選ばれなくてよかったと、今は思います

たくわん

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失敗は、第三回の打ち合わせの直後に起きた。

オルタス商会の代理人が退席した後、資料を片付けながらセシルは自分のミスに気づいた。

先方が今回提示した修正案に対して、セシルは「検討します」と答えた。
しかしその修正案は、過去に一度文書院が却下した内容と実質的に同じものだった。
確認せずに「検討します」と言った。
本来なら、その場で「過去の経緯を踏まえると、受け入れが難しい」と伝えるべきだった。

次回まで持ち越してしまった。
それによって相手は「受け入れる可能性がある」と解釈するかもしれない。
後から覆すことになれば、交渉の信頼を損ねる。

渉外部に戻ってから、机の前で三十分ほど動けなかった。

やり直しがきかないわけではない。
修正の手紙を今日中に出せばいい。
でも、自分が判断材料を持っていながら確認しなかった事実は消えなかった。


夕方、エドワードに報告した。

「打ち合わせの件で、修正があります」

経緯を正確に話した。
自分の判断の甘さも、隠さずに言った。

エドワードは話を最後まで聞いた。
遮らなかった。

「先方への修正連絡は」
「今日中に出します。書面ですでに起こしてあります」
「見せろ」

連絡書を渡すと、エドワードはしばらく読んだ。

「これでいい。出せ」

それだけだった。

「申し訳ありませんでした」
「謝罪は要らない」

エドワードはペンを置いて、セシルを見た。

「原因は何だ」
「打ち合わせの流れの中で、過去事例の確認を怠りました。判断材料が手元にあったにもかかわらず」
「では次回は」
「打ち合わせ前に必ず過去の却下事例を一覧で手元に置きます」
「それだけでいい」

エドワードは再びペンを手に取った。

「責めるなら自分ではなく、判断材料の不足を責めろ。自分を責めても次の判断は改善しない」

低い声で、淡々と言った。

セシルは少しの間、その言葉を頭の中で転がした。

自分を責めるな。
判断材料の不足を責めろ。

感情的な慰めではなかった。
謝罪を求めるわけでも、責めるわけでもなかった。
ただ次に向かうための道筋を、一本だけ示した。

「……ありがとうございます」
「礼も要らない。修正書を出せ」


廊下に出て、書類を手に持ったまま立ち止まった。

どうして泣きそうになっているのかが、わからなかった。

叱られたわけではない。
慰められたわけでもない。
ただ、次の一手を指されただけだった。

それなのに、胸の奥が緩むような感覚があった。

婚約の五年間、失敗したとき、クロードはどうしていたか。
「そういうの、難しいね」と言って話題を変えた。
何が悪かったかを一緒に考えたことは、一度もなかった。

エドワードは別だった。
失敗の中身を一緒に見た。
見た上で、次を示した。

廊下の突き当たりの窓から、夕日が差し込んでいた。
セシルは目を細めて、光の方を向いた。
それから、修正書を持って郵便窓口へ歩き出した。
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