告白相手を間違えた令嬢に待っていたのは、暴君皇帝からの寵愛でした。

槙村まき

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12.四日目

 建国祭四日目の舞踏会。
 陛下と一緒に入場して一曲目のダンスを踊り終わると、他の貴族に呼ばれた陛下は護衛としてフェリシアン様を置いて行ってしまった。どうやら今日は他国の使節団も来ているようで、忙しそうにしている。

 昨日、公園から帰ってきた私たちは、短い会話を終えてそれぞれの部屋に戻った。本来ならあのあと舞踏会に参加する予定だったのだけれど、それどころではなかったのだ。
 おまけに昨夜はなかなか寝付けなくて、ぼんやりとしたまま朝を迎えてしまった。寝付けない理由は、たぶん、初めて目の前で人の死を見てしまったからだろう。

 陛下も昨日のことには触れないけれど、私の様子をしきりに気にしているようだった。
 無理してないかとか。今日も舞踏会を休んでもいいぞ、とか。
 だけど、陛下の婚約者として、今日の舞踏会まで休んだら他の貴族から何を言われるかわからない。

 昨日の襲撃犯はほとんどがその場で亡くなったらしい。自害した者もいたようで、首謀者が誰なのかわかっていない。
 もし舞踏会に参加している貴族の中に、昨日の襲撃者と繋がっている者がいたとしたら、よからぬ勘繰りをされかねないだろう。
 そう思って舞踏会に参加したのだけれど――。

 居心地が悪い。
 会場中からチラチラこちらを覗う視線を感じる。それだけならまだよかったのだけれど、息抜きのためにテラスに出たら、フェリシアン様までついてきてしまった。護衛なのだから当たり前ではあるのだけれど。

 なぜなのかわからないけれど、フェリシアン様から視線を感じるのだ。
 ひんやりとした青い瞳。それと目が合って、つい愛想笑いをしてしまう。
 胸が高鳴るドキッ、というよりも、不安の方が強かった。

「あの、どうかされましたか?」

 問いかけると、彼は笑みを浮かべたままの口を開いた。

「今日は元気がないように思えまして。……もしかして、昨日の襲撃を恐れているのではないかなと」

 確かにそれはある。これから陛下の婚約者として、未来の皇后としてそばにいることになれば、あれもよくあることなのだろう。間違えて告白しなければ、命を脅かされることもないのにと、過去の自分を呪いそうになった。

「もし、陛下の婚約者としての立場が嫌になったら、いまならまだ引き返せますよ」
「……それは、どういう……」
「失礼しました。出すぎたことを言ってしまいましたね。イヴェール嬢は、陛下のことを慕ってそばにいるのに」

 ズキッと、胸が痛む。
 フェリシアン様は、そんな私をじっと見て、それから口を開いた。

「オレの兄は陛下の剣の師匠でした。そのため、オレと陛下――アルベリクス様は兄弟のように育ちました」

 青薔薇様ファンクラブに入っている人なら、誰もが知っている情報だ。

 エミリアン・ブルローズ。
 フェリシアン様の七つ年上の兄であり、先代のブルローズ公爵にして、当時の騎士団長だった人。
 陛下とフェリシアン様は一歳違いだと聞いたことがある。エミリアン様は陛下を弟のようにかわいがっていたとも。

 そしてエミリアン様は、五年前に終結した戦争で戦死している。

 フェリシアン様は、エミリアン様の意志を継いで陛下のそばで彼のことを護り続けているらしい。

「陛下は憐れな方でした。父である当時の皇帝は陛下のことを駒のひとつ――いや、物としか考えていない残酷な方でした。あの男の影響で、陛下は容易く人を信じられなくなったのです」

 フェリシアン様の瞳がすぅっと細くなる。
 いつも冷たく見える色をしているが、いまはすこし懐かしむような、遠くの景色を思い出しているかのようなそんな温かい眼差し。

「そんな陛下が選んだ恋人ですから。オレは、あなたのことを信用しています。……これからも陛下のそばにいてあげてくださいね」

 フェリシア様の言葉に、私は声を詰まらせてしまった。
 まるで私の心の内を見透かすような青い瞳。それに、目を奪われてしまったからだ。

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