2 / 4
二話 大学とカラオケ
しおりを挟む毎日愉悦団の悪事を止めながらも今日も今日とて日常は続く。正義のヒーローでありながら現役大学生でもあるブレイグリーン、陽陰透輝は憂鬱な思いで次の講義が行われる教室の扉を開ける。
(うわ。後ろの方全部埋まってる)
透輝は不真面目な学生ではないが別に真面目な訳でもない。講義には出席するし提出物や課題には取り組むが、別に毎回真剣に講義を聞く訳ではない。故に教授から見られにくい後ろの席を陣取りたかったが、そうは問屋が下さない様だ。仕方がない為前の方の空いている席に
「透輝ー!」
そんな事を思っていると大きすぎず小さすぎない絶妙な声で透輝を呼ぶ声が後ろからした。驚いて振り返るとそこには笑顔で手を振るブレイブルー、藤野零士がいた。
「うげっ!?」
透輝は周囲をぐるぐると見渡し、そそくさと零士の隣に座った。
「そんな周囲の目気にしなくても誰も気にしてねえよ?」
「俺が気にするんすよ」
「まあ気持ちは分かるがな」
何を隠そう透輝と零士は同じ大学所属である。それだけではない。
「モーさんも椿も他の奴らもこの講義受けてなくてよー。一人寂しく受けることになるかと思ったら透輝がいた!いやぁ嬉しいぜ!」
ブレイバーの中で四人のメンバーがこの大学に所属している。その理由は実に簡単だ。
「皆静かに、講義を始めます」
講義開始のチャイムが鳴り、教授が教室に入ってくる。その教室に入ってきた教授というのが零士の母、藤野冷華に他ならない。コネ入学、という訳ではないがいざという時に集まっていた方が愉悦団に対処しやすいだろうという冷華の考えである。ちなみにブレイピンクの静はまだ高校生なのでこの大学にはいない。
「俺この講義受ける気なかったんだけど、母さんが勝手に入れてきてよ」
「俺もっす」
二人して頭を抱える。大学生達の間では冷華の事は雪女と呼ばれている。その理由は簡単。シンプルに講義の内容が難しいのにその厳しい性格により病欠以外の一度の欠席で単位を落とすし、課題は山積み。テストは持ち込み禁止は当たり前で難易度は鬼レベル。その為誰も受けたがらないのだが、なんと一部の学科に進む為にはこの講義が必修科目なのだ。
「後ろに座っている者。前が空いています。こちらの方がよく見えますよ?」
冷華からの一言で一定の生徒は血相を変えて前の席へ移動する。当然透輝は前へ移動した。しかしそれでも後ろに残る生徒が一人。零士である。
「あらあら、強情ですね」
しかし意外な事に冷華は零士の行動を否定しなかった。
「ではあなたには課題を五倍に」
零士は静かに一番前の席へ移動した。
◇
「雪女がよぉぉぉ!」
講義終わり、しっかりと冷華が退出した事を確認してから零士が叫ぶ。
「大丈夫なんすか!?そんな事言っちゃって!?」
「反抗期の息子なんてこんなもんだろー?それに俺はそんなに母さんに反抗期してないし」
確かにあの母親に反抗期を起こすのは勇気がいる。零士は愉悦団と戦う時や仲間の為ならば幾らでも勇気を絞り出せるが、日常生活では勇気の欠片もない。冷華は勿論、椿にすら言い返さず受け入れる時がある。まあ椿の場合は言い返すと面倒だからなのだが。
「疲れたー!カラオケ行こうぜカラオケ」
「うぇ!?カラオケ!?」
カラオケ、それすなわち陽キャの遊び場。実際にはオタクなどもアニソンを歌いによく行ったりしているが、悲しいかな透輝には友と呼べる友がいなかった為カラオケなど未知の領域である。
「俺、カラオケはちょっと」
「嫌なのか?じゃあボーリング?」
当然、ボーリングも未知の領域である。
「えっと、あの」
「もしかして行った事ないのか?透輝友達いなかったんだもんな!」
「ストレート投げるの心にくるんで辞めてもらっていいっすか?」
見ての通り零士はグイグイ来る人間なので大学から知り合った透輝の事もそこそこ知っている。寧ろ半年程度しか付き合いがないのに知りすぎているレベルである。
「じゃあ一回行ってみようぜ?行ったら楽しいかも知れないし!」
「いやぁ、でも」
「な!一回だけ!」
「・・・うっす」
零士のその提案を断る事が出来なかった。透輝は押しに弱いのだ。
「よっしゃ!じゃあ行こうぜ!」
こうして二人はカラオケへと向かった。
「ここが、カラオケ屋!?」
「カラオケに屋はいらんだろ」
カラオケの外見は見た事はあったが当然中に入った事は無かった。そして今日初めてカラオケに入った透輝はそのあまりの気迫に圧倒された。黒塗りの壁に鴉などの置物。全てのカラオケ店がこうではないが偶然大学の近くのカラオケはこんな雰囲気のお店だった。それ故に、透輝の認知は歪んだ。
「カラオケって組のアジトだったんすね?」
「違うぞ落ち着け」
目をぐるぐる回した透輝に零士が軽いビンタをする。その結果透輝は目を覚ましてそのまま中へ。
「あれ?カウンターで受付とかしなくていいんすか?」
「予約してあっからそのまま部屋に行けるぞ。透輝絶対カラオケで人と関わりたくない人種だろ?だからドリンクバーもセルフな」
「あんたが神か?」
「敬え敬え!」
零士とのノリをしていると何も歌っていないのに何だか楽しくなってきた。そのままの気持ちで部屋の中へ。
「広っ!?」
その部屋の中は実に広くて十人は余裕で入れそうな部屋となっていた。やはりカラオケとは大人数できてワイワイ騒ぐものなのだ。透輝とは世界が違うのだ。
「広っ!?」
と、思った瞬間零士も同じ反応をした。
「二人でこの部屋は広すぎるだろ!?」
「あ、全部がこんなんでは無いんすね」
「無い無い!?もっと狭いって!」
透輝のカラオケとの距離が縮まった。
「何歌う?」
「えっ!?いや、えっと。何歌いましょう?」
「とりあえずドリンク取りに行くか。初めてなら一緒に行こうぜ」
いつもは零士がさっさとメンバー分のドリンクを取ってくるのだが透輝は初めてのカラオケである。ならば一緒に行くのが良いだろう。
「ドリンクバーの説明をしよう」
「流石にそれくらいは分かるっす」
「くっ!やるじゃねえか」
「どうも?」
他愛無い会話をしながら零士はメロンソーダ、透輝はコーラも持って部屋に戻る。今の所初めての事に驚きはあるものの零士が一緒だからか不思議と楽しい。成程。友達とのカラオケとは、こうも楽しいものなのか。
「ほなとりあえず俺から歌うかな。歌うのは!ミスターレッドアポーのハイラック!!」
「あぁ、あのよくテレビで流れるやつ」
「とりあえず流行には流されるのが俺流だからな。話題のものはとりあえず触ってみる」
「なるほど」
流行の波に取り残されている透輝からは分からない感情だが普段そういうのを聞かない透輝でも分かる曲であることは確かだ。どうやら透輝でも分かる曲を選んでくれたらしい。
「ガチャ引くと絶対神引きのハイラック!」
(音程は覚えてるけど歌詞こんなだったんだな)
備え付きのマラカスを手渡された為シャンシャンしていた透輝に零士がノリノリで歌い続ける。正直上手くも無いしどちらかと言うと下手よりだが、不思議と楽しい気持ちに包まれる。
「ほい、次透輝な。なんか歌いたい曲決まったか?」
「え?あ、ああ。うっす」
そう言われてとりあえず分かりそうな曲を入れる。そして肝心のその歌い出しを歌い始めるタイミングで。
ビィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!
大きな警報が鳴り響いた。
「これは、愉悦団の襲撃!?」
「クッソォ!!?タイミング悪すぎだろ!!?せっかく透輝がカラオケを楽しむ瞬間だったのによぉぉ!!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる