私はもう、あなたの所有物ではありません

たくわん

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第四章 対決と真実の暴露

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父の訪問から一日置いて、今度はグレーテルが来た。

リーゼは正直、会いたくなかった。手紙を握り潰し、ミレーユに情報を流した姉。だが門前払いにするのも違う気がして、客室での面会を受け入れた。

アルヴィンは「同席する」と言ったが、リーゼが「一人で大丈夫です」と告げると、渋々引き下がった。ただし「何かあればすぐに呼べ」と念を押された。

扉が開き、グレーテルが入ってきた。

リーゼは息を呑んだ。姉の変わりように驚いたのだ。

あの完璧だった金髪は手入れが行き届かず艶を失い、頬はこけている。目の下に隈があり、唇は荒れていた。社交界の華と謳われた面影は薄い。

「リーゼ」

グレーテルの声は掠れていた。

「姉様。お座りください」

促されるままに椅子に腰を下ろしたグレーテルは、しばらく膝の上の手を見つめていた。

「あなたに、謝らなければならないことがあるの」

「手紙のことですね」

グレーテルが顔を上げた。

「知っているのね」

「ええ。手紙を握り潰したこと。そしてそれがミレーユ・パーシヴァルの手に渡ったことも」

グレーテルの顔が蒼白になった。

「それは……私がミレーユに渡したのではないわ。引き出しに入れていたのを、侍女に盗まれたの。後からわかったことだけれど、あの侍女はミレーユに買収されていた」

「そうですか」

リーゼの声は平坦だった。侍女が盗んだにせよ、そもそも手紙を握り潰さなければこんなことにはならなかった。

グレーテルもそれはわかっているのだろう。唇を噛み、目を伏せた。

「あなたの手紙、本当は読んだの。二通とも」

「読んでいたのですか」

「握り潰したと言ったけれど、捨てられなかった。引き出しの奥に入れて、夜になると引っ張り出して読んだわ」

グレーテルの声が震え始めた。

「北方での暮らしが順調だと書いてあった。結界術の訓練に励んでいると。領地の方々に良くしていただいていると。それを読んで私は」

言葉が途切れた。グレーテルが両手で顔を覆った。

「嫉妬したの。あなたが新しい居場所を見つけて、幸せそうなのが許せなかった。私はずっとあなたより上だと思っていた。容姿も、才能も、家での扱いも。なのにあなただけが……」

嗚咽が漏れた。グレーテルの肩が小刻みに揺れている。

リーゼは黙って見ていた。怒りはなかった。悲しみもほとんどなかった。ただ、目の前の姉が一人の弱い人間に見えた。

「姉様」

「何よ」

「許します」

グレーテルが顔を上げた。涙で化粧が崩れ、素の顔が露わになっている。その顔は、取り繕うものがない分、正直だった。

「許すって……そんな簡単に」

「簡単ではありません。でも、恨みを抱えていても何も生まれませんから」

リーゼは穏やかに続けた。

「私は北方で学びました。大切なのは過去ではなく、これからどう生きるかだと。姉様にも、姉様の幸せがあるはずです」

「私の幸せなんて……侯爵家との縁談も、この騒動で白紙になったわ。社交界での評判もがた落ち。何もかも失ったのよ」

「それなら、何もないところから始めればいいのです。私もそうでした」

グレーテルは目を見開いた。何もない場所から始めた妹の姿が、今ここにある。かつて見下していた妹が、自分より遥かに強く、遥かに美しく見えた。

「あなた、変わったわね」

「変わったのではなく、ようやく自分を見つけただけです」

グレーテルは涙を拭い、立ち上がった。

「ありがとう、リーゼ。私には、もったいない妹だわ」

「姉様」

「大丈夫。私も、やり直すわ」

グレーテルは最後に小さく笑い、部屋を出て行った。その背中はまだ細くて頼りなかったが、来た時よりは少しだけ真っ直ぐだった。

リーゼは窓辺に立ち、空を見上げた。

家族との清算が終わった。全てではないかもしれない。でも今はこれで十分だ。

明日からは結界の修復に全力を注ぐ。それが今の自分にできる、最も大切なことだから。
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