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一章 奴隷解放戦
十一話 優しい人
しおりを挟む「はぁ、はぁ、何とか、なったか」
ウィルヴィに強烈な一撃を叩き込んだキョウヤはそのまま地面に倒れ込む。だがこんなところで倒れている訳にはいかない。メルティは事前に決めた計画通りに動いているだろう。だからキョウヤもここで止まる訳にはいかない。
「子供達を、助けないと」
「そんなボロボロの体でか?意気込みはええけど、そいつは無理な相談やな」
ゆっくりと立ち上がって奴隷商人を追おうとしたキョウヤの耳に聞こえる筈のない声が聞こえた。その声に驚きながらも勢いよく振り返りそのまま血で出来た剣を投げ飛ばそうとする。が、それより早くキョウヤは突風に呑まれて教会の壁に激突した。
「がっは!」
「さっき自分言うたなぁ、ワシの敗因は自分を舐めた事やって。おんなじ言葉送り返したるわ!!!詰めが甘かったのぉぉ!!」
そこにはキョウヤが背中を貫き、顔面を刀で抉った筈のウィルヴィが立っていた。
「ぐっ、なっぜ」
「何故ぇ?そんなもん簡単な話やわ。自己治療能力が吸血鬼だけのもんやと思っとったら大間違いやぞ!!!」
壁にもたれ掛かるキョウヤをウィルヴィが風を纏った蹴りで蹴り飛ばす。キョウヤにはもう殆ど力が残っておらず、その蹴りを回避する事も防御する事も出来ず、ただただ蹴り飛ばされるしかなかった。
「悪魔にはな、心臓が三つあんねん。一つは自分が血で貫いた胸。もう一つはよー分からんその拳で突き刺した頭部。もう一個は、秘密や」
悪魔には心臓が三つある。この事をキョウヤは知っていたが、本当だとは思っていなかった。キョウヤがまだ小さい頃、姉からその様な事を聞いた気がするが、嘘が本当か分からないと言っていた事も覚えている。故にキョウヤはその話を無意識に嘘だと信じ込んでいた。
「っ・・・」
「言いたい事は分かるで。実際ワシらレベルの悪魔じゃあらへん雑魚は心臓一個や。やから、自分は本当に運がなかったのぉ」
初めて戦った強敵が例外中の例外だったのだ。ウィルヴィの言っている事は何も間違っていなかった。
「でも凄いで?ワシの心臓を二つも潰したんはお前で二人目や」
ウィルヴィはキョウヤの頭を鷲掴みにするとそのままキョウヤの頭を掴む手に力を込める。
「がっぁぁぁぁ!」
「誇れや。ほんで、満足して逝け」
頭を仕込み刀で突き刺された事への仕返しかウィルヴィはキョウヤを頭を潰して殺すつもりらしい。実際吸血鬼の再生能力は心臓には発動するが、脳には使えない。何故なら体が復活しようと脳がなければ生命活動を行えないからだ。回復した所で食事も戦闘面では挽回も出来ない。故に吸血鬼の弱点は脳なのだ。
「はっ。ハハハハハハ!」
「あん?」
この絶体絶命の状況で、キョウヤは笑った。軽快に、軽やかに。
「頭イカれたんか?」
「いや。純粋に面白いと思ってな。自分の事を最強とでも言いたげな風に威張っていた癖に、俺以外にも二つの心臓を失った事があるだなんてな」
「・・・はぁ?」
この窮地において、キョウヤはウィルヴィを嘲笑った。
「はぁ。これでワシが怒り散らして隙を見せるとでも思ったか?確かに一回目はワシの油断や。お前が吸血鬼だなんて夢にも思ってへんかったし、完全にワシのミスやな。せやけどな。二度目はないで」
ウィルヴィは油断なくキョウヤの動きを見ている。ここでキョウヤがウィルヴィの隙を作る事は出来ないだろう。だが。
「隙は見せない、か。逆に俺ばかり見ていて大丈夫か?」
「は?」
キョウヤの呟きにウィルヴィは疑問を口にした。が、その後。
「光彩の奇跡!!!」
オークション会場となっていた教会を光が包んだ。
「っっぁっ!目がァァ!!」
「隙は見せないんじゃ、なかったのか!!」
突然の目を焼くほどのフラッシュにウィルヴィは目を慌てて閉じるが、時既に遅し。メルティの光彩の光は見事にウィルヴィの目を焼いた。その隙を見逃すキョウヤではない。力を振り絞ってウィルヴィの腕を思い切り蹴り上げ、拘束から逃れる。
「なっめんなやクソが!!!幾らお前が足掻こうが!!!ワシに勝てる訳がねぇやろうがぁぁぁ!!!」
怒り散らして隙を見せることなどない、など言っておきながら目を焼かれた事への怒りに身を任せてウィルヴィは嵐を全身に纏った。
「こうしとればお前らはワシに近づけん!!その数秒があれば目の修復くらい終わるわ!!!」
確かに完全に忘れてきたメルティに不意を突かれて目を焼かれたが、それも数秒の話。その程度のフラッシュはウィルヴィの負けには繋がらない。
「っ、?おかしい。普通ならとっくに目が見える筈やろ」
だが、ウィルヴィの目は治らなかった。
「ただの光だと思いましたか?私の光彩の奇跡は神様からの授かり物。悪しきものを浄化する聖なる光です!!」
「聖属性の奇跡!?ふっざけんな!そんなもんワシらの天敵やないか!?待て。それならそこの吸血鬼も焼かれとる筈やろ!!」
聖属性の奇跡は悪しき心を持つ吸血鬼や悪魔への破邪の力がある。本来ならウィルヴィと同じくキョウヤにもダメージがある筈。だが、キョウヤにダメージはない。
「当然です。言ったでしょう?悪しきものを浄化する光だと」
この世界において吸血鬼は悪である。それはメルティもそう思う。しかし、キョウヤは例外だ。
「キョウヤ様は、優しい人なので」
悪しきものを浄化する光。この光が有効な対象は使い手の心情に依存する。つまり、メルティが悪でないと考えているキョウヤに破邪の力は無意味なのだ。
「なるほどなぁ。お前らそう言う仲かいな、でも、この嵐はどうする!!?」
ウィルヴィが嵐の風力を上げ、教会全てを破壊する程の威力の嵐を巻き起こす。
「メルティ」
「はい。分かっています」
キョウヤの小さな問いかけにメルティは勢いよく頷く。今のキョウヤではウィルヴィに勝てない。このまま何もしなければ嵐に巻き込まれて全身が引き裂かれる。かといってウィルヴィを止めに行っても結果は同じだ。だが。メルティがいれば話は別だ。
「すまない」
「謝らないで下さい。私の体は、あなたの物なのですから」
キョウヤは静かに、そして勢いよく。メルティの首筋に牙を突き立てた。
「んっ!」
牙に白い肌が蹂躙させるメルティは思わず声をあげるが、その声は今までのどこか快感を感じる様な声ではなかった。それは痛みを堪える声。そう、今のキョウヤはメルティの事など何も考えず、ただただ目の前のご馳走に喰らいつく化け物と違いはない。その吸血にメルティへの配慮など一切ない。
「死ねや!!!吸血鬼ィィィ!!」
ウィルヴィの嵐が塊となってキョウヤとメルティに襲いくる。その嵐を目の前にして、キョウヤはメルティから吸い上げた血を全て纏めた。
「正々堂々と正面からか!!!おっもしれぇやんけぇぇ!!」
「ブラッティ、ストーム!!」
悪魔が引き起こす魔力の嵐と吸血鬼の引き起こす血の嵐が真正面からぶつかり合った。
「くっ!うおおおおおおおお!!」
魔力の嵐と血の嵐はお互いがお互いの勢いを削ぎながらも新たな風が収束されていきながら再度嵐に衝突していく。嵐が嵐を散らして、更に嵐を強化していく。お互いの嵐は完全に拮抗していた。
「ワシが、お前ら風情に!負ける訳ないやろがぁぁぁ!!!」
ウィルヴィが腕から血を流しながらも更に自身の魔力を嵐に注ぎ込む。すると魔力の風が異常な程に吹き荒れ血の嵐を呑み込んでいく。
「ぐっ!こっ、のぉぉ!」
キョウヤも負けじと魔力を練り込んで血の嵐を強化するが、強化スピードが足りていない。このままでは魔力の嵐が二人を呑み込み、すり潰すだろう。そうは、いかない。
「メルティ、俺に力を!!!」
「はい!」
メルティは杖を掲げてキョウヤへ向けた。
「神の力を此処に!支援の奇跡!!」
「ブラッディ!ストライク!!」
メルティの奇跡とキョウヤの追加で放たれた血の一撃が既に放たれていた血の嵐と混ざり合い魔力の嵐を打ち消していく。
「ざっっけんな!ワシが!お前らなんぞに!!」
「あなたは、確かに強かった。俺一人では絶対に勝てなかった程に。だが!俺は一人ではない!!俺には!支えてくれる仲間がいる!!」
キョウヤの血が魔力の嵐を切り裂き、呑み込み、消しとばしていく。
「くっっ、そがぁぁぁぁぁ!!!!!!」
血で練り上げられた魔力の嵐がウィルヴィの風を取り払い、ウィルヴィの全身を喰らい尽くした。
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