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新たな道
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春が訪れた。
ノイシュタット領では、新しい季節とともに、さらなる発展が進んでいた。
エリザベートは、領地の東部を視察していた。そこには、新しく開発された農地が広がっている。
「お嬢様」
農務官クラウスが報告した。
「今年の作付面積は、前年比で二割増加しました。収穫も順調に進んでおります」
「素晴らしいわ」
エリザベートは満足そうに頷いた。
その時、騎士団長ヴォルフガングが馬で駆けつけてきた。
「お嬢様、隣のシュヴァルツヴァルト辺境伯領から、使者が参っております」
「シュヴァルツヴァルト?」
エリザベートは首を傾げた。
隣の領地だが、これまで交流はほとんどなかった。
「何の用件か、聞いている?」
「領主であるマクシミリアン・フォン・シュヴァルツヴァルト辺境伯様が、直々にお会いしたいとのことです」
「領主自ら?」
エリザベートは興味を持った。
「分かったわ。城に戻りましょう」
城に戻ると、応接室に一人の男性が待っていた。
三十代前半と思われる、長身の男性。黒髪に鋭い目。武人のような雰囲気だが、どこか知性も感じさせる。
「リヒテンシュタイン令嬢、初めてお目にかかります」
男性は立ち上がり、丁寧に一礼した。
「私は、シュヴァルツヴァルト辺境伯、マクシミリアン・フォン・シュヴァルツヴァルトと申します」
「ようこそ、マクシミリアン様」
エリザベートも優雅に一礼した。
「本日は、どのようなご用件で?」
「率直に申し上げます」
マクシミリアンは、真剣な表情で言った。
「貴女の領地経営について、教えを請いたい」
エリザベートは、わずかに驚いた。
「教えを、ですか?」
「はい」
マクシミリアンは頷いた。
「私の領地も、貴女の領地と同じく辺境にあります。そして、同じく貧困に苦しんでいました」
彼は窓の外を見た。
「しかし、貴女の領地は、わずか一年で見違えるほど発展した。その噂は、隣の領地にも届いております」
「それで?」
「私も、領地を変えたい。領民の生活を、向上させたい」
マクシミリアンの目は、真摯だった。
「どうか、貴女の知識を、分けていただけないでしょうか」
エリザベートは、しばらくマクシミリアンを見つめた。
その目に、嘘はない。
純粋に、領地のことを考えている。
「分かりました」
エリザベートは微笑んだ。
「喜んでお教えします」
「本当ですか!」
マクシミリアンの顔が、明るくなった。
「ありがとうございます」
「ただし」
エリザベートは続けた。
「私も、一つお願いがあります」
「何でしょう?」
「両領地の間で、相互協力の協定を結びませんか」
エリザベートは、地図を広げた。
「通行税の相互減免、商品の優先取引、技術の共有。お互いに協力すれば、両方の領地が発展します」
マクシミリアンは、地図を見て考えた。
そして、大きく頷いた。
「素晴らしい提案です。ぜひ、お願いします」
こうして、二つの辺境伯領の協力関係が始まった。
数日後、エリザベートはマクシミリアンを自分の領地に案内していた。
製鉄所、農地、学校、市場。
一つ一つ、丁寧に説明していく。
マクシミリアンは、真剣にメモを取りながら聞いていた。
「この輪作制は、本当に効果があるのですね」
「ええ。土壌の肥沃度を保ちながら、収穫量を増やせます」
二人は、自然と領地経営の話に熱中していった。
「製鉄所の収益は?」
「初年度で投資額の三割を回収しました。三年で黒字化する予定です」
「教育制度は、どのように?」
「基礎的な読み書きと算術を教えています。将来、領地を支える人材になってほしい」
会話は尽きなかった。
二人とも、実務家だった。
虚飾のない、現実的な話ができる。
数字とデータで語り合える。
「エリザベート様」
マクシミリアンが言った。
「貴女と話していると、時間を忘れます」
「私もです」
エリザベートは微笑んだ。
「こんなに話が合う人は、久しぶりです」
二人は、互いに笑い合った。
その後、マクシミリアンは頻繁にノイシュタット領を訪れるようになった。
領地経営の相談、技術の共有、そして単純に会話を楽しむために。
エリザベートも、彼との時間を楽しんでいた。
ある日、二人は領地の丘の上に立っていた。
夕日が、両方の領地を赤く染めている。
「美しい景色ですね」
マクシミリアンが言った。
「ええ」
エリザベートは頷いた。
「この景色を、もっと豊かにしたい。それが、私の夢です」
「私も同じです」
マクシミリアンは、エリザベートを見た。
「エリザベート様、貴女と出会えて良かった」
「私もです、マクシミリアン様」
二人の間に、温かな空気が流れた。
一方、王都では。
アレクサンダーは、ソフィアと最後の話し合いをしていた。
「本当に、離婚するのですね」
ソフィアは、冷たい声で言った。
「ああ」
アレクサンダーは頷いた。
「君は、改革に協力する気がない。ならば、別々の道を歩むしかない」
「私の実家は、慰謝料を要求しますわよ」
「分かっている」
アレクサンダーは書類を差し出した。
「これが、私が用意できる金額だ」
ソフィアは書類を見て、鼻で笑った。
「たったこれだけ? 私が我慢した苦労を考えれば、少なすぎますわ」
「これが限界だ」
アレクサンダーは、疲れた目で彼女を見た。
「ソフィア、君は変わらなかった。最初から最後まで」
「変わる必要なんてありませんわ」
ソフィアは立ち上がった。
「私は間違っていません。悪いのは、あなたですわ」
彼女は扉に向かった。
「エリザベート様を捨てたこと、後悔していますの?」
アレクサンダーは、しばらく黙っていた。
そして、正直に答えた。
「ああ、後悔している」
ソフィアの顔が、歪んだ。
「でも」
アレクサンダーは続けた。
「今は、もう彼女のことは考えていない。私には、やるべきことがある」
「そう」
ソフィアは、冷たく笑った。
「せいぜい頑張りなさい。没落した元公爵家の当主として」
そう言い残して、ソフィアは部屋を出て行った。
アレクサンダーは、一人残された。
結婚生活は、完全に終わった。
しかし、不思議と悲しくはなかった。
むしろ、肩の荷が下りたような気がした。
「さあ、前を向こう」
アレクサンダーは立ち上がった。
エリザベートの助言に従い、領地改革は着実に進んでいる。
まだ完全ではないが、確実に良くなっている。
領民たちの顔も、以前より明るくなった。
「エリザベート……」
アレクサンダーは小さく呟いた。
「君のおかげだ」
彼は、もう彼女に恋愛感情を持っているわけではない。
ただ、深い感謝と尊敬がある。
そして、自分も彼女のように、領地のために尽くしたいという決意。
数週間後、王宮で国王主催の晩餐会が開かれた。
エリザベートも、王国財政顧問として招待されていた。
会場に入ると、多くの貴族たちが彼女に挨拶してきた。
「リヒテンシュタイン令嬢、お久しぶりです」
「貴女の領地経営、素晴らしいと聞いております」
かつて、彼女を無視していた貴族たちが、今は媚びるように近づいてくる。
エリザベートは、丁寧に応対しながらも、内心では冷静だった。
人は、変わるものだ。
いや、変わったのは彼らではなく、自分の立場だ。
「エリザベート様」
振り返ると、マクシミリアンが立っていた。
「マクシミリアン様」
エリザベートは、心から嬉しそうに微笑んだ。
「お元気そうで」
「貴女もです」
二人は、自然と並んで歩き始めた。
その様子を、遠くからアレクサンダーが見ていた。
二人の間には、明らかに特別な空気が流れている。
互いを尊重し、信頼し、楽しんでいる。
「あれが……」
アレクサンダーは小さく呟いた。
「本当の、対等な関係か」
彼は、エリザベートとの婚約時代を思い出した。
あの頃、彼は彼女を理解しようとしなかった。
彼女の話を、「つまらない」と切り捨てた。
対等な関係など、築けていなかった。
「アレクサンダー様」
声がかかった。
振り返ると、別の令嬢が立っていた。
社交界での旧知の顔だ。
「お一人ですか? 奥様は?」
「離婚した」
アレクサンダーは短く答えた。
令嬢は、驚いた顔をした。
「まあ……それは……」
「気にしないでくれ」
アレクサンダーは微笑んだ。
「今は、領地経営に専念している。それで、充実しているんだ」
令嬢は、彼の表情を見て、少し驚いた。
以前より、ずっと落ち着いている。
成熟した、大人の男性の顔だ。
晩餐会が進む中、国王がスピーチを始めた。
「諸卿、本日は集まっていただき感謝する」
国王は、エリザベートを見た。
「特に、我が王国財政顧問、エリザベート・フォン・リヒテンシュタイン令嬢には、多大なる貢献をいただいている」
会場から、拍手が起こった。
「彼女の助言により、王国の経済政策は大きく改善された。税収も増加し、商業も活性化している」
国王は続けた。
「諸卿も、彼女に学ぶべきだ。性別や年齢ではない。実力こそが全てだ」
エリザベートは、優雅に一礼した。
晩餐会が終わり、エリザベートがテラスで休んでいると、マクシミリアンが近づいてきた。
「お疲れ様です」
「マクシミリアン様も」
二人は、並んで夜空を見上げた。
星が、美しく瞬いている。
「エリザベート様」
マクシミリアンが、静かに言った。
「一つ、お聞きしたいことがあります」
「何でしょう?」
「貴女は……誰かと、心を通わせたことはありますか?」
エリザベートは、少し考えた。
「以前、婚約者がいました。でも、それは本当の意味で心を通わせる関係ではありませんでした」
「そうですか」
マクシミリアンは、勇気を出して言った。
「では……私と、これから心を通わせることは、できますか?」
エリザベートは、彼を見た。
マクシミリアンの目は、真剣だった。
「マクシミリアン様……」
「私は、貴女を尊敬しています。そして、一緒にいると、心から楽しい」
マクシミリアンは続けた。
「もし、貴女が良ければ……もっと、深く知り合いたい」
エリザベートは、小さく微笑んだ。
「私も、同じ気持ちです」
二人は、互いに微笑み合った。
新しい関係が、始まろうとしていた。
対等で、互いを尊重し合う関係。
それが、エリザベートが本当に求めていたものだった。
ノイシュタット領では、新しい季節とともに、さらなる発展が進んでいた。
エリザベートは、領地の東部を視察していた。そこには、新しく開発された農地が広がっている。
「お嬢様」
農務官クラウスが報告した。
「今年の作付面積は、前年比で二割増加しました。収穫も順調に進んでおります」
「素晴らしいわ」
エリザベートは満足そうに頷いた。
その時、騎士団長ヴォルフガングが馬で駆けつけてきた。
「お嬢様、隣のシュヴァルツヴァルト辺境伯領から、使者が参っております」
「シュヴァルツヴァルト?」
エリザベートは首を傾げた。
隣の領地だが、これまで交流はほとんどなかった。
「何の用件か、聞いている?」
「領主であるマクシミリアン・フォン・シュヴァルツヴァルト辺境伯様が、直々にお会いしたいとのことです」
「領主自ら?」
エリザベートは興味を持った。
「分かったわ。城に戻りましょう」
城に戻ると、応接室に一人の男性が待っていた。
三十代前半と思われる、長身の男性。黒髪に鋭い目。武人のような雰囲気だが、どこか知性も感じさせる。
「リヒテンシュタイン令嬢、初めてお目にかかります」
男性は立ち上がり、丁寧に一礼した。
「私は、シュヴァルツヴァルト辺境伯、マクシミリアン・フォン・シュヴァルツヴァルトと申します」
「ようこそ、マクシミリアン様」
エリザベートも優雅に一礼した。
「本日は、どのようなご用件で?」
「率直に申し上げます」
マクシミリアンは、真剣な表情で言った。
「貴女の領地経営について、教えを請いたい」
エリザベートは、わずかに驚いた。
「教えを、ですか?」
「はい」
マクシミリアンは頷いた。
「私の領地も、貴女の領地と同じく辺境にあります。そして、同じく貧困に苦しんでいました」
彼は窓の外を見た。
「しかし、貴女の領地は、わずか一年で見違えるほど発展した。その噂は、隣の領地にも届いております」
「それで?」
「私も、領地を変えたい。領民の生活を、向上させたい」
マクシミリアンの目は、真摯だった。
「どうか、貴女の知識を、分けていただけないでしょうか」
エリザベートは、しばらくマクシミリアンを見つめた。
その目に、嘘はない。
純粋に、領地のことを考えている。
「分かりました」
エリザベートは微笑んだ。
「喜んでお教えします」
「本当ですか!」
マクシミリアンの顔が、明るくなった。
「ありがとうございます」
「ただし」
エリザベートは続けた。
「私も、一つお願いがあります」
「何でしょう?」
「両領地の間で、相互協力の協定を結びませんか」
エリザベートは、地図を広げた。
「通行税の相互減免、商品の優先取引、技術の共有。お互いに協力すれば、両方の領地が発展します」
マクシミリアンは、地図を見て考えた。
そして、大きく頷いた。
「素晴らしい提案です。ぜひ、お願いします」
こうして、二つの辺境伯領の協力関係が始まった。
数日後、エリザベートはマクシミリアンを自分の領地に案内していた。
製鉄所、農地、学校、市場。
一つ一つ、丁寧に説明していく。
マクシミリアンは、真剣にメモを取りながら聞いていた。
「この輪作制は、本当に効果があるのですね」
「ええ。土壌の肥沃度を保ちながら、収穫量を増やせます」
二人は、自然と領地経営の話に熱中していった。
「製鉄所の収益は?」
「初年度で投資額の三割を回収しました。三年で黒字化する予定です」
「教育制度は、どのように?」
「基礎的な読み書きと算術を教えています。将来、領地を支える人材になってほしい」
会話は尽きなかった。
二人とも、実務家だった。
虚飾のない、現実的な話ができる。
数字とデータで語り合える。
「エリザベート様」
マクシミリアンが言った。
「貴女と話していると、時間を忘れます」
「私もです」
エリザベートは微笑んだ。
「こんなに話が合う人は、久しぶりです」
二人は、互いに笑い合った。
その後、マクシミリアンは頻繁にノイシュタット領を訪れるようになった。
領地経営の相談、技術の共有、そして単純に会話を楽しむために。
エリザベートも、彼との時間を楽しんでいた。
ある日、二人は領地の丘の上に立っていた。
夕日が、両方の領地を赤く染めている。
「美しい景色ですね」
マクシミリアンが言った。
「ええ」
エリザベートは頷いた。
「この景色を、もっと豊かにしたい。それが、私の夢です」
「私も同じです」
マクシミリアンは、エリザベートを見た。
「エリザベート様、貴女と出会えて良かった」
「私もです、マクシミリアン様」
二人の間に、温かな空気が流れた。
一方、王都では。
アレクサンダーは、ソフィアと最後の話し合いをしていた。
「本当に、離婚するのですね」
ソフィアは、冷たい声で言った。
「ああ」
アレクサンダーは頷いた。
「君は、改革に協力する気がない。ならば、別々の道を歩むしかない」
「私の実家は、慰謝料を要求しますわよ」
「分かっている」
アレクサンダーは書類を差し出した。
「これが、私が用意できる金額だ」
ソフィアは書類を見て、鼻で笑った。
「たったこれだけ? 私が我慢した苦労を考えれば、少なすぎますわ」
「これが限界だ」
アレクサンダーは、疲れた目で彼女を見た。
「ソフィア、君は変わらなかった。最初から最後まで」
「変わる必要なんてありませんわ」
ソフィアは立ち上がった。
「私は間違っていません。悪いのは、あなたですわ」
彼女は扉に向かった。
「エリザベート様を捨てたこと、後悔していますの?」
アレクサンダーは、しばらく黙っていた。
そして、正直に答えた。
「ああ、後悔している」
ソフィアの顔が、歪んだ。
「でも」
アレクサンダーは続けた。
「今は、もう彼女のことは考えていない。私には、やるべきことがある」
「そう」
ソフィアは、冷たく笑った。
「せいぜい頑張りなさい。没落した元公爵家の当主として」
そう言い残して、ソフィアは部屋を出て行った。
アレクサンダーは、一人残された。
結婚生活は、完全に終わった。
しかし、不思議と悲しくはなかった。
むしろ、肩の荷が下りたような気がした。
「さあ、前を向こう」
アレクサンダーは立ち上がった。
エリザベートの助言に従い、領地改革は着実に進んでいる。
まだ完全ではないが、確実に良くなっている。
領民たちの顔も、以前より明るくなった。
「エリザベート……」
アレクサンダーは小さく呟いた。
「君のおかげだ」
彼は、もう彼女に恋愛感情を持っているわけではない。
ただ、深い感謝と尊敬がある。
そして、自分も彼女のように、領地のために尽くしたいという決意。
数週間後、王宮で国王主催の晩餐会が開かれた。
エリザベートも、王国財政顧問として招待されていた。
会場に入ると、多くの貴族たちが彼女に挨拶してきた。
「リヒテンシュタイン令嬢、お久しぶりです」
「貴女の領地経営、素晴らしいと聞いております」
かつて、彼女を無視していた貴族たちが、今は媚びるように近づいてくる。
エリザベートは、丁寧に応対しながらも、内心では冷静だった。
人は、変わるものだ。
いや、変わったのは彼らではなく、自分の立場だ。
「エリザベート様」
振り返ると、マクシミリアンが立っていた。
「マクシミリアン様」
エリザベートは、心から嬉しそうに微笑んだ。
「お元気そうで」
「貴女もです」
二人は、自然と並んで歩き始めた。
その様子を、遠くからアレクサンダーが見ていた。
二人の間には、明らかに特別な空気が流れている。
互いを尊重し、信頼し、楽しんでいる。
「あれが……」
アレクサンダーは小さく呟いた。
「本当の、対等な関係か」
彼は、エリザベートとの婚約時代を思い出した。
あの頃、彼は彼女を理解しようとしなかった。
彼女の話を、「つまらない」と切り捨てた。
対等な関係など、築けていなかった。
「アレクサンダー様」
声がかかった。
振り返ると、別の令嬢が立っていた。
社交界での旧知の顔だ。
「お一人ですか? 奥様は?」
「離婚した」
アレクサンダーは短く答えた。
令嬢は、驚いた顔をした。
「まあ……それは……」
「気にしないでくれ」
アレクサンダーは微笑んだ。
「今は、領地経営に専念している。それで、充実しているんだ」
令嬢は、彼の表情を見て、少し驚いた。
以前より、ずっと落ち着いている。
成熟した、大人の男性の顔だ。
晩餐会が進む中、国王がスピーチを始めた。
「諸卿、本日は集まっていただき感謝する」
国王は、エリザベートを見た。
「特に、我が王国財政顧問、エリザベート・フォン・リヒテンシュタイン令嬢には、多大なる貢献をいただいている」
会場から、拍手が起こった。
「彼女の助言により、王国の経済政策は大きく改善された。税収も増加し、商業も活性化している」
国王は続けた。
「諸卿も、彼女に学ぶべきだ。性別や年齢ではない。実力こそが全てだ」
エリザベートは、優雅に一礼した。
晩餐会が終わり、エリザベートがテラスで休んでいると、マクシミリアンが近づいてきた。
「お疲れ様です」
「マクシミリアン様も」
二人は、並んで夜空を見上げた。
星が、美しく瞬いている。
「エリザベート様」
マクシミリアンが、静かに言った。
「一つ、お聞きしたいことがあります」
「何でしょう?」
「貴女は……誰かと、心を通わせたことはありますか?」
エリザベートは、少し考えた。
「以前、婚約者がいました。でも、それは本当の意味で心を通わせる関係ではありませんでした」
「そうですか」
マクシミリアンは、勇気を出して言った。
「では……私と、これから心を通わせることは、できますか?」
エリザベートは、彼を見た。
マクシミリアンの目は、真剣だった。
「マクシミリアン様……」
「私は、貴女を尊敬しています。そして、一緒にいると、心から楽しい」
マクシミリアンは続けた。
「もし、貴女が良ければ……もっと、深く知り合いたい」
エリザベートは、小さく微笑んだ。
「私も、同じ気持ちです」
二人は、互いに微笑み合った。
新しい関係が、始まろうとしていた。
対等で、互いを尊重し合う関係。
それが、エリザベートが本当に求めていたものだった。
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