Vampire escape

藤丸セブン

文字の大きさ
9 / 31
一章 奴隷解放戦

九話 隠れ蓑

しおりを挟む

「今私たち、結界の中にいるんですか?」
 メルティが辺りを見渡しながらキョウヤに尋ねる。現在キョウヤとメルティは攫われた子供達を救出すべく、奴隷商人が奴隷の売買をしているであろう結界の中へと足を踏み入れていた。が、メルティが不安がるのも無理はない。何故なら結界は目に見えるものではなく、尚且つ結界の内部も特別何かが違うという訳でもなかったのだから。
「大丈夫。しっかりと結界の中に入っている。逆に言えば、もうここは敵の陣地の中だ。いつ何が起こってもおかしくない。警戒だけは怠らないで」
「は、はい!」
 キョウヤの言葉に再度気を引き締めるメルティを見ながらキョウヤも警戒を続ける。結界の中といっても今のところ本当に何の違和感もなければ人っこ一人いない。そんな中。
「おや、新入りちゃんかな?それともお高い買い物をしに?」
 フードを深く被った人物に声をかけられた。
「ひゃっ!」
「・・・あなたは?」
「そーんなに警戒しないでよー。私はただ親切心で君達に声をかけてあげてるってのにさー」
 フードの人物は笑いながら二人に警戒を解く様に言うが、こんな登場の仕方で警戒するなと言う方が無理な話である。フードの人物は声や口調から女性である事は何となく想像できるが、顔が一才見えなかった。
「そのフード、魔道具か?」
「ピンポーン!せーいかーい!」
 キョウヤがいつでもフードの人物に襲い掛かれる様に身構えるもののフードの人物は何も仕掛けては来ない。それどころか自分の手札の一つを見抜かれても平然としていた。
「魔道具、とは?」
「その名の通り、魔法の込められた道具だよ。例えば、このフードみたいにね」
 フードの人物が被っているフードこそその魔道具、<隠れ蓑>だ。この隠れ蓑を被っている間使用者の顔を周りから見られなくする。
「更に更に!私の声も人によっては違う声に聞こえているし、身長や服装すら私の別れた数分後には曖昧にしてくれる!最高にいい魔道具でしょ!!?」
「それは、凄いですね!」
「でっしょー!!」
 胸を張ってドヤ顔(顔は見えないがしているであろう)を見せるフードの人物の言葉にメルティは素直に感嘆の声をあげる。
「・・・それで、あなたの目的は何だ?」
「だーかーらー!警戒しないでってば!私は本当に親切心で声をかけてあげたんだよ?」
 そういってフードの人物はどこからともなく黒いマントと白いフードを取り出した。
「これ、私のこれよりは効果は弱いけど同じ効果を持った魔道具、<隠れ蓑>。あげるよ」
「ええ!?いいんですか!?」
 メルティが目をキラキラとさせながら白いフードを受け取ろうとするが、それをキョウヤに止められた。
「用心深いなぁ、偽善者くん?」
「偽善者で結構。メルティも小さい頃に教わらなかったか?知らない人から何か物を貰うなって」
「は、はい」
 楽しそうな表情から一転。メルティは悲しそうな顔と申し訳なさそうな顔をしながらしゅんとした。
「でもさ、これがあるかないかでは潜入の難易度が大違いじゃない?私は君達に期待してあげてんの。だからこそこんな高額な物をあげようってのにさ」
「高額過ぎるからこそ怪しむ価値は高い」
「にゃはは確かに。でも、入る前に怪しまれたら終わりじゃない?そんな見た目じゃ、富豪には見えないし奴隷商人側の人間にも見えないよ?」
 基本この奴隷売買は結界を張っている事からも分かる様に関係者以外立ち入り禁止だ。結界に入れているとはいえ売買されている場所へ入る前から戦闘体制で入りたくはない。
「でもこれを着てれば少なくとも金持ちだとは分かるよね?警戒はされずらいんじゃない?」
「・・・理屈は分かる」
「でも、どうしても信用できないって?」
 フードの人物の言葉にキョウヤは静かに頷く。初めて会うというだけでも信用に値しないと言うのにその人物は魔道具で顔を完全に隠している。信用しろと言う方が無理な話だ。
「キョウヤ様。この人を信じてみませんか?」
 フードの人物をどうしても信用出来ないキョウヤの腕をメルティが優しく掴む。その行動にキョウヤは驚く。
「・・・そんなに魔道具が欲しいのか?」
「ち、違います!?いえ、違いはしないのですが」
 メルティへの信用があまりないのかキョウヤはメルティが魔道具に釣られたと思った。だがメルティの言いたい事はそれではない。
「この人を信じましょう。この人は、嘘をついていないと思います」
 メルティの目はまっすぐだった。魔道具の為ではなく奴隷売買を止める為に。
「へぇ。偽善者ちゃんは見る目があるねぇ。そうそう!私はいい人なのさ!」
 フードの人物の一言一句がキョウヤには非常に胡散臭く見えるがメルティはそうは見えなかった様だ。
「はい、ありがとうございます。親切なフードのお姉さん」
「へ?あ、いや。うん。なんか、普通に信用されると調子狂うな」
 自分でも怪しさ満点な事は理解しているのかフードの人物はメルティに素直に感謝され額を恥ずかしそうに掻いた。
「んじゃ、お姉さんはここで退散するとしようか。せいぜい頑張りなよ、偽善者さん達」
 そう言い残すとフードの人物はゆっくりと結界の外へ出ていった。
「偽善者、か」
 フードの人物の言った偽善者、と言う言葉が妙に心に引っ掛かる。彼女の言った戯言。そう切り捨てるのは簡単だが、それにしてはこの言葉に感情が乗りすぎていた様に思えた。
「偽善者。彼女には俺たちがそう見えた、という事か」
 確かにキョウヤは善人ではない。正義の味方でもない。だが今現在は奴隷として売られそうになっている子供達を助けようとしている。これは偽善に当たるとも言える。
「だが、何故それを知っている?彼女の言葉には他の意味もあるのか?」
 そんな事に思考を巡らせるものの、答えはフードの人物しか分からないだろう。今はその事を考えている場合ではない。
「キョウヤ様、これを」
 メルティが手渡してきたのはフードの人物から貰った黒いマントだった。
「こちらの方が似合いますよね!?」
「似合う、というか。サイズがこっちしか合わないだろう」
「あ、そ、そうですね」
 メルティが赤面して白いフードを被る。フードの人物が渡してきた二つの魔道具、白いフードと黒いマントは明らかにサイズが違った。白いフードは女性様。マントは男性様なのだろう。だがジャストサイズではない様でメルティにフードは少し大きかった様だ。
「どうです!?魔道具の効果は出ていますか!?」
「まずフードを深く被りすぎて顔が見えない」
 魔道具の効果を確かめようにもフード型の<隠れ蓑>はメルティには大きく、フードを被ると顔が全然見えない。だが。
「こんなぶかぶかのフードを被った少女なら印象に残りそうな物だが、不思議と何も感じない。そこにいるのは分かるが、妙に印象に残りずらいというか」
「痕跡を完全に消す事は出来ないけれど、存在感を消す事は出来るという事ですか?」
「言葉にするならそうかもな」
 偽物を掴まされた可能性もあったが、どうやら効果は本物の様だ。実際偽物を渡してきていたとしてもこちらは対価を払っていないし、あちらにメリットもないが。
「俺も付けておくか」
 キョウヤは探検家の装備の上から黒いマントを羽織った。
「どうだ?何か違うか?」
「うーん。いえ、何も違いは無いと思います。キョウヤ様のお顔は見えますし、いつもながらかっこいいです」
「そ、そうか。ならこちらは時間経過後に俺の顔を思い出しにくくする効果の物だと思っておこう」
 フードの人物は未だに信用出来ないが、偽物を掴ませるメリットもないと結論付けたばかりだ。ならばこちらは今ではなく未来の存在を希薄にする隠れ蓑であると考えておこう。その方がいい。
「さて、それでは行こうか」
 キョウヤは結界の奥の方を見る。そこには集落の中でも大きい建物、教会があった。
「教会。まさか、ここで奴隷売買が行われているのですか?」
「恐らくな。この集落で奴隷売買を行うのに適した場所は、そこくらいしかない。それに」
 教会の中から人間のものと思われる歓声が響いた。教会の中に誰かがいるのは明白だろう。
「止めに行きましょう!」
「ああ、だが。慎重にな」
 二人は覚悟を決めて教会へと足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【アラウコの叫び 】第4巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日19:20投稿】 4巻は、序盤は「推理もの」、中盤から後半は「ロマンスもの」が展開されます。 ・サンティアゴで起こる「事件」と「裁き」 ・「アンデスの悪魔」として悪名を轟かせた狂気の老人カルバハルの存在感 ・ニドス家の兄妹の「行く末」 ・イネスとバルディビアとの「出逢い」と「結末」 大きく分けてこの様な展開になってます。 ------------------- 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...