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最終交渉は、二時間かかった。
オルタス商会の代理人三名と、文書院側はセシルと渉外部長。
第七条の修正案について、先方が最後まで粘った。
文言を一語ずつ確認し、解釈の余地を潰していく作業が続いた。
正午を過ぎた頃、先方の主任代理人がため息をついて言った。
「……わかりました。こちらの案で合意します」
渉外部長が「では調印の手続きを」と立ち上がった。
セシルは書類を整えながら、静かに息をついた。
終わった。
調印が完了したのは午後三時だった。
応接室から出て廊下を歩いていると、部長が「よくやった」と言った。
それだけで、あとは長官室に報告に行くと言って先に歩いていった。
渉外部に戻ると、リンが「終わったの!?」と声を上げた。
「終わりました」
「すごい、本当に……セシルがまとめたんでしょ?」
セシルはあいまいに笑った。
廊下を通りかかった記録部の職員が「お疲れ様でした」と言っていった。
法務部の先輩も、顔を出して「聞いたよ」と言った。
じわじわと、達成感が滲んできた。
夕方の全体集会で、エドワードが職員の前に立った。
「今月、渉外部がオルタス商会との長期契約更新を成立させた。院にとって重要な案件を、期限内に収めた」
簡潔な言葉だった。
「主担当のロウエル職員の働きを評価する」
名前を呼ばれた瞬間、室内の視線がセシルに集まった。
セシルは静かに立ったまま、頭を下げた。
耳が熱かった。
集会が終わって人が散り始めた時、廊下の向こうに見覚えのある顔があった。
クロードだった。
別の案件で来訪していたのか、廊下の端に立って今の様子を見ていた。
目が合った。
クロードは何か言いたそうな顔をしたが、何も言わなかった。
セシルも、何も言わなかった。
それぞれが、それぞれの方向へ歩いた。
渉外部に戻って、書類を片付けながら、セシルは窓の外の空を見た。
今日のことを、誰かに話したかった。
母に手紙を書こうと思った。
リンに、後で食事に誘おうと思った。
それから、長官室の灯りのことを思った。
今夜も、あそこに灯りがついているだろう。
名前を呼ばれた時のことを、もう一度思い出した。
エドワードの声は低くて短かった。
ただ事実を述べるだけの言い方だった。
それなのに、胸の奥でずっと鳴り続けていた。
机の引き出しから便箋を取り出した。
まず母への手紙を書こう。
ペンを走らせながら、セシルは少しだけ笑った。
自分が気づかないうちに、この場所が好きになっていた。
この仕事が、この建物が、この灯りが。
秋の夕空が、窓の外で静かに暮れていった。
オルタス商会の代理人三名と、文書院側はセシルと渉外部長。
第七条の修正案について、先方が最後まで粘った。
文言を一語ずつ確認し、解釈の余地を潰していく作業が続いた。
正午を過ぎた頃、先方の主任代理人がため息をついて言った。
「……わかりました。こちらの案で合意します」
渉外部長が「では調印の手続きを」と立ち上がった。
セシルは書類を整えながら、静かに息をついた。
終わった。
調印が完了したのは午後三時だった。
応接室から出て廊下を歩いていると、部長が「よくやった」と言った。
それだけで、あとは長官室に報告に行くと言って先に歩いていった。
渉外部に戻ると、リンが「終わったの!?」と声を上げた。
「終わりました」
「すごい、本当に……セシルがまとめたんでしょ?」
セシルはあいまいに笑った。
廊下を通りかかった記録部の職員が「お疲れ様でした」と言っていった。
法務部の先輩も、顔を出して「聞いたよ」と言った。
じわじわと、達成感が滲んできた。
夕方の全体集会で、エドワードが職員の前に立った。
「今月、渉外部がオルタス商会との長期契約更新を成立させた。院にとって重要な案件を、期限内に収めた」
簡潔な言葉だった。
「主担当のロウエル職員の働きを評価する」
名前を呼ばれた瞬間、室内の視線がセシルに集まった。
セシルは静かに立ったまま、頭を下げた。
耳が熱かった。
集会が終わって人が散り始めた時、廊下の向こうに見覚えのある顔があった。
クロードだった。
別の案件で来訪していたのか、廊下の端に立って今の様子を見ていた。
目が合った。
クロードは何か言いたそうな顔をしたが、何も言わなかった。
セシルも、何も言わなかった。
それぞれが、それぞれの方向へ歩いた。
渉外部に戻って、書類を片付けながら、セシルは窓の外の空を見た。
今日のことを、誰かに話したかった。
母に手紙を書こうと思った。
リンに、後で食事に誘おうと思った。
それから、長官室の灯りのことを思った。
今夜も、あそこに灯りがついているだろう。
名前を呼ばれた時のことを、もう一度思い出した。
エドワードの声は低くて短かった。
ただ事実を述べるだけの言い方だった。
それなのに、胸の奥でずっと鳴り続けていた。
机の引き出しから便箋を取り出した。
まず母への手紙を書こう。
ペンを走らせながら、セシルは少しだけ笑った。
自分が気づかないうちに、この場所が好きになっていた。
この仕事が、この建物が、この灯りが。
秋の夕空が、窓の外で静かに暮れていった。
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