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12話 王と王妃 その2
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「……緊張いたします」
「そう緊張しなくても大丈夫だ。いつも通り、軽く話せば問題ない」
「は、はい」
シリンガ宮殿に来ているアレンとリオナ。彼らは国王であるヨハンに挨拶をする為にやってきた。国王に謁見するのは当然初めてではないリオナだが、緊張を隠せない様子だ。手と足が同時に出ている。
あの忌まわしいギュスターブ邸での出来事から数日が経過していた。
「特に難しく話そうとしなくても大丈夫だ。普通に丁寧語を使えば問題ない」
「か、かしこまりました……善処いたします」
リオナの緊張が解ける様子はなかった。彼女は婚約の挨拶として国王に謁見するのだ。緊張するなと言う方が難しいが、父親が固い人間ではないことを知っているアレンは、いつも通り楽に会ってもらいたかった。
ラウコーン王国に於いて、婚約の挨拶というのは省かれることもある。後に早馬などで報告だけはするということもあるのだ。そこに至った理由は定かではないが、貴族をもっと庶民的にとの先代の考えなどがあったのだろう。今でも省かれる通例だけは残っていたが、今回はリオナの希望もあるために国王への挨拶が実現した。
本来であれば、楽に構えてなんら問題はないことなのだ。それでも、リオナの態度が改まることはなかったが……。
「……アレン様」
「シャルロッテじゃないか」
そんな時、アレンを呼ぶ少女の声がした。アレンはシャルロッテという名前を口にする。リオナは見かけた記憶があるくらいで、白いショートカットの髪が特徴の少女だ。瞳は青く虚ろだが、なかなか美人と言えるだろう。年齢はリオナと同じで17歳だった。
「仕事が順調か?」
「はい。先ほど終えたばかりです。そちらの方は……アレン様の婚約者のリオナ・ギュスターブ様ですね」
シャルロッテは無表情かつ、やや淡白な物言いだったが、丁寧に挨拶をする。リオナも会話をするのは初めての相手だが丁重に返した。
「はじめまして、シャルロッテさん。リオナ・ギュスターブと申します。以後、お見知りおきを」
「シャルロッテ・カーマインと申します。よろしくお願いいたします」
どこかの貴族の令嬢だろうか? メイド服は着ておらず、豪華なドレスを適当に破いて着崩している少女。少し浮世離れしている印象さえある。リオナはシャルロッテの背景が気になっていた。不思議な印象を受けたからだ。
「それでは、わたくしはこれで失礼いたします」
「ああ。また今度、私達3人で話でもしようか」
「はい、よろこんで」
初めて会話を交わしたシャルロッテであるが、第一印象は悪くない。リオナも話をしてみたいという思いに駆られていた。彼女は足早に二人のところから去って行った。
「不思議な方ですね」
「そうかもしれないな。彼女は孤児らしいからな。本来なら、宮殿で働くことはできないんだが……」
「孤児……ですか」
なるほど、彼女の無表情な話し方はその辺りも絡んでいるのかもしれない。孤児というだけでの同情は、逆に失礼に値するかもしれないが、それ相応の苦労をしていただろうとリオナは考えていた。
「しかし、一度見たり聞いたりしたことを決して忘れないという記憶力の持ち主だ。非常に頭も良く、その力を見込まれて宮殿内の仕事を任せられているようだ」
アレンは詳細については詳しくは知らない。実際には国王と王妃が選抜したからだ。彼女がその能力を駆使し、雑務を引き受けてから、宮殿内の仕事の効率が上昇したとも言われている。
親バカなところがあるヨハン・ハンフリーだが、シャルロッテを選んだのは、彼の数ある功績の一つと言えるだろう。
「さて、そろそろ時間のようだ。父上のところに向かおうか」
「はい」
シャルロッテが勇気をくれたわけではないだろうが……いつの間にか、リオナの緊張はかなり和らいでいた。そのまま軽い足取りで玉座の間へと向かう。これなら自然と軽い会話が出来そうだ。
「そう緊張しなくても大丈夫だ。いつも通り、軽く話せば問題ない」
「は、はい」
シリンガ宮殿に来ているアレンとリオナ。彼らは国王であるヨハンに挨拶をする為にやってきた。国王に謁見するのは当然初めてではないリオナだが、緊張を隠せない様子だ。手と足が同時に出ている。
あの忌まわしいギュスターブ邸での出来事から数日が経過していた。
「特に難しく話そうとしなくても大丈夫だ。普通に丁寧語を使えば問題ない」
「か、かしこまりました……善処いたします」
リオナの緊張が解ける様子はなかった。彼女は婚約の挨拶として国王に謁見するのだ。緊張するなと言う方が難しいが、父親が固い人間ではないことを知っているアレンは、いつも通り楽に会ってもらいたかった。
ラウコーン王国に於いて、婚約の挨拶というのは省かれることもある。後に早馬などで報告だけはするということもあるのだ。そこに至った理由は定かではないが、貴族をもっと庶民的にとの先代の考えなどがあったのだろう。今でも省かれる通例だけは残っていたが、今回はリオナの希望もあるために国王への挨拶が実現した。
本来であれば、楽に構えてなんら問題はないことなのだ。それでも、リオナの態度が改まることはなかったが……。
「……アレン様」
「シャルロッテじゃないか」
そんな時、アレンを呼ぶ少女の声がした。アレンはシャルロッテという名前を口にする。リオナは見かけた記憶があるくらいで、白いショートカットの髪が特徴の少女だ。瞳は青く虚ろだが、なかなか美人と言えるだろう。年齢はリオナと同じで17歳だった。
「仕事が順調か?」
「はい。先ほど終えたばかりです。そちらの方は……アレン様の婚約者のリオナ・ギュスターブ様ですね」
シャルロッテは無表情かつ、やや淡白な物言いだったが、丁寧に挨拶をする。リオナも会話をするのは初めての相手だが丁重に返した。
「はじめまして、シャルロッテさん。リオナ・ギュスターブと申します。以後、お見知りおきを」
「シャルロッテ・カーマインと申します。よろしくお願いいたします」
どこかの貴族の令嬢だろうか? メイド服は着ておらず、豪華なドレスを適当に破いて着崩している少女。少し浮世離れしている印象さえある。リオナはシャルロッテの背景が気になっていた。不思議な印象を受けたからだ。
「それでは、わたくしはこれで失礼いたします」
「ああ。また今度、私達3人で話でもしようか」
「はい、よろこんで」
初めて会話を交わしたシャルロッテであるが、第一印象は悪くない。リオナも話をしてみたいという思いに駆られていた。彼女は足早に二人のところから去って行った。
「不思議な方ですね」
「そうかもしれないな。彼女は孤児らしいからな。本来なら、宮殿で働くことはできないんだが……」
「孤児……ですか」
なるほど、彼女の無表情な話し方はその辺りも絡んでいるのかもしれない。孤児というだけでの同情は、逆に失礼に値するかもしれないが、それ相応の苦労をしていただろうとリオナは考えていた。
「しかし、一度見たり聞いたりしたことを決して忘れないという記憶力の持ち主だ。非常に頭も良く、その力を見込まれて宮殿内の仕事を任せられているようだ」
アレンは詳細については詳しくは知らない。実際には国王と王妃が選抜したからだ。彼女がその能力を駆使し、雑務を引き受けてから、宮殿内の仕事の効率が上昇したとも言われている。
親バカなところがあるヨハン・ハンフリーだが、シャルロッテを選んだのは、彼の数ある功績の一つと言えるだろう。
「さて、そろそろ時間のようだ。父上のところに向かおうか」
「はい」
シャルロッテが勇気をくれたわけではないだろうが……いつの間にか、リオナの緊張はかなり和らいでいた。そのまま軽い足取りで玉座の間へと向かう。これなら自然と軽い会話が出来そうだ。
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