私はもう、あなたの所有物ではありません

たくわん

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第四章 対決と真実の暴露

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国王エルンストとの謁見は、簡潔だった。

国王は玉座を降り、リーゼの前に立って頭を下げた。王が平民でもない貴族の令嬢に頭を下げるなど、前代未聞のことだった。居並ぶ重臣たちが息を呑んだ。

「リーゼ嬢、王家の非礼を改めて詫びる。我が息子の愚行により、貴女に深い傷を負わせてしまった」

「陛下、お顔をお上げください。私は王家を恨んではおりません」

リーゼの声は穏やかだったが、毅然としていた。

「結界の修復に全力を尽くします。ただし、終わりましたら北方に戻ることをお許しください」

「もちろんだ。全て貴女の意思を尊重する」

謁見は短く終わり、リーゼたちには王宮の一角に客室が用意された。結界修復は翌日から始める手筈だった。


その日の午後、来客があった。

ヴァイセン伯爵、ルドルフ・フォン・ヴァイセン。リーゼの父だった。

客室の扉を叩いた伯爵の顔は、数ヶ月前より十年は老けて見えた。痩せこけた頬、落ち窪んだ目。背中も丸くなっている。

「リーゼ……」

父が娘の名前を呼ぶのは、いつ以来だろう。リーゼの記憶にある限り、母の葬儀の日が最後だった。

「お父様。お久しぶりです」

伯爵が部屋に入ろうとした時、アルヴィンが立ち塞がった。

「ノルトハイム公爵閣下。娘に会いに来た。少しだけ時間をいただきたい」

アルヴィンは冷ややかな目で伯爵を見下ろした。

「護衛もつけず娘を北方に送り出した方が、今更父親面ですか」

伯爵が顔を歪めた。だが言い返す力はないようだった。

「アルヴィン様」

リーゼが静かに言った。

「大丈夫です。少しだけ、話させてください」

アルヴィンは一瞬迷い、それから黙って道を空けた。部屋を出る際、伯爵に低い声で告げた。

「五分だけだ」

扉が閉まり、父娘が二人きりになった。


伯爵は椅子に座ることもできず、部屋の真ん中に立ち尽くしていた。

「リーゼ、お前が聖女だったとは……私は知らなかった。いや、気づこうとしなかった」

「お父様」

「グレーテルから聞いた。手紙のことも。あの子がお前の手紙を握り潰していたと。許してくれ」

リーゼは父の姿を見つめた。

かつて恐れていた父。冷淡で無関心で、娘の存在など眼中にないような人。その人が今、目に涙を浮かべて許しを請うている。

哀れだった。だが同時に、もう遅いとも感じた。

「お父様。恨んではいません」

リーゼの声は凪いでいた。

「あの日、北方への馬車に一人で乗った時、悲しかったのは確かです。見送りにすら来てくださらなかった。でも、あの馬車に乗ったおかげで、私は今ここにいます」

伯爵が顔を覆った。

「だから恨んではいません。でも」

リーゼは一拍置いた。

「もう家族には戻れません」

伯爵の肩が震えた。

「私の家族は、北方にいます。私を必要としてくれる人たちがいます。お父様にはお父様の、姉様には姉様の人生があるでしょう。どうかご自分の幸せを見つけてください」

それは訣別の言葉だった。だが冷たいものではなかった。むしろ、長い間胸の中に溜まっていた澱を、静かに流すような穏やかさがあった。

伯爵は何度か口を開きかけ、結局何も言えなかった。最後に小さく「すまなかった」と呟き、部屋を出て行った。


扉が閉まった後、リーゼは深く息をついた。

思ったほど辛くはなかった。涙も出なかった。北方に来る前なら泣いていただろう。だが今の自分には、帰る場所がある。

扉が開き、アルヴィンが入ってきた。

「終わったか」

「はい」

「泣いていないな」

「泣く必要がありませんでしたから」

アルヴィンはリーゼの顔をじっと見て、小さく頷いた。

「強くなったな」

「アルヴィン様のおかげです」

「俺は何もしていない」

「いいえ。全部、あなたのおかげです」

アルヴィンは少し困った顔をして、窓の方を向いた。耳が赤い。

リーゼは小さく笑った。北方に来てから、笑えるようになった自分が少し誇らしかった。
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