選ばれなくてよかったと、今は思います

たくわん

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深夜一時を過ぎた頃、雪はまだやまなかった。

暖炉の薪を一本足して、セシルは椅子に戻った。
エドワードは手元に書類を出していたが、そろそろ読む気力も尽きてきたらしく、手を止めていた。

「眠れないのか」

エドワードが言った。

「少し。こういう場所では慣れていなくて」

「そうか」

また沈黙になりかけて、セシルは少し迷ってから口を開いた。

「実は……婚約を解消されたことがあります」

言った後で、なぜ今これを話しているのかと思った。
でも、止める気にもなれなかった。

「今年の春に。五年間の婚約でした」

エドワードは書類に目を落としたまま、何も言わなかった。
聞いていないのではなく、聞いている沈黙だった。

「家格の不一致と言われました。相手の方にとっては正直な理由だったと思います。でも、正直に言われると……かえって言い返せなくて」

「言い返す必要はない」

「そうですね、今はそう思います」

窓の外の雪が、ランプの光に白く光った。

「私もある」

エドワードが言った。

セシルは顔を上げた。

「婚約の解消が」

「八年前だ。私が伝えるのが下手で……気づいた時にはもう遅かった」

それだけだった。
詳細も、経緯も、感情も、それ以上は言わなかった。

でも、その短さの中に、長い時間が畳まれているのがわかった。

「……そうだったんですね」

「引きずっているわけではない」

「でも、忘れたわけでもない」

エドワードが少しの間、セシルを見た。

「……そうだな」

暖炉の火が揺れた。

それ以上、二人とも何も言わなかった。
言う必要がなかった。
同じ痛みを持っているとは思わなかった。
でも、傷を持っているということは、同じだった。

セシルは膝の上で手を組んで、火を見た。
エドワードも火を見ていた。

雪の音は聞こえなかった。
雪は音を立てない。
ただ積もっていく。

夜が明ける前に、二人は短い仮眠を取った。
同じ室内で、別々の椅子で、暖炉の火が消えかける前に眠った。

翌朝、窓の外は一面の白だった。

セシルが目を覚ますと、エドワードはすでに起きていて、窓の外を見ていた。
その横顔は、いつもと同じ無表情だった。

でも、昨夜の言葉を知っている今の自分には、その無表情が以前とは少し違って見えた。

「おはようございます」

「ああ」

短いやりとりだった。
でも、その短さに、昨夜の重みが静かに含まれていた。
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