ルチフェル~復讐の堕天使

黄坂美々

文字の大きさ
8 / 8

8 正義か悪か

しおりを挟む
「どうしてここが……」

 私は焦った。ここまで来てこいつを取り逃がすわけにはいかない。京介が喋ってしまったのか、それとも自力で警察が導き出したのか。田中が近づいてくる。男が必死にもがき、田中に助けを求める。

「た、助けてくれ!」
「動くな!」

 私は男の首元に包丁を突きつけた。男は動きを止める。しかし、田中は止まることなく私の方へ向かってくる。

「ちょっとあんた、止まらないとこいつ殺すよ!」

 男は怯えて目を閉じる。

「どうぞ。私はあなたに話があるだけだから大人しく待ってるわ。なんなら手伝いましょうか?」

 私が田中を初めて見たとき、ただならぬ不安を感じたのは気のせいじゃなかったらしい。じわりと嫌な汗が背中を流れた。田中は怯える男の顔をのぞき込んだあと部屋を出ていった。

「な、何だあの女は! 仲間なのか!?」

 男は額に汗をにじませている。

「さあね。刑事だってことしか知らない」
「刑事!? おい、こら! 刑事なら市民を守れバカヤロー!」

 男はドアの方を見て叫んだ。

「じゃ、刑事にも殺していいって許しもらったことだし死ぬ時間だよ。ネット上でも現実でもクソしかしなかったな。バイバイ」

 私は前の二人と同じように男を殺し、メモと携帯を置き部屋を出た。部屋の外では田中が待っていた。

「終わったようね」
「あんた刑事でしょ? どういうつもり? 現行犯逮捕しに来たってわけでもなさそう」

 私は怪訝な目で田中を見つめた。

「あなたネット界で現代の始末屋って呼ばれてるの知ってる?」
「知ってる」
「それなら話が早いわ。今はただの噂だけどこれを本当にしてみない? もちろん協力するわ」
「もう一回聞くけど、警察だよね?」
「そうよ」
「殺しを止める側だよね? 何で推奨して起業しようみたいなノリなんだよ」
「いい質問ね。確かに警察は殺しを止める立場よ。でもさっき殺した人は被害者である前に加害者でしょ。あなたの友人を死に追いやった」
「そりゃそうだけど」
「でも彼を殺人で裁くことはできないし、明らかに有罪な奴も賄賂や忖度で無罪になることがある。そんなのおかしいと思わない?」

 私は黙って田中を見つめていた。

「私が警察に入って感じたのは無力感だった。苦しむ被害者や醜い笑みを浮かべる加害者をたくさん見てきた。そんなときルチフェル事件が起きた」

 田中は私の両肩をつかむ。

「あなたのおかげでこれだって目が覚めたの。志願して捜査員に入れてもらった。もちろんあなたを探して助けるためよ」

 田中の手を払う。

「あんたは根本的に私と違う。逮捕する気ないなら失礼するよ」

 田中が私の腕をつかむ。

「待って、何が違うって言うの?」
「あんたは自分のやろうとしてることを正義だと思ってる。でも私は違う。私は悪だ。その根本がズレた相手と一緒にはいられない。それにもともと全て終わったら死ぬつもりだったしね」
「あなたは次の被害者が出ないように殺した。もちろん復讐が一番の理由だとは思うけど。それでも結果的には未来の被害者を救ったのよ」
「そう考えるのはあんたの勝手だけど、未来なんて誰にもわかんない。被害者なんて出なかったかもしれないし、止める方法は他にもあったかも。私はそれを選ばなかっただけでね」

 田中は私を黙って見つめている。

「私がやったことは殺してきた奴らと同類なんだよ。気に食わない奴を言葉で封じた奴らと暴力で封じた私。ほらね、どっちもろくでもない。あんたのやりたいことはわかった。でも他あたりな」

 私は田中の手を払う。

「わかった。確かにそうだわ。私が間違ってた。あなたの力が必要なの」

 田中を現場に残し、私はその場を後にした。


 一年後。ルチフェル事件は未解決のまま、テレビで報道されることもなくなり人々の記憶から消えかけていた。


 田中がコンビニの袋を下げて路地裏にある雑居ビルに入っていく。薄暗い階段を上がり、ドアを開ける。室内にはデスクが数個とソファがある。ソファに遥と京介が座っている。二人は田中に気づき振り向く。

「差し入れよ」

 田中が袋を持ち上げ微笑む。二人は田中に笑顔を向ける。



<END>
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...