい、どっか行って、早めに。」
アリスは、急に不安げになり、縋るような目をした。
「ねぇ、教えて?貴方は誰?名前は?住所は?・・・わかんない、もっと知りたいのに!」
泣きながら叫んだその声は、彼の心を揺らした。
「アリス、知りすぎてはいけない。知ることは、傷つく事。知らない、と言うことは、満足出来る、って事。気をつけて。君の知ることが、君を深く傷つけない様、祈ろう。」

true end アリスに見えた道
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感想 1

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みんなの感想(1件)

関谷俊博
2016.08.22 関谷俊博

とても面白いです。やっぱりこういうのは、ついつい読んじゃう。続きを楽しみにしています。

解除

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