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4話 ラウコーン王国 その2
しおりを挟むリオナは訪ねてきた人物を知っている……何度か、パーティ会場等で話したこともある間柄。ユリア・サンマイト、リオナと同じく有力貴族の令嬢の一人であった。
そして……グレンの浮気相手でもある。
「……なんの御用でしょうか?」
「そんなに邪険にしなくても、よろしいんじゃなくて? あなたが今夜、シリンガ宮殿に泊まると聞いたから挨拶に来てあげたのよ」
ユリアは青いロングストレートの髪をかき上げながら言った。鋭い目つきはまさに高飛車令嬢といった雰囲気はあるが、とても美しい為に性質が悪い。一体、どの面を下げて会いに来ているのかと勘繰りたくなってしまう。
リオナ側からすれば、話すことなど特にないわけだ。少し前まで、自らの婚約者であったグレンがユリアを選んだのだから。リオナが文句を言いに彼女の元を訪れることはあったとしても逆は早々ないだろう。面の皮が相当に厚くない限り……。
「ご用件はなんでしょうか? 私はお風呂に入りたいので、手短かにお願いいたします」
「あら? 客人に対する態度が本当になってないわね。こういう時は、飲み物の一つでも出すのが礼儀ではなくて?」
そう言いながら、ユリアは部屋の片隅に置かれているティーポットに目を映した。宮殿のメイドが用意したのか、中には飲み物が確かに入っている。しかし、リオナはあげる気はないようだ。
「ユリア様とは、特に親しくしていなかったように感じます。客人……という響きは違和感があります」
リオナなりの冷たい視線での言葉だが、どこか迫力に欠けている。彼女は憎まれ口を叩くことに慣れていないのだ。今は、少し無理をしている形だが、ユリアには効いているようだった。
「……まあいいわ。単刀直入に言ってあげる。グレン様がなんで私を選んだか知ってる?」
「いえ、存じておりません」
やはりその話になったか……リオナとしても、グレンの話はしばらく聞きたくはなかったが、自分が婚約破棄にあった理由は知っておきたかった。彼女はまだ、心の片隅ではやむを得ない事情があったのではないかと考えている。
「多分、あなたのことだから、政略的結婚の背景があるんじゃないかとか、ギュスターブ家を貶める為に、私が動いたんじゃないかとか、考えてそうだけど……」
ユリアは淡々とした口調でリオナに告げていった。
「単なる浮気、だから。特に政略面での背景とかは何もなくてよ? あんたは単純に、つまんないから選ばれなかっただけ! 残念でした!」
ユリアは大笑いしながら、残酷な現実をリオナに話したのだ。彼女はこの時初めて、グレンがただの「浮気」をしたのだと気づいた。
女好きの第二王子である、グレン・ハンフリー……本来であれば、リオナの立場の女性はグレンに死ぬほどの文句を言って手切れ金をたんまりと、ぶんどったりするわけだ。もしくはビンタの応酬といったところか。
それほどに、グレンからしてみれば大したことではなかったのだ。しかし、恋愛経験に乏しい無垢なリオナにとって、この事実は耐え難いものだったと言える。自分はそのような、最低の人に付いていこうとしていたのか、と心の中で後悔の念が渦巻いていた。
「残念だったね、リオナ。まあ、私が第二王子様の妻の座はいただいてあげる。あはははははっ!」
「……グレン様とユリア様のお気持ちはよくわかりました……感謝いたします」
「はあ? 感謝? 誰も感謝されたくてこんなこと言ったわけじゃないのよ。ま、いいけど……それじゃあね、負け犬ちゃん」
ユリアはそこまで言うと、満足したようにリオナの部屋から出て行った。残されたリオナは能面のように無表情な顔をしていた。
「負け犬ちゃんですか……果たして、どちらなのでしょうね、それは……」
アレン第一王子に求婚されている勝ち組中の勝ち組である、リオナ・ギュスターブ。ユリアとの会話をきっかけとして、グレン第二王子への後ろめたさを完全に排除できたのであった。
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