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噂が広まるのは早かった。
「ロウエル職員と長官が、雪の夜に二人きりで過ごした」
月曜日の朝に出勤すると、廊下を歩くだけで視線が変わっているのがわかった。
好奇心のある目、面白がっている目、冷ややかな目。
様々な種類が、さりげなく向けられた。
給湯室に入ると、記録部の職員が二人いて、セシルの顔を見て話をやめた。
「おはようございます」
セシルは普通に挨拶した。
二人は「おはようございます」と返して、少し早めに出ていった。
昼前に、渉外部の先輩職員の一人がセシルの机に来た。
「ちょっといいかな」
ベテランの女性で、以前からセシルの抜擢をよく思っていない様子だった。
「雪の夜の件、どういうことなの。院内の風紀に関わるから、はっきりさせた方がいいと思って」
「当直の見回りで同じ部屋にいただけです」
「それだけ?」
「それだけです」
「でも長官と二人で一晩というのは……」
「当直が重なりました。他に当直の職員が何人もいましたが、深夜に交替で仮眠を取っていたので、時間帯によっては同じ室内にいることもありました。以上です」
先輩は何か言いたそうにしたが、それ以上は言えなかった。
「……そう。ならいいけど」
去っていく背中を見ながら、セシルは小さく息をついた。
説明は正しかった。
でも、説明を続けることに、少し疲れた。
夕方、書類を届けに長官室に行くと、エドワードが立ったまま窓の外を見ていた。
「書類をお届けします」
机に置こうとすると、エドワードが振り返った。
「噂のことを気にしているか」
率直だった。
セシルは少し考えた。
「少しは」
「誤解を解く必要があると思うか」
「事実ではないことに、時間をかけるべきかどうかと考えていました」
エドワードは窓から机へと歩いてきた。
「事実ではないことに時間を使う必要はない」
言い切った。
その言い方には迷いがなかった。
「私が一緒にいたことで君が不利益を被るなら、私が院内に説明する。必要か」
「……いいえ。大丈夫です」
エドワードはうなずいた。
「気にするな」
それだけだった。
セシルは扉に向かいながら、その言葉の形を確認した。
私が説明する。
気にするな。
守る、という言葉を使わなかった。
でも、意味はそういうことだった。
廊下に出て、石の壁に手をついてしばらく立った。
自分が今、何を感じているのかは、もうわかっていた。
ただ、それを認めることと、どうするかは、別の問題だった。
窓の外に、秋が深まった夕空が広がっていた。
色が濃くて、どこまでも続いていた。
「ロウエル職員と長官が、雪の夜に二人きりで過ごした」
月曜日の朝に出勤すると、廊下を歩くだけで視線が変わっているのがわかった。
好奇心のある目、面白がっている目、冷ややかな目。
様々な種類が、さりげなく向けられた。
給湯室に入ると、記録部の職員が二人いて、セシルの顔を見て話をやめた。
「おはようございます」
セシルは普通に挨拶した。
二人は「おはようございます」と返して、少し早めに出ていった。
昼前に、渉外部の先輩職員の一人がセシルの机に来た。
「ちょっといいかな」
ベテランの女性で、以前からセシルの抜擢をよく思っていない様子だった。
「雪の夜の件、どういうことなの。院内の風紀に関わるから、はっきりさせた方がいいと思って」
「当直の見回りで同じ部屋にいただけです」
「それだけ?」
「それだけです」
「でも長官と二人で一晩というのは……」
「当直が重なりました。他に当直の職員が何人もいましたが、深夜に交替で仮眠を取っていたので、時間帯によっては同じ室内にいることもありました。以上です」
先輩は何か言いたそうにしたが、それ以上は言えなかった。
「……そう。ならいいけど」
去っていく背中を見ながら、セシルは小さく息をついた。
説明は正しかった。
でも、説明を続けることに、少し疲れた。
夕方、書類を届けに長官室に行くと、エドワードが立ったまま窓の外を見ていた。
「書類をお届けします」
机に置こうとすると、エドワードが振り返った。
「噂のことを気にしているか」
率直だった。
セシルは少し考えた。
「少しは」
「誤解を解く必要があると思うか」
「事実ではないことに、時間をかけるべきかどうかと考えていました」
エドワードは窓から机へと歩いてきた。
「事実ではないことに時間を使う必要はない」
言い切った。
その言い方には迷いがなかった。
「私が一緒にいたことで君が不利益を被るなら、私が院内に説明する。必要か」
「……いいえ。大丈夫です」
エドワードはうなずいた。
「気にするな」
それだけだった。
セシルは扉に向かいながら、その言葉の形を確認した。
私が説明する。
気にするな。
守る、という言葉を使わなかった。
でも、意味はそういうことだった。
廊下に出て、石の壁に手をついてしばらく立った。
自分が今、何を感じているのかは、もうわかっていた。
ただ、それを認めることと、どうするかは、別の問題だった。
窓の外に、秋が深まった夕空が広がっていた。
色が濃くて、どこまでも続いていた。
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