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第四章
レオンの選択
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ロゼンタールの視察に行っていたため、しばらくポリニエールに来ていなかったエレノアは、溜まった管理人たちからの報告書に目を通していた。幸い不正や間違いなどもなく、うまく回っているようだ。
現地の視察が必要そうなところをピックアップしていると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは、レオンだった。
「エレノア、わたしと父は明日ロゼンタールへ帰るよ」
「もう?一緒に領地を回りたかったのに」
「そうか、それは‥次の機会にするよ」
次があれば、だが。
「そのかわり、今から出かけないか」
二人は馬で出かけることにした。屋敷の入り口で待っていると、馬丁が馬を連れてきた。だがレオンの馬しかいない。
「せっかくだから、話しでもしながらゆっくり行こう」
そう言ってレオンはエレノアの手を引いて自分の馬に乗せた。そして、ひらりとエレノアの後ろに跨ると、馬の腹を軽く蹴った。
エレノアは、予想外のことにあれよと流されて、気づけばレオンと一緒に馬に跨っていた。
レオンとこんなに近づいたのは初めてだわ。
背中に彼の存在を感じる。両腕がエレノアを包み込むように回され前で手綱を握っている。長い指は節が太く、手のひらは厚くごつごつとした男の手だ。胸がどきどきする。恥ずかしくて俯いてしまう。揺れるたびレオンの胸に背中があたり熱が伝わる。恥ずかしさにうつむきがちになってしまう。
「さて、どこにいこうか」
レオンに声をかけられ顔をあげる。
エレノアは、百合の丘をレオンに見せたいと思った、だが、二人の思い出の地に連れていくのは、カイルに対する裏切りのような気がしてやめた。それにあそこはポリニエールではなくアラゴンの領地だ。
「ちょうど麦が実っているころです」
けっきょく広大な小麦畑に行くことにした。
目の前に金色の地平線が広がる。
「本当に広いな」
レオンが感嘆する。
「他にもいろいろな作物を育てていますが、麦畑が一番ポリニエールを思わせてくれます」
「前に来たときは、クポラの中心街しか行かなかったからな。もったいないことをした」
黄金色に染まった麦畑の道を、荒らさないようにゆっくりと進んでいく。
「もう一年が経ちましたね」
「ああ、そうだな‥」
そう、一年も形だけの夫婦を続けてきた。
畑の中の小屋でレオンは馬をとめた。馬に水をやり小屋の前のベンチに二人並んで腰をおろす。
「エレノア、君にずっと謝りたかったんだ」
レオンは前を向いたまま、話を切り出した。
エレノアはレオンの方を見る。
額から鼻筋をとおりあごにかけて、絵に描いたように整ったライン。髪の流れに沿って視線を動かすと後ろでひとつにまとめられた髪がまっすぐ垂れている。
本当に綺麗な顔ね。呑気にそんなことを考えていると、レオンが話を続けた。
「あのとき、自分のことしか考えていなかった」
エレノアはじっとレオンの瞳を覗きこんだ。レオンは耐えきれず目を伏せる。
「それは、一年前のことを言っていますか?」
「そうだ、あの時から今までずっとだ。君に対して無関心だったことも、すまなかった」
「それなら‥わたしも同じです。あなただけが悪いわけじゃないわ」
今度はレオンがじっとエレノアの瞳を見つめる。そして言った。
「グレイス王女とのこと、知っていたんだね」
「王女様のこと?知っていたというか、その、確信があったわけじゃないの。あの、わたし‥あの時、舞踏会のときに‥噴水で変なこと言ってしまって、どうかしてたの。ごめんなさい」
勝手に秘密を暴いたような気まずさを感じて、エレノアはしどろもどろになった。
「いや、いいんだ。もう終わったことなんだ。ただ、あの時はまだ、気持ちの整理がつかなくて‥わたしが不甲斐ないばかりに君を傷つけた‥」
ふいに、レオンが顔を近づけてきた。エレノアの耳のあたりを大きな手のひらで包まれ動かないようにされると、唇と唇が触れた。軽く押しつけられたまま少し経ってからゆっくりと離れた。
「エレノア、しばらく距離をおこう」
現地の視察が必要そうなところをピックアップしていると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは、レオンだった。
「エレノア、わたしと父は明日ロゼンタールへ帰るよ」
「もう?一緒に領地を回りたかったのに」
「そうか、それは‥次の機会にするよ」
次があれば、だが。
「そのかわり、今から出かけないか」
二人は馬で出かけることにした。屋敷の入り口で待っていると、馬丁が馬を連れてきた。だがレオンの馬しかいない。
「せっかくだから、話しでもしながらゆっくり行こう」
そう言ってレオンはエレノアの手を引いて自分の馬に乗せた。そして、ひらりとエレノアの後ろに跨ると、馬の腹を軽く蹴った。
エレノアは、予想外のことにあれよと流されて、気づけばレオンと一緒に馬に跨っていた。
レオンとこんなに近づいたのは初めてだわ。
背中に彼の存在を感じる。両腕がエレノアを包み込むように回され前で手綱を握っている。長い指は節が太く、手のひらは厚くごつごつとした男の手だ。胸がどきどきする。恥ずかしくて俯いてしまう。揺れるたびレオンの胸に背中があたり熱が伝わる。恥ずかしさにうつむきがちになってしまう。
「さて、どこにいこうか」
レオンに声をかけられ顔をあげる。
エレノアは、百合の丘をレオンに見せたいと思った、だが、二人の思い出の地に連れていくのは、カイルに対する裏切りのような気がしてやめた。それにあそこはポリニエールではなくアラゴンの領地だ。
「ちょうど麦が実っているころです」
けっきょく広大な小麦畑に行くことにした。
目の前に金色の地平線が広がる。
「本当に広いな」
レオンが感嘆する。
「他にもいろいろな作物を育てていますが、麦畑が一番ポリニエールを思わせてくれます」
「前に来たときは、クポラの中心街しか行かなかったからな。もったいないことをした」
黄金色に染まった麦畑の道を、荒らさないようにゆっくりと進んでいく。
「もう一年が経ちましたね」
「ああ、そうだな‥」
そう、一年も形だけの夫婦を続けてきた。
畑の中の小屋でレオンは馬をとめた。馬に水をやり小屋の前のベンチに二人並んで腰をおろす。
「エレノア、君にずっと謝りたかったんだ」
レオンは前を向いたまま、話を切り出した。
エレノアはレオンの方を見る。
額から鼻筋をとおりあごにかけて、絵に描いたように整ったライン。髪の流れに沿って視線を動かすと後ろでひとつにまとめられた髪がまっすぐ垂れている。
本当に綺麗な顔ね。呑気にそんなことを考えていると、レオンが話を続けた。
「あのとき、自分のことしか考えていなかった」
エレノアはじっとレオンの瞳を覗きこんだ。レオンは耐えきれず目を伏せる。
「それは、一年前のことを言っていますか?」
「そうだ、あの時から今までずっとだ。君に対して無関心だったことも、すまなかった」
「それなら‥わたしも同じです。あなただけが悪いわけじゃないわ」
今度はレオンがじっとエレノアの瞳を見つめる。そして言った。
「グレイス王女とのこと、知っていたんだね」
「王女様のこと?知っていたというか、その、確信があったわけじゃないの。あの、わたし‥あの時、舞踏会のときに‥噴水で変なこと言ってしまって、どうかしてたの。ごめんなさい」
勝手に秘密を暴いたような気まずさを感じて、エレノアはしどろもどろになった。
「いや、いいんだ。もう終わったことなんだ。ただ、あの時はまだ、気持ちの整理がつかなくて‥わたしが不甲斐ないばかりに君を傷つけた‥」
ふいに、レオンが顔を近づけてきた。エレノアの耳のあたりを大きな手のひらで包まれ動かないようにされると、唇と唇が触れた。軽く押しつけられたまま少し経ってからゆっくりと離れた。
「エレノア、しばらく距離をおこう」
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