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繋がる
しおりを挟む「結局このクッション、渡せへんかったな……」
紙袋の中のクッションが、ずっしりと重たく感じられる。
絃葉の喜んだ顔、見たかったなあ……。
こんなんじゃ、天国のばあちゃんからも笑われるわ……。
後悔を募らせながら家に帰ると、悲壮な面持ちをした俺に、白川さんが声をかけてくれた。
「紡くん、どうしたんだい? その糸、なんか透明に見えるんやけど」
「え?」
一瞬、白川さんが何を言っているのか、俺には理解できなかった。
てっきり意気消沈した様子の俺を気遣ってくれたのかと思いきや、「糸」と彼は言った。俺は、自分の右手に糸が握られていることに気がつく。ポケットに入れていたはずなのに、いつの間に——。
いや、それより今、白川さんはなんて言った?
確か、「透明に見える」って……。
「透明……? 透明に見えるんですか!?」
「あ、ああ。でもなんでやろ。普通の糸なのに、今一瞬、透き通って」
「おっちゃん、それってどれくらい? どれくらい透き通ってるん!?」
俺はいつになく頭が熱くなり、白川さんに詰め寄った。
「そうやなあ。結構、見えなくなるぐらいまで、透き通ってるように見える。いやあ、この間紡くんが言ってたこと、ほんまやったんやねえ。俺の目が老眼でそう見えるだけかもしれへんけど」
不思議、不思議、と笑いながら呟く白川さんとは裏腹に、俺の脳裏にはある言葉がぐるぐると駆け巡っていた。
透明な糸。
病気。
ばあちゃんの死。
絃葉の余命——。
まるで一本の糸が繋がっていくように、ある事実が浮かび上がってくる。
まさか……まさか、そんなこと。
嫌な想像をしているだけだと頭を振り払っても、どうしても暗い予感がしてならない。
違う。こんなの俺の勘違いだ。
第一、そんな現実離れしたことが、起こるはずない——。
必死に自らの考えを否定しようと思うのに、身体は勝手に、工場の外へと飛び出そうとしていた。
「紡くん、遊びに行くん?」
「違います! 彼女の元に……!」
白川さんが、瞳を大きく開き、優しそうな微笑みを浮かべて「そおか。行ってらっしゃい」と手を振った。俺は、彼が何か勘違いしていると思ったものの、前に進むことをやめられなかった。
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