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一章 奴隷解放戦
十話 奴隷売買
しおりを挟む歓声が広がる中キョウヤとメルティは教会の中へ入った。その教会では予想通り奴隷売買が行われていた。
「続いては本日の目玉!世にも珍しい獣人の子供だぁぁ!」
どうやら奴隷売買はオークション形式のようで奴隷売買の進行役が元気よく次に売られる為の奴隷を紹介した。簡易的に作られたステージの上で鎖に繋がれた小さな子供が連れて来られた。
「あの子は」
小さな子供には普通の子供には無い部分、猫の様な耳と尻尾が付いていた。
「離せよ!」
「コラ!暴れるな!」
鎖を掴んでいた男に爪をたてようとした獣人が鎖を引っ張られたことで地面に倒れ込む。倒れた子供の背中を男は強引に踏みつけると進行役に目線を向けた。
「えー見ての通り実に意気のいい子供です!奴隷に出来れば力仕事に見せ物、性の捌け口にも出来ますよ!!!」
進行役の言葉に客達は再び歓声をあげる。目の前で子供が足蹴にされているというのに獣人という希少価値以外に感じる事は何も無い様だ。
「っ!」
「よせ、今動くのは危険だ」
メルティは感情に任せて子供の救出に動こうとするが、その動きをキョウヤが静止する。ここで動いては奴隷売買そのものを潰してしまいかねない。
「今は堪えて。子供達の姿はあるか?」
獣人の子供以外にも既にオークションは勧められていた様で数人の子供達の姿があった。キョウヤもサンクラリィス教会の子供達と面識はあるが遠目で分からない。
「教会の子供達の姿は、あ!いました!あの子達です!」
メルティが指差す場所には怯えながら涙を流す子供達がいた。
「全員、はいないな」
「はい。二人だけですね。他の子達はどこに?」
メルティとキョウヤがオークション会場を見渡すがサンクラリィス教会にいた子供達は二人以外見当たらない。他の会場へと連れて行かれたのか。それとも既に売られてしまったのか。
「よぉ兄ちゃん。調子はどうや?」
「っ!?」
子供達を探す中、突然話しかけられたキョウヤが驚いて話しかけてきた男と距離を取った。
「そんなビビらんでもええやん!ちょっと話しかけただけやろー?」
男が笑いながらキョウヤに再度話しかける。キョウヤ驚いたのは単純に声をかけられたからではない。この男の気配を感じなかったからだ。
「俺に何か用か?」
「いんや、随分若いなー思てな。しかも見た感じ奴隷買いに来ましたー!って顔してへんし。金持ちにも見えんしなぁ」
怪しまれている。キョウヤの付けている魔道具、隠れ蓑は存在感を消す効果を持つがどうやらキョウヤのものは現在の存在感を消すものでは無いらしいので男に顔も見られてしまっている。唯一幸いなのはメルティの存在は向こうに気づかれていない事だ。キョウヤは指でメルティにここから離れる様に指示だけ送り、男の対応に移る。
「確かに俺は奴隷を買うつもりでここに来ていない。富豪という程でもない。ここに来れたのは知り合いのツテで来た理由は見聞を広める為だ」
「かっかっか!見聞を広める為かぁ!確かに世間を知るってのは想像以上に大事なことやもんなぁ!世間を知っとる奴ってのはぎょーさん色んなことを知っとる!例えば」
「嘘つきの見分け方とかな」
男がキョウヤを団扇で覆う様な仕草をすると、突風が吹き荒れキョウヤがいた場所を飲み込んだ。
「キョウヤ様!」
「俺の事はいい!行け!」
こっそりとキョウヤの元から離れようとしていたメルティが思わずキョウヤの名を呼ぶが、今はこの場にいるべきでは無い。キョウヤは大声でメルティに撤退を命じ、突風をギリギリの所で回避した。
「ほぉ、避けるんか」
「なっ!何事です!!?」
突然吹き荒れた突風はキョウヤのいた場所を抉り、オークション会場の教会の壁をも破った。その事に驚いた司会者が男に大声で怒鳴った。
「侵入者や!お前らは売りもん抱えて退避しとけ!」
「は、はい!!」
男からの指示に司会者やその他の管理側の人間達はドタバタしながら奴隷達を連れて行こうとする。それと同時に奴隷売買に来ていた客達も我先にと逃げ出した。
「よそ見とは、いい度胸だな!!」
だがそう簡単に連れて行かせる訳にはいかない。キョウヤは突然襲ってきた男に新作の手甲で殴りかかった。だが。
「かっか!ええ拳やな!兄ちゃん、探検家か何かか?」
キョウヤの自慢の一撃は男に容易く回避されてしまった。
「この動き、お前。何者だ?」
「名乗る程のものでもあらへん。と、言ったらカッコええんやろけども。ここは冥土の土産に名乗ったるわ」
男は派手な金髪を靡かせ、名乗りをあげた。
「ワシこそが四代悪魔が一角、ウィルヴィや」
「四代、悪魔!?」
その名称を聞いてキョウヤが驚きの声をあげる。悪魔とは人間の悪感情を食し生きていく生き物だ。彼らに善悪の感情はあまりなく、曰く食事の為に生きる存在。その悪魔の中でも頂点に最も近い四人の悪魔達を四代悪魔と呼ぶ。
「知っとるんやな。ま、探検家なら悪魔退治くらいした事あるか」
ウィルヴィと名乗った悪魔をキョウヤは油断なく睨みつける。悪魔と一言で言っても悪魔の中の実力は大きく異なる。弱い悪魔はメルティでも力で勝てる程に弱いが、実力のある悪魔は歴戦の吸血鬼であるキョウヤですら勝つのは難しい。
「何がしたいんかは分からんけども、ワシに会ってまったのが運の尽きやな。諦めて死ねや」
「断る。お前を倒し、子供達を助ける」
「子供?あぁ、奴隷のガキどもか。なんやけったいな依頼受け取るんかいな。子供を助けて欲しい、なんて依頼受けるなんて、兄ちゃんも運がないなぁ!」
ウィルヴィが再び腕を振り上げると床から再び突風が吹き荒れキョウヤを襲う。予測し難いこの攻撃をキョウヤは察知して回避した。
「ほう!?こいつまで躱すとは!」
「はぁぁ!」
ウィルヴィの風を回避してキョウヤは手甲でウィルヴィに殴りかかった。だがキョウヤの拳をウィルヴィは容易く避ける。
「威力、速度。どっちもかなりのもんや。兄ちゃん強いな!せやけど!」
キョウヤの拳を回避したウィルヴィが足に強風を纏わせ速度をあげる。
「何っ!」
速度があがったウィルヴィの蹴りにキョウヤは対応出来ず鋭い一撃を喰らった。風を纏った蹴りの勢いのままキョウヤは教会の壁に思い切り叩きつけられる。
「がはっ!」
「まだまだぁ!」
再度腕を振りあげ突風を起こしキョウヤを襲う。
「くらうかっ!」
数回見た攻撃ならキョウヤとて簡単にはやられない。壁を勢い良く蹴り付けて右側の教会の奥へと退避した。
「はぁぁ!」
攻撃を回避して終わりでは無い。回避の勢いのままキョウヤは右ストレートをウィルヴィに放つ。しかしやはりキョウヤの拳の動きはウィルヴィに読まれているのかサラリと躱されてしまう。
「いい反射速度やけど、動きが単調やな。お前!自分より強い相手と手合わせした事ないやろ!!」
ウィルヴィの風を纏った蹴りが再度キョウヤに衝撃を与えるが、今度は手甲でその一撃をガード。衝撃のダメージを和らげる事に成功した。
「はぁ、はぁ。あぁ、その通りだ」
ウィルヴィの予想をキョウヤは肯定する。確かにキョウヤは吸血鬼の為通常の人間や多少鍛えられた魔獣などより強い。だが、吸血鬼の中では誰よりも弱い。それなのに戦いを嫌っていた為同じ吸血鬼同士で競い合うという事もして来なかった。家族や仲間から離れて一人で生きる様になってから力とは人を傷つける為ではなく、守る為にあるのだと気づき、ある程度の鍛錬は積んだので今のキョウヤは四代悪魔に対抗できる力がある。だが、凌駕する力はない。
「だが、お前に勝てる!」
「はっ!ほざけや!!」
キョウヤがこのままウィルヴィに殴りかかったとしてもキョウヤに勝ち目はないだろう。だが、キョウヤとて今は本気を出していないのだ。
(まだだ。チャンスを探れ)
ウィルヴィに拳を繰り出し、迫り来る突風を避けながらキョウヤはタイミングを探し続ける。そのタイミングとは当然、吸血鬼としての力を使うタイミングだ。キョウヤのこの身体能力は吸血鬼であるからこそ得られた力だが、ウィルヴィはまだその事に気がついていない。ならば、付け入る隙はある。
「ぶった斬れ!カマイタチ!!」
突風を回避したと思われた瞬間、その突風から風の刃が飛び出してキョウヤを切り裂く。その刃はキョウヤの胸を切り裂き、心臓は無事なものの大量の血が飛び散った。
「終わりや!!!」
胸からの出血は多く、通常の人間から出血量だけで死に至る量。だが、だからこそ。ウィルヴィは勝ちを確信してトドメを刺すべく風を纏った足でキョウヤの息の根を止めにくる!
「そこが狙い目だ!!」
キョウヤが目を見開くと己の魔力を飛び散った血への操作に集中する。そしてキョウヤの魔力を帯びた血はキョウヤの意思で強烈な刃へと変貌する。
「なんや!!?」
「ブラッディスラッシュ!!!」
血で作られた刃がウィルヴィの背中を貫きウィルヴィの体制を完全に崩す。
「お前の敗因は、俺を甘く見た事だ!!!」
そんな体制が完全に崩れたウィルヴィの顔面にキョウヤは自信が今撃てる最高の威力の右ストレートを叩き込んだ。もちろん、店主自慢の仕込み刀を手甲から出した状態で。
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