ルチフェル~復讐の堕天使

黄坂美々

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7 三人目

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 ホテル暮らしにも慣れた頃、テレビのワイドショーでは「ルチフェルは悪質ユーザーを始末している」と報道され、ネット上では「現代の始末屋」などと噂が流れていた。思惑通りだ。これで悪質な奴らが怯えて減少すればいいが。ただ、警察が犯人逮捕に躍起になり始めたのは厄介だ。私の潜伏期間も今日で終了する。最期の晩餐ならぬ、最期の朝食をありがたくいただくとしよう。ごく普通の朝食も最期だと思えば特別に感じるものだな。そんなことを考えながら朝食を終え、ホテルを後にした。


 その夜、最後のターゲット毒島進次郎が経営する会社に向かった。個人経営の小さな会社だ。セキュリティはよくないみたいだ。私には好都合だが不用心だな。思った通り簡単に侵入できた。社内の電気はほとんど消えているが、一室だけ灯りがついている。奴はいつも遅くまで一人で会社に残り仕事をしている。灯りのついた部屋に近づく。部屋のドアが少し開いていて、そこから灯りがもれている。中から話声がする。電話かと思ったがどうやら違うみたいだ。想定外だが仕方ない、しばらく様子を見てみよう。

「遅くまで残ってもらって悪いねえ」
「いえ、大丈夫です。帰ったら寝るだけですから」

 もう一人は女性のようだ。そんなクソ野郎のために仕事を手伝うことなどない。さっさと帰って休んだ方が世のためだ。そんな男、一人で残業して過労で死ねばいいんだよ。

「そうか。君は恋人いないのかい?」
「え? あ、はい。募集中って感じですね」

 女、真面目に答えるな。そのクソ男と友達にでもなるつもりか。

「こんな可愛いのにねえ。立候補しちゃおうかなあ」

 どうやら現実世界でもクズらしい。私は顔を覆い隠すようにタオルを巻き、ドアを蹴り開けた。その音に驚いた男が振り返り、その隙に女は男を押し退け離れる。私は女に顎で逃げるよう合図をする。女は少し潤んだ瞳で私の横を通り過ぎ、会釈して走り去った。

「あっ」

 男は女を目で追い、そのあと私に目を向ける。

「おまえは誰だ。不法侵入だぞ。警察に電話してやる」

 男が受話器に手をかけた瞬間、私は近くにあった椅子で男の頭を殴りつけた。顔を覆っていたタオルが床に落ちる。男はよろめき、その場に倒れた。私は馬乗りになり、手足をロープで縛り上げた。

「な、何なんだおまえは!」
「死神」
「ふざけるな! こんなこと――」
「毒島進次郎ってあんたで間違いないよね?」

 男の表情に焦りが見えた。

「な、何のことだ?」
「とぼけるのか……面倒だな」

 私は男の携帯を手に取り、SNSアイコンを開き、男に見せつける。

「ほら、このユーザー名は何て書いてある? 字が読めねえとは言わさねえぞ」

 男は観念したように話し出した。

「そうだ、俺が毒島だ。だが、それが何だ? おまえはこんなことしてただで済むと思ってるのか?」
「私を脅してんの? こんな状態のあんたに何ができるって言うんだよ」
「今の俺は確かに何もできない。でも警察はどこまでも君を追いかけるぞ。それでいいのか? せっかく可愛い顔してるのにもったいない。今話題のルチフェルにあこがれて正義のヒーロー気取りたかっただけなんだろ?」
「ベラベラとよく喋る奴だね。何で私がルチフェルだとは思わないんだ?」
「ルチフェルは男だ。一人目の被害者知らないのか? 標準体型の男が被害者だということは、非力な女性には無理だ」
「ふーん。でもそれは不正解。だって今の自分見なよ。女の私に動き封じられてんじゃん。つまり女が非力ってのは思い込み。それとルチフェルが男ってのもね。だって私がルチフェルだから。あんたを殺すためにルチフェルは生まれたんだよ」

 男は不安そうに私を見つめた。

「う、嘘だ……。俺を怖がらせようとして――」
「私、葵の友なんだよね。あんたが隠し撮りして、住所までつきとめて恐怖のどん底に陥れた。葵は恐怖のあまり自殺したよ。だから私が代わりに仕返し始めたってわけ」

 男の呼吸が乱れ始める。

「ゆ、許してくれ。俺には妻も子供もいるんだ。俺がいなくなったら二人はどうやって生きていけばいいか……」
「そっか、それは可哀想だね……ってなるわけねえだろ。あんたみたいなクズと一緒にいる方が害しかねえんだよ」
「そうやって、被害者を恐怖のどん底に陥れてから殺していたのね」

 背後から声がした。私は慌てて振り返った。ドアにもたれかかるように女刑事の田中千尋が立っていた。
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