選ばれなくてよかったと、今は思います

たくわん

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クロードへの返事を書いたのは、金曜日の夜だった。

会って話すことも考えた。
でも、書面の方が自分の言葉を整理できると思った。

何度か書き直してから、最終的に短くまとめた。

申し込みについて、お断りします。
理由を一言で言うなら、あなたではなく、私が変わったということです。

翌週の月曜日、クロードから返信が来た。

「直接話したい」

もう一度、断った。

今度は返信が来なかった。


水曜日の昼、クロードが文書院に現れた。

定例の案件ではなかった。
受付から連絡が来て、セシルは応接室に下りた。

クロードは立っていた。
今日は書類を持っていなかった。

「手紙を読んだ」

「はい」

「もう少し話を聞いてほしい」

「聞いても、答えは変わりません」

クロードは少し黙った。

「なぜだ。私は本気で——」

「本気だということは、伝わっています」

セシルは遮った。

穏やかな声で言えたと思う。
責める気持ちは、今はなかった。

「ただ、私の答えはお断りです。あなたの本気と、私の答えは、別のことです」

「……セシル」

「春に、あなたは正直に理由を言ってくれました。家格の不一致だと。私はあの時、言い返せなかった。でも今なら言えます」

クロードが顔を上げた。

「私があなたを選ばないのも、感情の話ではなく、私自身の話です。あなたと過ごした五年間は、確かにありました。でも今の私には、戻りたい五年間ではない」

「……どういう意味だ」

「仕事の話を、一度もできなかった。私がやっていることに、興味を持ってもらえなかった。それが寂しかったと、今になってわかります」

クロードは何も言わなかった。

「今日来てくださったことは、誠実だと思います。ありがとうございます」

セシルは一礼して、扉に向かった。

「待ってくれ」

「またのご来訪をお待ちしています。業務上の件でしたら、いつでも」

扉を閉めた。


廊下に出て、一人になった。

心臓が少し速かった。
でも、手は震えていなかった。

前回来訪の時は震えていた。
あの時と、今は違った。

階段を上りながら、体が軽いことに気づいた。

重いものを長く持っていたわけではなかった。
でも、置いてきた何かがあった。

渉外部に戻ると、リンが顔を上げた。

「どうだった?」

「お断りしてきました」

リンが少しの間、セシルの顔を見た。

「……すっきりした顔してるね」

「そうですか」

「うん。なんか、ちょっと違う顔」

セシルは椅子を引いて、書類を広げた。
窓の外に、冬の昼の空が広がっていた。
青くて、澄んでいた。
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