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3章 血液城
48話 思わぬ助っ人
しおりを挟む「クソ!!」
己の無力さを感じながらキョウカは地面に思い切り拳を打ちつける。
「お姉様!やめて下さい!」
一度では飽き足らずもう一度拳を振り上げたキョウカの腕をナズナが掴む。悲しそうなナズナを見てキョウカは腕をゆっくり降ろした。
「そうだね。後悔するのは今じゃない。追うよ!今すぐ魔道車を」
キョウカが振り返ってそう言うが、シルの声にそこで気がつく。
「フィン!しっかりして!」
「問題、ねぇ。追おうぜキョウカちゃん」
フィンの体は全身から血が噴き出していてとても歩ける状態ではなかった。
「そっか。歪曲の指輪を」
第七のオリジナルリング、歪曲の指輪。その指輪は強力すぎるが故に代償がかなり大きい。ただでさえ適性が少ないフィンが数分の間に二度も歪曲の指輪を使い空間を捻じ曲げたのだ。その代償は計り知れない。
「それにお姉様。魔道車を管理していたのはお兄様です。収納の指輪ごとさらわれてしまったので、今の私達にお兄様を救出しにいく手段は・・・」
フィンは深手を負い、魔道車はライヤと共にある。
「そんなっ!」
確かに状況は絶望的だ。しかし、なんとかしてライヤを助けたい。キョウカの絶望で苦しい旅に笑顔と喜びをくれたのは他でもないライヤだ。そんなライヤにキョウカは何も返せていない。
「そうだ!魔道車じゃなくても馬車をレンタルすれば!」
「無理だよ。ボクらの旅の費用を管理してたのもライヤだ。今のボクらの手元のお金じゃ、到底馬車のレンタルには足りない」
「それに、一般の馬車がそんな危ねぇ場所まで乗せてってくれる可能性もゼロに近いぜ」
今になってライヤがどれほどキョウカの支えとなっていたのかを実感する。戦闘も、旅の費用も、食事も、睡眠時の見張りなども。キョウカは全てにおいてライヤに助けられていたのだ。だというのにどうする事も出来ない。戦力を考えても勝てるとは思えないし、取り返しに行きたくても足がない。あまりにも打つ手がない。まだ、何も返せていないのに。
「そん、な」
絶望に打ちひしがれた一同の前に、ある男が立ち上がった。
「ハーッハッハッハー!!!」
「何!?敵襲!?」
「違うな。暗き絶望に指す一筋の希望という名の風。そう!オイラこそは!!」
謎の光に姿が隠されていた男の姿が少しずつ見え始める。騎士団が被る様な漆黒の兜に一着のタンクトップ。そして下半身がふんどし。靴は片方片方で履いている種類が違う。そう!彼こそが!!
「お前は!ふんどし盗賊!」
「あなたは!変態仮面さん!」
「てめぇは!アホジロウ!」
「カゼジロウさんだ!!!」
現れたのは盗賊団ゴールデンローズの元幹部、カゼジロウだった。
「てめぇ、何しに来やがった!というかてめえは捕まった筈じゃ!」
「オイラの指輪が何か、忘れた訳じゃねえよなぁデカブツ」
カゼジロウの使用する指輪は瞬足の指輪。その指輪を発動したカゼジロウにはほとんどの人が追いつけない。
「そう!脱走してきたのさ!」
「ふっざけんな!もう一回警察に突き出してやる!」
腕を組み誇らしげなカゼジロウにキョウカがキレて殴りかかろうとする。
「待ったキョウカ。今希望がどうとか言ったよね。それってどういう意味?」
そんなキョウカを遮りシルがカゼジロウに質問する。
「ふっ。オイラの願いを一つ聞いてくれればお前らに手を貸してやる。オイラがいればライヤの救出なんて晩御飯後だ」
「はぁ!?誰があんたの力なんかっ!」
「キョウカ」
シルの落ち着いた声にキョウカも言葉を止める。確かに今のままでは絶対にライヤを救うことは出来ない。だが、カゼジロウが手伝う事でほんの少しでも可能性があるなら。
「あんたの願いって何?」
露骨に嫌な顔をしながらキョウカがカゼジロウに質問する。カゼジロウは一切の迷いもなく即答。
「オイラを警察に突き出さないこと」
カゼジロウの願いにキョウカは驚く。もっと凄い願いが出てくるのだとばかり。
「お姉様」
ナズナの言いたいことは分かる。別にキョウカ達は正義の味方ではない。仲間を救うために犯罪者を見逃すくらいどうということはない。しかし。
「一つ質問に答えて。なんで私達に協力するつもりになったの?」
元々は敵同士だったと言うのに何故カゼジロウはキョウカ達に手を貸すのか。それだけはどうしても聞いておかなければならない。
「ダチを救うのに、理由なんているのかよ?」
「ダチ?」
そういえば迷宮でライヤと殴り合いをした後友達になったとか言っていた気がする。まさか、さらわれたライヤ、ダチの為に命を懸けて救いに行こうと言うのか。
「・・・分かった。その取り引き、引き受けた」
「うっしゃ交渉成立だ!ぶっちゃけオイラ一人じゃダチの救出もキツイかと思ったが、デカブツ共もいるなら話は別だ!」
カゼジロウのその言葉を聞きキョウカは再び驚愕。まさか取り引きを断られ、一人になったとしてもライヤを助けに行くつもりだったとは。
「それで、なんか救出の方法はあるんでしょうね?」
「勿論だ!あいつらを追ってぶっ飛ばす!それで解決だ」
「あんたねぇ!私達の話聞いてなかった訳!?」
吸血鬼をぶっ飛ばすのはキョウカも賛成だ。しかし空を飛んでいった吸血鬼に追いつく方法がない。
「おいおい、オイラの指輪を忘れたのかよ」
カゼジロウが指輪を見せびらかした後に人が三人程度乗れるほどの大きさの人力車を指差した。
「ま、まさか」
「こいつでオイラがお前らを連れてく。その間にオンナがデカブツの傷を治せば万全の状態であいつらぶっ飛ばせるだろ」
「そんな、無茶ですよ!例え移動はできたとしてもフィンさんの傷を完治させるなんて幾らお姉様でも」
「足りねえならこいつ使えや。警察からパクってきた超回復ポーションだと。これなら致命傷でも治せるらしいぜ」
そんな貴重な物だと知っていながらカゼジロウはナズナにそのポーションを投げる。
「危ない!ちょっと!割れたらどうするつもりだったんですか!!」
「そうなったらキャッチ出来なかったタヌキが悪いって事で」
「ふざけないで下さい!」
ナズナが頬を膨らませて怒りキョウカも少し腹立たしくなってきた。だが、問題が次々と解決していくのは事実。
「キョウカちゃん。無理かも知れねえが、悩んでる時間はねえぞ」
「うん、分かってる」
ヴァンパイアクイーンに噛みつかれ、変わり果てたライヤの姿はキョウカも目にした。完全な吸血鬼になる前に、なんとかしてライヤを人間に戻さなければならない。
「行くよ!ライヤを救出しに!!」
「おう!」
「はい!」
「うん!」
「ハッハッハ!任せやがれ!」
三人が人力車に乗り込み、フィンはポーションを、キョウカはキュアを呼び出して治療を始め、ナズナはアックスレイブンに変化して風を防ぐ体制を取った。
「瞬足の指輪ぁ!発!動!」
カゼジロウが指輪を使用して一歩先へ足を動かす。踏み締めた足が一気に力を増し、地面が潰れる。次の瞬間にはもはやカゼジロウは風となっていた。
「ハッハッハ!!!ん、待てよ。そういやー何処に向かえばいいんだ?」
走り始めて僅か三秒。カゼジロウの足は即座に止まった。
「おい!!」
使えない車にキョウカは治療を止めて突っ込む。
「行き先なら分かります。お兄様が偶然貰ってきたハッシンキという魔道具があります」
「それにライヤは雷鳴の指輪を持ったまま連れ去られてる。雷鳴の指輪の場所なら私が確認できる」
「ほほぉ。やっぱし取り引きして正解だったぜ。オイラ一人じゃ何処に行けばいいのか分からんかった」
キョウカの指輪の光とナズナが持つハッシンキ。その二つを重ね合わせるとライヤの今の場所が明確に分かった。
「西だ!走れ変態ふんどし!」
「変態ふんどしじゃねえ!オイラはカゼジロウさんだ!!!」
カゼジロウは再び瞬足の指輪を発動。目にも止まらぬ、とは行かないが魔道車に負けずとも劣らない速度で走り出した。
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