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一章 奴隷解放戦
六話 アーマードレイブン
しおりを挟む「えっと。これで登録完了、ですかね?」
メルティは小さな紙をひっくり返したりしながら眺める。それは探検家としての身分を証明する為の探検証である。先程メルティは探検家の集まるギルドへ行き探検家登録をして来た。
「何か思う所でもあるのか?」
「そう、ですね。何かもっと大変な手続きがあるのではないかと思いまして」
探検家になる為の手続きは簡単。登録書に自分の名前を書くだけである。
「まあ元々探検家っていうのは色々あって職に就けない人の為にある職業っていう所もある。だから手続きも簡単なものなんだ」
「そ、それは!私は無職と思われたって事ですか!?」
「まあ、そうかもな。でも、間違ってないだろう?」
「それはまあ!その通りなんですが」
少し怒りを見せながらも納得はしている様でメルティは頬を膨らませながらも文句を言う口を止めた。メルティの職業はシスターだ。しかしそれは過去の話である。正確に言うとまだシスターではあるが働くべき教会を出たので今のメルティに職業はない。
「大丈夫。これからは俺と同じ探検家だ」
「キョウヤ様と、同じ」
先程まであまりいい印象を持てていなかった探検家という職業だが、キョウヤと同じと言われるだけで途端に魅力的に感じられた。これからメルティはキョウヤと共に働く事が出来るのだから、危険な職業だとしても心は踊ってしまう。恋は盲目というやつだろう。
「さて、それじゃあ探検家としての初仕事と行こう」
「はい!アーマードレイブンの討伐!ですね!」
すっかり元気を取り戻したメルティにキョウヤは優しく微笑み、アーマードレイブン討伐の為に街を出た。
「この辺りか」
街から出て数十分。メルティの前を歩いていたキョウヤは林の入り口で足を止めた。
「こちらがアーマードレイブンの巣なのですか?」
「巣なのかどうかは分からない。けれど、この辺りからアーマードレイブンの目撃情報が多いのは確かなんだ」
街の近くにある林は村人が薬草やきのこなどを取りにくる事があるらしい。その時にアーマードレイブンを見て引き返してきたという村人からの証言だ。
「恐らく奴らは武装している。俺から離れないように。でも一定の距離は離れていてくれ」
「えっ、それはどれくらいの距離ですか!?」
あまりキョウヤから離れられてはいざという時にメルティを守れない。しかし近すぎると戦闘に巻き込む恐れがある。
「うーん。二メートル後、くらいか?」
「疑問系なのが少し怖いですけれど、キョウヤ様を信じます!」
キョウヤは誰かを守りながら戦うという経験がない。故に戦いに巻き込まず、かといって何かあった時にすぐに駆けつけられる距離が分からない。故にこの辺は手探りで探していくしかないのだろう。
「大丈夫です!私も探索者になったんですよ!自分の身は自分で護ります!」
「その粋だ。だが、今回は厄介な相手だから。大人しく守られていてくれ」
キョウヤの言葉に少し納得がいかないと言った表情を見せたメルティだったが、自分の過信でキョウヤに迷惑はかけたくない。故に大人しくキョウヤに従った。
「行こう」
二人は慎重に林の中を進んでいく。慎重な理由は二つ。一つはアーマードレイブンを警戒しているから。もう一つは。
「あ、キョウヤ様。こちらが例の薬草ではないでしょうか?」
メルティが指差した先をキョウヤも見る。そこにあったのは緑色の手のひらサイズの草。
「うん。間違いない。これだな」
キョウヤは取り出した紙に書かれた絵と草を見比べて頷く。二人はアーマードレイブンの討伐と同時に薬草の回収という依頼も受けてきたのだ。
「やるな。薬草採取はメルティに任せるのが良いかも知れない」
「えへへ。はい!お任せください!」
同じ林で達成できる依頼を見つけられたのは僥倖だった。お陰で一度の探索で二つの依頼を進める事が出来る。
「ぶもぉぉぉぉ!」
そんな二人に豚の様なイノシシの様な見た目をした魔物が襲いかかる。が、
「ふっ!」
「ぶっもぉ」
その程度の魔物はキョウヤの敵ではない。飛び出してきた魔物の急所をしっかり狙って即座に魔物に拳を叩き込んだ。
「キョウヤ様。戦い方にとやかく言うつもりはあまりありませんが、折角剣を肩に下げているのですから、剣を使ったら如何ですか?」
「あ」
メルティに言われた言葉にキョウヤは今思い出したと言わんばかりの素っ頓狂な声をあげる。実際今思い出したのだが。
「確かにそうだな。・・・しかし、あいつが出てきてから剣を抜いている時間が惜しい。いや、剣を抜いてからでも対応は出来ただろうが、拳で仕留めた方が早い様な気も」
「え、えっと。戦い方は私には分からないのでお任せしますよ?」
「そ、そうか」
武器も何も持っていない探検家というものは周囲に怪しまれると思い剣を購入したが、実際キョウヤは剣を振るった事がない。故に慣れない戦い方より拳が先に出てしまう。
「とにかく、進もう」
剣に意識を向けながらキョウヤとメルティは林の中を歩いていく。歩きながらちょこちょこと生えている薬草を採取はしてきたが、一時間近く歩いてもアーマードレイブンは影も形も見えなかった。
「ふぅ。あの、少し休憩しませんか?」
「・・分かった。休もう」
普段とは違い泥濘んだ道を歩くメルティの言葉にキョウヤは足を止める。メルティも一息つく為に肩から下げた薬草の入った鞄を比較的綺麗そうな草の上に置いた。その瞬間。
「カァァァァ!」
「やはりか!」
木の上から薬草の入った鞄目掛けて勢い良く飛んできたアーマードレイブンをキョウヤは剣を抜き切り裂いた。
「きゃっ!」
「下がって」
冷静にメルティを守る様にメルティとアーマードレイブンの間に入るキョウヤ。そのキョウヤをアーマードレイブンは強く睨みつけていた。
「倒せなかったのですか!?」
「ああ、防がれた」
キョウヤの視線をメルティも追いかけると、その視線には魔物には見慣れないものがあった。
「盾、ですか?」
「ああ、言っただろう?アーマードレイブンは賢い。そして人間の武器を使いこなす」
アーマードレイブンと呼ばれるカラスの魔物はどういう理屈でかは分からないが片方の翼に盾を、もう片方の翼に短刀を所持していた。
「翼に括り付けている?いや、それにしては安定している」
アーマードレイブンのカラクリを見破ろうと翼にある盾と短刀を観察するが、しっかり安定しているということしか分からない。まるで人間が腕で盾と剣を構えているかの様に。
「ガァガァァァァ!!」
「っ!しまった!」
アーマードレイブンが吠えた。その行動を即座に理解したキョウヤは剣をアーマードレイブンの頭部目掛けて振り下ろすが、見え見えの太刀筋はアーマードレイブンの盾に軽く防がれてしまった。
「な、何です!?」
状況が飲み込めないメルティがキョウヤの背中に張り付きながら恐怖の声をあげる。それもその筈。キョウヤとメルティを取り囲む木々の上から獲物を狙う白い光が幾つも輝いたのだから。
「今の咆哮は謂わば狼煙だろう。つまり、俺たちは完全に奴らに包囲された」
今までアーマードレイブンを討伐しにきた探検家達が無事に帰れなかった一端が判明した。彼らはアーマードレイブンの罠に掛かったのだ。アーマードレイブンは魔物の中で抜きん出た知性を持っているが、戦闘能力はそこまで高くない。だが、群れで襲撃されるとなると話は別だ。
「メルティ、撤退するぞ」
「は、はい。けれど」
撤退することに異論はない。しかし、四方八方を囲まれていては逃げ場がない。
「カァァァ!!」
「ちっ、仕方がないか」
アーマードレイブン達が一斉にキョウヤに襲いかかる。その動きは連携が取れていて隙がない。
「キョウヤ様!」
アーマードレイブンの猛攻にキョウヤは体の至る所を切り裂かれ、大量の血が飛び散った。
「カァァ!」
そのキョウヤの姿を見てアーマードレイブンは不適な笑いを見せ、
「ガ、ァァ???」
次の瞬間、絶命した。
「え?」
その姿にメルティは困惑した。メルティが今見ている光景は実に現実離れしていたのだから。アーマードレイブンにキョウヤが切り裂かれた時、飛び散った血が鋭く尖って四方八方に伸び、アーマードレイブンの群れを余すことなく貫いたのだ。
「ブラッディスピア、出来れば使いたくは無かったんだが」
血を流しながら歩くキョウヤはアーマードレイブンの生死を確認し、腰を下ろした。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、俺は吸血鬼だからな」
メルティが傷の治療をしようと近寄った所、キョウヤの傷は既に塞がれていた。しかし、苦しそうな顔をしながらそのまま地面に倒れ込んだ。
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