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エドワードがセシルを執務室に呼んだのは、金曜日の夕方だった。
渉外部の仕事が一段落した頃、使いの職員が「長官がお呼びです」と来た。
書類を持って長官室の扉をノックすると、「入れ」という声が返った。
「お呼びでしょうか」
エドワードは窓の方を向いていた。
振り返って、「座れ」と言った。
セシルは椅子を引いた。
エドワードは机に戻り、手元の書類に目を落とした。
沈黙があった。
いつもと少し違う沈黙だった。
何かを言う前の間に見えた。
「……話がある」
「はい」
エドワードがペンを持ち直した。
また沈黙。
「来月の渉外部の担当割りについて、確認したいことがある」
書類を一枚、机の端に押し出した。
セシルは受け取って、内容を確認した。
来月の案件リストだった。
「ご確認ですが、この担当者欄は暫定でしょうか」
「そうだ。正式な割り当ては来週決める」
「では確認の上、来週月曜日に報告します」
「……ああ」
エドワードは書類を手に取って、また置いた。
もう一度、沈黙があった。
セシルは立ち上がりかけて、それからまだ何か言いたそうな間があることに気づいて、止まった。
エドワードは手元を見ていた。
「……他にご用件は」
「いや」
「わかりました。では失礼します」
「待て」
セシルが止まった。
「……いや、いい」
「はい?」
「なんでもない。行け」
セシルは一礼して、扉を閉めた。
廊下に出て、少しの間立ち止まった。
今のは、何だったのだろう。
担当割りの確認なら、書面で済む話だった。
わざわざ呼ぶ必要がなかった。
結局、最後は「なんでもない」で終わった。
セシルは首をかしげながら、渉外部へと歩き出した。
執務室に一人残ったエドワードは、椅子の背に体を預けた。
また、できなかった。
言おうとした言葉があった。
しかし何と言えばいいのかが、最後まで出てこなかった。
仕事の話に逃げた。
担当割りなど、今日確認する必要はなかった。
エドワードは天井を見上げた。
八年前も同じだった。
大切なことが言えないまま、時間だけが過ぎた。
気づいた時には、相手は別の選択をしていた。
今回も、同じことをするつもりか。
自分に問いかけた。
答えは、出なかった。
いや、答えはわかっていた。
わかっているのに、どうすればいいかが、わからなかった。
不器用だな、私は。
ヴィクトルがかつて言った言葉を、自分で繰り返した。
苦い自嘲だったが、笑う気にはなれなかった。
窓の外に、冬の夜が始まっていた。
街の灯りが、一つずつ、遠くに灯っていた。
渉外部の仕事が一段落した頃、使いの職員が「長官がお呼びです」と来た。
書類を持って長官室の扉をノックすると、「入れ」という声が返った。
「お呼びでしょうか」
エドワードは窓の方を向いていた。
振り返って、「座れ」と言った。
セシルは椅子を引いた。
エドワードは机に戻り、手元の書類に目を落とした。
沈黙があった。
いつもと少し違う沈黙だった。
何かを言う前の間に見えた。
「……話がある」
「はい」
エドワードがペンを持ち直した。
また沈黙。
「来月の渉外部の担当割りについて、確認したいことがある」
書類を一枚、机の端に押し出した。
セシルは受け取って、内容を確認した。
来月の案件リストだった。
「ご確認ですが、この担当者欄は暫定でしょうか」
「そうだ。正式な割り当ては来週決める」
「では確認の上、来週月曜日に報告します」
「……ああ」
エドワードは書類を手に取って、また置いた。
もう一度、沈黙があった。
セシルは立ち上がりかけて、それからまだ何か言いたそうな間があることに気づいて、止まった。
エドワードは手元を見ていた。
「……他にご用件は」
「いや」
「わかりました。では失礼します」
「待て」
セシルが止まった。
「……いや、いい」
「はい?」
「なんでもない。行け」
セシルは一礼して、扉を閉めた。
廊下に出て、少しの間立ち止まった。
今のは、何だったのだろう。
担当割りの確認なら、書面で済む話だった。
わざわざ呼ぶ必要がなかった。
結局、最後は「なんでもない」で終わった。
セシルは首をかしげながら、渉外部へと歩き出した。
執務室に一人残ったエドワードは、椅子の背に体を預けた。
また、できなかった。
言おうとした言葉があった。
しかし何と言えばいいのかが、最後まで出てこなかった。
仕事の話に逃げた。
担当割りなど、今日確認する必要はなかった。
エドワードは天井を見上げた。
八年前も同じだった。
大切なことが言えないまま、時間だけが過ぎた。
気づいた時には、相手は別の選択をしていた。
今回も、同じことをするつもりか。
自分に問いかけた。
答えは、出なかった。
いや、答えはわかっていた。
わかっているのに、どうすればいいかが、わからなかった。
不器用だな、私は。
ヴィクトルがかつて言った言葉を、自分で繰り返した。
苦い自嘲だったが、笑う気にはなれなかった。
窓の外に、冬の夜が始まっていた。
街の灯りが、一つずつ、遠くに灯っていた。
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